Big Pipe:ブロードバンドの捉え方

【国内記事】 2001年7月2日更新

 日本でもブロードバンドの嵐が吹き荒れようとしている。

 IT革命はバブルと称され,昨年からドットコム企業の落ち込みが激しいが,それは特殊なビジネモデルを用いて資本市場から資金を調達していたベンチャー企業群の崩壊に過ぎない。IT産業,特にインターネットを中心とする情報通信産業は今後も更に拡大すると期待されている。そのIT産業の牽引役がブロードバンドだ。

 米国・韓国ではADSLを中心にブロードバンドのサービスが開花しているが,GDP第2位ながらインターネット後進国といわれる日本でも,ようやく政府が重い腰を上げ,IT産業に対するイニシアティブを取るようになった。そのために設立されたIT戦略会議の中で,2005年までに家庭内でもブロードバンドネットワーク(広帯域通信網)を敷設し,超高速インターネットを実現するとしている。まさにブロードバンドが国家のIT戦略の1つの目標となったのだ。今後10年間は,このブロードバンドがIT産業の中心的役割を担っていくだろう。

 では,ブロードバンドとは何を指すのか?

 ブロードバンドビジネスを捉えようとするとき,われわれはついネットワークインフラ部分にフォーカスしてしまう。確かに,ブロードバンドネットワークはインダストリーの最も重要なインフラだが,ネットワークだけではビジネスは進展しない。それは狭義のブロードバンドである。ブロードバンド事業を構築するためには,コンテンツ制作やコンテンツ配信といった機能が必要であり,またコンテンツを受ける為のソフトウェアやアプライアンスが必要になる。これら全てがそろって,はじめて1つの事業モデルが成り立つ。ここではネットワークのブロードバンド化(広帯域化)がトリガーとなって影響を受ける事業(コンテンツ事業からアプライアンス事業まで)の全体を捉えてブロードバンド・インダストリーと称したい。これを広義のブロードバンドと定義してもよい。これら全てを把握することで,日本型ブロードバンド社会の形成を見ることができると考えるからだ(図1を参照)。

 2001年以降,アクセス回線の広帯域化がインダストリー創出のトリガーとなり,その上でブロードバンド時代のコンテンツホルダー事業,コンテンツアグリゲーター事業,コンテンツ配信サービス事業,広帯域通信接続事業(ブロードバンドISP),アプライアンス事業等を花開かせるはずだ。そしてそれら構成要素が相互に連関してブロードバンド・インダストリーを形成していくだろう。さらには広告事業や電子商取引市場もこれらインダストリーに触発され,拡大していくことになる。

ブロードバンドの構成要素

 ブロードバンドインダストリーの全体構造は図2に示したような構造になる。横軸はコンテンツの流れを示したもので,コンテンツプロバイダー(提供者),コンデンツディストリビューター(配達者),ブロードバンドゲートウェイ(接続者),コンテンツレシーバー(受信者)の4つに分類することができる。縦軸は,各事業の階層を示したものだ。事業基盤整備としてのブロードバンド・インフラストラクチャー,システム・ネットワークオペレーティング,フロントサービス事業の3階層で構成される。

 このポジショニングの中でブロードバンドインダストリーは大きく5つの事業構成要素に分類することができる。

1. コンテンツ事業:コンテンツ製作者及びコンテンツを編集・管理・販売するコンテンツアグリゲーター,顧客とのゲートウェイ機能を有するISP,ポータル事業者など

2. コンテンツデリバリネットワーク事業:コンテンツ事業者のハウジングから負荷分散サービス等を手掛ける事業者,そのアウトソーシング先としてデータセンター事業者

3. ネットワーク事業:ブロードバンドネットワーク提供者,アクセス回線事業者(ADSL,CATV,FWA,FTTHなど),バックボーン回線事業者,デジタル放送事業者,ISPなど

4. レシーバー事業:ブロードバンドのアプライアンス(端末)提供事業者。その事業範囲はPC事業のみならず,情報家電市場へと拡大しており,日本の家電メーカーの復活が期待される。またストリーミングソフトウェア提供者もこれに入り,リッチコンテンツのブラウザ機能としてRealPlayer対WindowsMedia Playerのデファクトスタンダード競争が激化している

5. ブロードバンド・インフラ事業:1から3までの事業者のインフラ整備を行なう事業者,通信回線提供事業者,企業向けブロードバンドSI構築事業者,サーバ・通信機器ベンダーまで幅広く,現段階のブロードバンド・インダストリーで最も儲けている事業者。今後ブロードバンド事業者のプロユースからブロードバンドを利用するビジネスユースの開拓が注目される

 今後これらプレイヤーがほかの事業構成要素とアライアンスを組みながら,ブロードバンド事業での競争優位を確立しようと動いている。

大競争時代への突入

 2001年は,「ブロードバンド元年」といわれている。ナローバンド時代のビジネスモデルは終焉し,IT革命のステージが変わる。これまで優位だった企業のビジネスモデルが破綻し,新たなビジネスモデルが確立される可能性が出てきた。ブロードバンド・インダストリー市場への参入企業は,新興市場に対して戦略的に活動し,競争優位を構築することが望まれる。既存の業界内では弱小企業であっても,新たなステージでの戦略を構築すれば,成長の糸口を見つけることができるだろう。ブロードバンドによるビジネスモデルは未だ確立されている訳ではない。市場はまだ黎明期であり,これからも選択と集中による競争優位を確立することは可能だ。

 図4のように,1990年代までのナローバンド時代は通信業界での再編・統合が行なわれてきた。インターネットの登場は確かに各業界に影響を与えたが,各業界間の融合・再編までは行なわれなかった。しかし,2000年代のブロードバンド時代には広帯域通信網での放送事業が可能になり,通信・放送の融合を促進する可能性は高い。またブロードバンド時代でのビジネスモデル構築にあたり,垂直統合する動きも活発化,ソニー・松下などのエレクトロニクス業界やSI業界,コンテンツ業界も巻き込んだ大再編が起きる可能性もあるだろう。

 ブロードバンド・インダストリーは決して夢だけでは語れない,シビアな結果が待ち構えている。機会であると同時に脅威でもあるのだ。恐らく大規模な合従連衡が行なわれ,業界の崩壊・再編が進むはずだ。米AOL=タイムワーナーがそうであるように,現在注目されている企業がほかの企業に呑み込まれるケースが多く現れる。国内でも,ADSLのパイオニアである東京めたりっく通信がソフトバンクグループに買収されたというニュースは記憶に新しい。今後現れる新しい現実を恐れることなく冷静に見つめないと,ブロードバンド・インダストリーの可能性を見失うことにななるだろう。

今後ブロードバンドに関連したニュースが多くなるだろうが,多くの情報に対応していくには,体系的に認識する必要がある。その意味で,今回示したブロードバンド・イダストリーの枠組みをご活用いただきたい。ブロードバンドの構成要素別に情報を捉えていくと同時に,それらひとつひとつの事象がほかの構成要素に与える影響を予測することができる。本コラムでは,皆様方のブロードバンド関連ニュースの読み方支援としてニュースの背景,市場分析等を提示していく。楽しみにして頂ければ幸いだ。

[根本昌彦,ITmedia]

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