Big Pipe:Yahoo! BBの衝撃とNTT地域会社の対応

【国内記事】 2001年7月9日更新

ソフトバンクがやってくれた。「Yahoo! BB」というADSL事業は下り最大8Mbpsの伝送速度で,しかも初期費用3600円,月額接続料金990円,月額ISP料金1280円という恐ろしいまでの低価格である。またエリア展開でも8月中に首都圏全域および大阪,名古屋に拡大し,年内には全国の主要都市にまで広げるという。「年内に人口の7割をカバーし,100万人の会員獲得を目指す」(同社)。この衝撃は大きく,恐らくNTT地域会社や日本テレコムといった大手通信事業者を除く,ほかのADSL事業者はニッチ市場開拓者という位置付けになってしまうものと思われる。

 NTT地域会社も対抗手段を打ち出してくるだろうが,価格,エリア,スピードの3つの競争源全てにおいて,このままでは勝てない。ブランド面でも,Yahoo!とNTTでは完全なインターネット初心者でもない限り,互角である。

アクセス回線料金の比較

種別(会社別) 回線速度(最大) 月額料金
DSL NTT東西地域会社 1.5Mbps 3800円
(ISP料金を除く)
アッカ・ネットワークス 1.5Mbps 5700円〜
(ISPによる)
イー・アクセス 1.5Mbps 4980円〜
(ISPによる)
Yahoo! BB 8Mbps 2280円
光ファイバー Bフレッツ 最大100Mbps(ファミリー) 5000円
(ISP料金を除く)
有線ブロードネットワークス 100Mbps 6100円

 だが,このような低価格設定で同社の収益構造はどうなっているのか。Yahoo!BBとしては損益分岐点を「少なくとも,200〜300万ユーザーでビジネスとして成り立つ」と答えていた。逆にいえば,マーケットリーダーになるということを宣言しているのである。キャッシュが続きさえすれば,この数字は問題ないだろう。だが,問題は戦略ではなく,実行ベースである。実際に多数の申し込みがあると思うが,それを処理し切れるのか,取り付け工事業者が対応し切れるのかという問題である。例えば,NTTでは,申込みから開通までの期間を「数週間」としているものの,最近でもまだ1〜2カ月間も掛かるケースが多々あるという。Yahoo! BBが工事業者をどのくらい押さえているのかが勝負の分かれ目になる。

NTTの対応

 Yahoo! BBは,将来的にFTTHサービスを展開するブロードバンドアクセス回線事業者に変化するものと思われる。問題は,ADSLからFTTHへ移行するタイミングだ。一方のNTTは,ダークファイバーの低価格化,そしてNTT地域会社による独自ISP事業の可能性が焦点となる。

 NTTは,光IPサービスの低価格化を発表し,8月から本格的にFTTHの提供を進める。Bフレッツの「ベーシック」が最大100Mbpsで9000円,「ファミリー」が最大10Mbpsで5000円,マンション向けメニューが最大100Mbpsで3800円である。低価格化の背景には,ダークファイバーのコスト戦略の見直しがある。NTT東西地域会社も自社のダークファイバーを使ってサービスを提供するため,B・フレッツを安く提供するためには,ダークファイバー料金を引き下げる必要があるわけだ。1ユーザー当りのダークファイバー料金は,トータルコストを使用数を割って算出する。このため,使用率が高いほど安くなる。現在,光ファイバーの利用率はわずか10%程度。これを基にした接続料では月額約3万円にもなる。この水準では,FTTHの普及は遅れ,投資も回収できないと判断,NTT地域会社は今後数年間で光ファイバーの利用率を60%まで高めることを予測し,それを前提に料金の引き下げに踏み切った。だが,それでもISP料金を含めれば,もっとも安い集合住宅向けメニューでも5000円以上だ。このままでは,将来的にYahoo! BBにも有線ブロードネットワークスにも対抗できなくなるだろう。両者とも,独自ISP事業を含めて価格戦略を構築することが可能なのだから。しかし,NTT地域会社には,それができない。  

 NTTは,NTT法の改正によって地域会社の業務範囲を拡大しようとしている。うまく運べば,地域IP網の広域化とともに,NTT地域会社自らがインターネット事業へ進出することが可能になるだろう。地域IP網の広域化により,POI(相互接続点)が集約され,コスト負担が減少する。また,直接コンシューマーに対応するISP事業者になることで,接続料+ISP料金の価格設定が可能となる。

 一方,NTTにはISP事業者を対象としたバックボーン事業者になる道もある。確かに,今まで地域IP網の顧客で重要な収益源となりつつある既存ISPを敵に回し,自らISP事業を展開するのはリスクが大きい。ましてやYahoo!,有線ブロードネットワークス自身がISP事業を展開し,既存のISP事業者と競合関係になっている現状で,彼らはNTT地域会社の補完事業者となり得る。NTTは,既存ISPとの協調関係+収益源か,FTTHの価格競争力か,の板ばさみ状態。どちらを選択するかで,NTT地域会社+FTTHサービス市場の進捗度が決まるわけだ。ただし,NTT地域会社は,ISP事業を足掛かりに情報コンテンツ流通事業へ進出したいと考えているらしい。改正NTT法を受け,いずれかのタイミングでISP事業を展開してくるだろう。そうなれば,ISP業界のあり方も大きく変わってくる。

予見

 ここで1つの予見。ADSL市場は2003年〜2004年までアクセス回線事業の主導権を握る。だが2005年以降はFTTHが逆転するだろう。このタイミングで生き残っているADSL事業者はFTTH事業も展開しているし,それ以外のADSL事業者は,ISPが買収するか,大手ADSL事業者が買収・統合するか,倒産するかのいずれかの道を辿る。2005年までにはブロードバンドアクセス回線事業者がいくつも登場するが,最終的には5社程度までに集約されるだろう。

[根本昌彦,ITmedia]

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