ソニー・コンピュータに聞いた,PS2のブロードバンド戦略

イーサネットポートを装備したPlayStation用HDDユニットを出荷し始めたソニー・コンピュータエンタテインメント。「双方向で高品質の映像をやりとりできる環境が,われわれの考えるブロードバンド」という同社が考える,将来のビジネスモデルとは?

【国内記事】 2001年8月6日更新

 先日,イーサネットポートも装備した「Playstation 2」(以下PS2)専用ハードディスクドライブユニットを出荷し始めたソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEJ)。5月に開催されたE3(Electronic Entertainment Expo)では,米国でこの秋にキーボード,マウス,液晶ディスプレイを出荷し,AOL製ネットアプライアンスクライアントをベースにしたWebブラウザ,メールクライアントなども提供することが明らかにされた。これらは,液晶ディスプレイを除き,日本でも同じタイミングで投入される(液晶ディスプレイは検討中)。さらには「世界中のPS2がネットに接続するようになると,グローバルIPアドレス数の問題が出てくる」という理由で,米CiscoとPS2用IPv6プロトコルスタックを共同開発することを発表。ほぼすべてのPS2がインターネットに接続されることを,既に想定しているわけだ。着々とブロードバンドネットワークへと歩を進めているように見えるPS2について,SCEJに話を聞いた。

ネット端末機能は単なる付加価値ではない

 E3のために渡米した折,SCEJ常務兼CTO兼ブロードバンド事業本部長兼開発研究本部長の岡本伸一氏は,「インターネットコンテンツは第2のDVD」と話していた。これはどういう意味なのだろうか。Playstationはこれまで,専用コンテンツ(SCEJ用語ではPSフォーマットという)に加え,そのときに必要不可欠と思われるメディアフォーマットをサポートしてきた。SCEJでは,これらをジェネラルフォーマットと呼んでいる。PS1時代にはそれが音楽CDだけだったわけだが,PS2ではDVD-Videoへと対応の幅を拡大。そしてこの秋,各種のハード/ソフトを加え,インターネットコンテンツもPS2のジェネラルフォーマットとして取り込むことになったわけだ。

 しかし,われわれがPS2のDVD機能に続く第2の……と言われると,PS2のコンテンツがまだ少なかった頃にPS2本体の普及牽引役として活躍したというイメージが強い。これをそのままネット端末機能に当てはめると,ネット端末機能はさらなるPS2の普及を促すための付加機能という推測が成り立ってくる。

 これに対して,SCEJ広報部長の福永健一氏は「DVD機能は売り上げに大きく貢献したが,単なる付加価値として加えたわけではない。コンテンツクリエイターがコンテンツ発信を行う手法の1つとしてDVDを取り入れ,映画とゲームを融合したエンターテイメントを創造するためにサポートした」という。そして,今回のネット端末機能も,やはりインターネットコンテンツとゲームのメディアミックスを意識したもの。「さまざまな種類のメディアをクロスオーバーさせることで,より魅力的なエンターテイメントを実現できる。また,ゲームコンテンツのクリエイターだけでなく,ネットワークコンテンツのクリエイターにも,PS2というプラットフォームを強く意識して欲しかった面もある。インターネットが将来,ゲーム市場の可能性を広げるだろうし,ネットワークコンテンツが映像を駆使したものへと移行するきっかけにもできるのではないかと考えている」(福永氏)。

 ただし,SCEJが考えている“ブロードバンドネットワーク”は,世間一般でいわれているブロードバンドとは,想定している帯域が全く異なるという。一般には,1Mbps前後のADSL(よって上りはさらに遅い)や数百KbpsのCATVネットワークもブロードバンドだが,SCEJの考えるブロードバンドはもっと帯域が広い。具体的な数値は挙げなかったが「双方向で高品質の映像をやりとりできる環境が,われわれの考えるブロードバンド」(福永氏)という。そういえば,今年のE3ではHDTVフォーマットの動画をストリーム再生するデモを行っていた。上り下りともに数Mbpsの速度を想定しているのかもしれない。

 そうした広い帯域を使い,3Dとストリームビデオなどをミックスさせたインタラクティブコンテンツのプレーヤーとして,PS2を仕立て上げるというわけだ。

新しい秩序での新しいビジネスモデルを目指す

 もっとも,「では具体的にどのようなものを想定しているのか?」との問いに,明確な答えがあるわけではないようだ。そもそも,これまでブロードバンド専用コンテンツなど,登場したこともない。ましてや,特定機種向けコンテンツを展開して成功した例というと,さらに少ない。

 これに対して福永氏は「今までコンテンツが増えなかったのは,インフラ整備の問題があるから。今すぐにPS2向けコンテンツをインターネット経由で流すというのは,とても難しいことだと認識している。しかし,1つ引き金が引かれれば,堰を切ったように市場は大きく成長する可能性がある。その時期とは,双方向にリッチメディアが通信可能になるとき。SCEJ社内では,さまざまなアイデアも出ているし,試作レベルでは製作も行っている。将来,エンドユーザー向けコンテンツやサービスとして提供されることになるだろう」と話す。

 しかし同時に「どうやって儲けるのか。ビジネスモデルに関しては手探りの状態だ。ブロードバンド開発事業本部という部署で,いろいろな方向を模索しているわけだが,必ずしも現在あるビジネスモデルが良いとは限らない」(福永氏)とも言う。

 たとえば,別の機会に話を聞いたとき,前出の岡本氏は「コンテンツ配信ではビジネスにならないだろう。大規模型オンラインゲームも成功例が少ないことを考えれば,実際のビジネスとして難しくリスクの多い面がある。ユーザー同士のインタラクティブなコミュニケーションが鍵だと考えているが……」としながら,その先の話は言葉を濁していた。

 あるいは,マイクロソフトの「.NET」がそうであるように,PS2のブロードバンド対応コンテンツに関して,インフラとなり得るサービスや開発フレームワークをSCEJが抑えることで,プラットフォームホルダーとしてのSCEJの立場を守るというやり方もあるのではないか。SCEJは,PS2が持つ,機器ごと固有のIDを用いて個人認証を行ったり,月々定額で遊べるネットゲームを開発する際に,料金の徴収を行うためのフレームワークも提供する。だが,これも福永氏は「どうした仕組みを使うかはコンテンツクリエイター次第。われわれは,彼らの望むインフラを整備するのが目的であり,PS2フォーマットでの既得権益を守ろうとしているわけではない」と否定する。

 たとえば,音楽業界ではMP3の登場以来,レコード会社は既得権益を守るための策を著作権法のもとで施してきた。しかし,新しいパラダイムの中でも既得権益を守るため,同じビジネスモデルを押しつけていくのは無理がある。新しい時代,新しいメディアに対しては,新しいビジネスモデルを考えなければならない。それはSCEJでも痛烈に感じているようで,「CDやDVDという物理メディアでPS/PS2フォーマットのコンテンツを売ることでビジネスを行ってきたが,インターネットの世界でも同じ手法を続けていくのではなく,新しい秩序には新しいビジネスモデルが必要だ」(福永氏)と,その場で足踏みしながらも,旧来のビジネス手法を踏襲する気はない点を強調した。

 また,ソニーグループ内でのSCEJの位置付けに関しては「“インターネットは将来こうなる”という仮説に基づいて戦略を勧めるのではなく,グループ内の各カンパニーがそれぞれに良いインターネットの使い方を研究している段階。それをまとめ,全社的に1つの場所を目指す段階ではない」としたうえで,「将来,グループ内の戦略調整や再編を行う場合でも,きちんと道筋が見えてから考えればいい。そもそも,現在のPCとかゲーム機といったマーケットの区分も,それぞれがどういう位置付けになるかは将来にわたって分からない」と言う。ビジョンが曖昧という指摘もできるかもしれないが,むしろ,時代に合わせて柔軟な対応ができる体制を常に整えているということらしい。福永氏は,「当面は,各カンパニーで独自に研究開発を行えばいい」として,あくまでもSCEJとしての独自性を活かしていく方向を示した。

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[本田雅一,ITmedia]

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