日本テレコムとイー・アクセスが戦略的提携

日本テレコムとイー・アクセスがブロードバンド事業に関する戦略的提携を発表。併せてイー・アクセスが実施する第三者割当増資のうち,約40億円を日本テレコムが引き受ける。「1社では業界のスピードについていけない」と日本テレコム。

【国内記事】 2001年8月30日更新

 通信大手の日本テレコムとDSLベンチャーのイー・アクセスが手を組んだ。8月30日,両社はブロードバンド事業に関する戦略的提携を発表,併せてイー・アクセスが9月払い込みとして実施する総額90〜100億円規模の第三者割当増資のうち,約40億円を日本テレコムが引き受けることを明らかにした。これにより,日本テレコムはイー・アクセスの筆頭株主となる。

イー・アクセスの千本倖生社長

 イー・アクセスの千本倖生社長が「かなり高度」という提携の内容は主に4つ。ネットワークインフラの相互利用,営業面の協力,ネットワーク開発やカスタマーオペレーションにおけるノウハウ共有,そしてVoIP電話サービスを含む将来的なブロードバンドアプリケーションの共同開発だ。既に各分野で作業グループを編成し,協議を進めているという。

 両社が提携に至った背景には,「Yahoo! BB」の発表を契機としたADSL市場の急激な変化がある。急速な低価格化は需要の急増を招き,同時に回線のスピード競争も誘った。ADSLサービスの相場は,今や月額3000円前後。イー・アクセスやアッカ・ネットワークスはホールセール料金の値下げとフルレート規格(G.dmt)への切り替えを急ぎ,自社のペースを守り続けるかに見えたNTT東西でさえ,今年2度目となる値下げに踏み切ろうとしている。自前のサービスに拘り,昨年3月に「J-DSL」を開始した日本テレコムだったが,この数カ月間で一気に需要を奪われてしまったのは想像に難くない。

 日本テレコムの村上春雄社長は,「ADSL事業は自社だけでやっていく方針だった。しかし,業界のスピードについていけないと判断した」と述懐する。「多面展開のわれわれはリソースの配置が思うようにできなかった。DSLのノウハウと多くのパートナーを持つイー・アクセスと多面的に協力し,コスト低減を図る」(村上氏)。

 一方,大都市を中心に投資効率重視の事業展開を進めるイー・アクセスにとって,全国規模の光バックボーンを所有する日本テレコムとの提携は渡りに船。逆に中継回線のダークファイバー化はイー・アクセスのほうが先行している。また,リテール市場に強い日本テレコムと卸売りのイー・アクセスなら,販売面の相互補完的な協調も可能だ。そして,実績を持つ日本テレコムのカスタマーオペレーションは,ユーザーサポートを“別売”にしたヤフーに対して競争優位をもたらすという読みもある。「バックオフィスをしっかりして顧客満足度を一気に上げる。日本のADSL市場は世界でも例のない急激な値下げを体験したが,これ以上は“基本的に”できないだろう。それよりも,品質の確保とCS向上が最大の差別化になる」(千本氏)。

 一方,今回の提携がイー・アクセスのホールセール事業に影響を与えるとみることもできる。しかし,この点について千本氏は「これまでのパートナーと(日本テレコムを)差別する気はない。あくまでオープンでフェアな形を保つ」とした。

第三者割当増資の意義

 今回の発表でもう1つ注目すべき点が,第三者割当増資の額と出資者の顔ぶれだ。東京めたりっく通信や米Covad Communicationsの例が記憶に新しいが,日米のドットコムクラッシュは投資家のIT離れを招き,インフラ事業にもその波が押し寄せていると考えられている。しかし,今回の増資では,総額の11.3%(30億円弱)を米カーライル・グループが引き受けた。カーライルは,約140億ドルの資金を運用する世界最大級の投資グループ。「ADSL事業を見直せば,デマンドはコンスタントに伸びていることが分かる。とくに日本は,人口が密集していることによる投資効率の高さ,ラインシェアリング(ドライカッパー,ダークファイバー)を前提とした事業環境,米国の状況を踏まえたマーケティングなどから,潜在的な事業性は米国よりも遙かに高いと言える」(カーライル)。

中央左が日本テレコムの村上春雄社長,中央右がイー・アクセスの千本倖生社長

 また,米ゴールドマン・サックス,モルガン・スタンレー,シカモア・ベンチャーズ,プレミア・ベンチャーズなど,イー・アクセスの過去2回の増資を引き受けてきた顔ぶれも並ぶ。千本社長は,「3回で総額190億円におよぶ増資額は,独立系ベンチャーとして最も巨額なものだ。(イー・アクセスの)経営が高い評価を得たとともに,事業に十分な資金的な裏付けができた」と胸を張った。

 なお,資金の用途について千本氏は,「DSL事業の加速」と「コンテンツ開発への投入」を挙げた。8MbpsメニューやVoIPサービス,将来のFTTH推進に加えて,当座の低価格化も期待されるところだが,“基本的に”限界の料金をあえて下げるかは微妙なところ。今回は「フレキシブルな価格戦略」(千本氏)と表現するに止まったようだ。

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[芹澤隆徳,ITmedia]

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