Big Pipe:放送事業はブロードバンドの変化についていけるのか?

【国内記事】 2001年8月31日更新

 今回は,放送事業について語ってみたい。地上波放送局にとって,ブロードバンドは機会(チャンス)なのか,脅威なのか? おそらく,完全なる既存ビジネスモデルであったアナログ地上波の放送事業にとって,そのビジネスモデルを破壊するものであり,脅威だろう。その一方で,新たなディストリビューション経路を確保できると捉えるならば,機会となろう。地上波放送局が今後ブロードバンドで主導権を握るためには,大規模な投資が必要になる。 具体的には以下の3つだ。

 1つめは,デジタル地上波に関する設備投資。全体で6000億〜1兆円(地上デジタル放送懇談会の試算では9300億円),民放1社で66億円(民放連のアンケート調査による)かかるといわれている。特に地方局に関しては,投資とコストのバランスが合わず,投資1に対して効果0.5前後であるとされ,地方局の設備投資がボトルネックになる。キー局は,デジタル化への対応をするための新社屋/設備拡張に努めており,TBSとフジテレビは完了,現在日本テレビ,テレビ朝日が建築中だ。

 2つめは,デジタルBS放送とデジタルCS放送である。ご祝儀としての広告費が3月で打ち切られ,現在低予算でコンテンツを作らざるを得ない状況下にある。魅力あるコンテンツの不足→視聴者世帯数の伸び悩み→広告費低成長→低予算でのコンテンツ開発という悪循環に陥っている。

 広告費のパイをめぐり,BS放送は地上波と競争せざるを得ないが,現在のところ競争優位性がない。今後,110度CS放送が開始され,双方向テレビサービスを実現するといわれているが,そうなれば更に投資がかさむことになる。

 3つめは,インターネット放送事業である。今後ブロードバンド加入世帯数が増加し,ストリーミングでインターネット放送を閲覧するユーザーが1000万世帯に達すれば,それは間違いなく既存のテレビ事業を侵食することになるだろう。コンテンツ開発として,日本テレビはB-BAT,TBSはトマデジ,テレビ朝日,TBS,フジテレビの3社はブロードバンド向け映像コンテンツの配信事業についての共同企画会社を設立するなどの動きが見られる。

見誤れば投資が無駄に

 では,放送局はこれら3つの分野に等しく投資を配分するだけの体力はあるのだろうか? この投資配分のバランスにより,2010年までの勢力地図は大きく塗り変えられることになる。ブロードバンドアクセス回線の加入者数推移を大きく見誤れば投資が無駄となり,少なく見誤れば機会を失うとともに危機的状況に立たせられる可能性もある。ブロードバンドアクセス回線の普及は,有限資産である電波(周波数)を保持していたテレビ局の強みを薄れさせるのだ。また,デジタルBS/CS放送が普及しないという恐ろしいシナリオになれば,BSテレビ局は地上波放送局にとって単なる不良負債と成り果てる。

 いまだテレビ局の考えが明確には見えてこないのが実情だが,その一方で,放送事業を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。IT戦略会議の中でも討議されているが,周波数帯のオークション方式が採用されることになれば,新興企業が参入し,勢力地図が大きく変わる可能性もある。また,アナログ電波に関しても国民の共有財産として,利用料が徴収される可能性も否定できない。さらには,デジタル地上波放送のIP化が進むことになれば,放送ビジネスのあり方が大きく変わるだろう。デジタルIP放送とデジタルテレビと無線LAN,第4世代携帯電話,モバイルコンピューティングなどを活用した新たな事業環境が整うのかもしれない。

 ブロードバンドの動画コンテンツ配信がさかんになれば,放送事業のプレゼンスは高まる。その一方で,デジタル地上波,デジタルBS/CS,そのうえブロードバンドと設備投資額は増すばかり。この投資分を株式上場の資金調達で行うのか,それとも合従連衡としてどこかと資本提携を結ぶことで補うのか。これについて私は,新聞社などを含めた,新たな資本提携が行われるものと考えている。それは最大手の通信事業者のNTTかもしれないし,エレクトロニクス企業のソニー,松下か,メガISPを目指すniftyかBIGLOBE,So-net,OCNかもしれない。

ブロードバンドをポジティブに受けとめる必要

 放送局のアナログ放送波ビジネスモデルが崩壊するものは時間の問題だ。放送局がこの環境変化に対し,どのような戦略体系を構築するのか注目される。放送局は,自分たちの無形資産の強みをまだ認知していない。ポジティブにこの環境変化を捉えるのであれば,ブロードバンド時代の放送事業者は最強のコンテンツアグリゲーターとなれるのである。彼らは,委託放送事業者として編集機能を持っているとともに,何よりもマスメディアであるため,ブランド力という強みがある。コンテンツプロバイダーとしては,ブランド力=販売力のあるアグリゲーターを選ぶだろう。テレビ局というコンテンツアグリゲーターが受託放送事業者を利用したデジタルテレビ配信を行うとともに,コンテンツデリバリープロバイダー経由でアクセス回線で事業展開することも考えられる。

 「放送事業者は通信分野へ進出しない」という見方もあるが,ブロードバンドの浸透ととにも,コンテンツデリバリー分野でも「Napster」のような問題が現れるはず。放送局のコンテンツが,ユーザー間で簡単に交換されてしまう日がくるだろう。そのためにも,積極的に通信分野に進出し,著作権保護機能を確立し,合法的なビジネスフレームを確立する必要がある。そうすれば,放送事業者は間違いなくブロードバンドの担い手となるだろう。

[根本昌彦,ITmedia]

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