CEATEC:インターネットは放送になり得るか?

動画コンテンツを制作する放送局は,ブロードバンド時代の有力なコンテンツプロバイダーになると目されている。しかし……? 「CEATEC JAPAN 2001」で朝日放送の香取啓志氏が講演した。

【国内記事】 2001年10月5日更新

 「CEATEC JAPAN 2001」最終日となる10月5日,朝日放送放送技術局補技術センターの香取啓志氏が,「ブロードバンドコンテンツのあり方」と題した講演を行った。日常的に動画コンテンツを制作する放送局は,ブロードバンド時代の有力なコンテンツプロバイダーになると目されている。しかしながら香取氏は,インターネットを取り巻く周辺環境の整備が先であると慎重な構えだ。

 朝日放送は,1995年の阪神淡路大震災に際し,初のインターネットコンテンツを制作した。当時としては画期的なMPEG-1動画を掲載し,被災地の様子を見たいときに見ることのできるニュースソースとして多いに役立ったという。しかしながら,この数年間で状況は変わった。

「初期の頃は,まだクライアント数も少なく,情報がほしい人たちがすぐにアクセスできたが,米国同時多発テロ事件の例にあるように,最近はアクセスが殺到して見られないことも多い。これは,放送に使い難い状況といえる」(香取氏)。

 対して,TVならスイッチを入れればすぐに情報を得ることができる。受信できないときは,送信側のトラブルかTVの故障ということになるが,最近のTVは高品質でなかなか壊れはしない。一方,インターネットでは回線状況に加えてクライアント側の操作ミスといった要因も多いのがネックだ。

 その後,同社は夏の甲子園大会をストリーミング配信する試みを続けている。今年は,初めて300Kbpsの大容量動画を用いたが,これに伴って配信方法を若干変更した。50Kbpsのナローバンド用ファイルには,ストリームの先頭にCMを挿入して無料で配信したのに対して,300KbpsのコンテンツはCMを入れず,特定ISPからの接続に絞った。需要に見合うサーバや中継回線を導入するには,莫大なコストがかかるからだ。

 また,たとえ余裕のある設備を導入したとしても,インターネットではどこがボトルネックになるか分からない。香取氏は,「一度にくるアクセスをどう捌くか? そして,コストを吸収して利益をあげるビジネスモデルがどこにあるのか?」と問いかける。

 期待の高まるブロードバンドは,コンテンツ提供者に投資を求める。しかし,今のままではコストがかかりすぎてビジネスモデルが見えない。「今後,有料モデルも出てくるだろうが,(ブロードバンドが)果たしてそこまでグローバルになり得るかは分からない」(香取氏)という。

 問題はそれだけではない。デジタル化されたコンテンツは,容易に,かつクオリティを落とさずにコピーできてしまう。香取氏は,かつて安全といわれたDVD-Videoの状況をとりあげ,警鐘を鳴らしている。放送業界は,こうした議論の真っ最中だ。

 では,このまま放送局のコンテンツは電波の上だけのものになってしまうのだろうか。香取氏は,QoSやマルチキャストを利用するのが1つの方向性になるという。さらに,IPv6の普及,CEATECでも多数展示されていたホームサーバやSTBなどの進歩が問題を解決してくれることを期待している。光ファイバーのようなアクセス回線が普及すれば,数のメリットも期待できる。

「技術動向を注視している。これらの技術が出てくれば,(放送局にも)メリットのあるコンテンツ提供が可能になるかもしれない」(香取氏)。放送業界が本格的にインターネットにコミットするのは,まだ少し先になりそうだ。

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[芹澤隆徳,ITmedia]

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