Big Pipe:企業のブロードバンド回線はどうなる?

【国内記事】 2001年10月15日更新

 われわれは今まで,ブロードバンド回線といえば,ADSLFTTHCATVFWAなどと捉えがちだが,それらはどちらかといえば家庭向けサービスがメインのものであった。では,企業のブロードバンド回線でも同じようなサービスが提供されうるのであろうか。それとも異なる構成なのだろうか。

 大企業の場合,10BASE-T100BASE-TXLANが構築され,社内環境は高速化している。問題はビル・工場間でのイントラネットやエクストラネットによる外部環境との高速接続である。日本では,“通信ガリバー”NTTの戦略で,1990年代の光ネットワークインフラはISDNとATMを中心に動いてきた。特にATMを中心に都市部で高速ネットワークを構築しようとした経緯もあり,企業ではATMやフレームリレー,高速デジタル専用線で光バックボーンが活用されるにいたった。しかし,特にATMは高価なため,その利用は一部の大企業にとどまり,NTTとしてもATMの設備投資コストを考慮したうえでインフラを構築していたため,整備に時間がかかった。

 一方,米国や韓国では低コストのギガビットイーサネットWDMなどの技術が利用され,新たなブロードバンド・サービスが安価に実現されようとしている。それを利用したサービスの1つに,メトロポリタン・エリア・ネットワーク(MAN)事業がある。もはや,ATMを利用したサービスは重厚長大なものと捉えられており,これを中心に据えていたNTTの戦略は破綻しようとしている。

 では,メトロポリタン・エリア・ネットワークとは何か?

米国市場で爆発するMAN

 MANとは,都市部にイーサネットベースでインフラを構築した,広帯域の企業向け通信サービスだ。米国では2000年頃から急成長しており,ユーザー数は年間500%超の伸びをみせている。事業者はベンチャー系が多く,そのほとんどは別の事業者からダークファイバーを借りて都市部にバックボーンを構築,ATMやSONETは利用せず,レイヤー3スイッチやWDM装置を利用して安価なサービスを実現している。

 サービスとしては,インターネット接続サービス,MAN内部で拠点間のレイヤー2スイッチングを利用するIP-VPNや透過型LAN接続サービス,POP内でのハウジングサービスなどを提供している。MAN事業者は,都市部を中心に直径100キロ程度の光ファイバーネットワークをリング状もしくはメッシュ状に構築している。ネットワーク構成は,長距離系通信事業者やほかのサービス拠点,インターネット等POP間を結ぶ「メトロコア・インフラ」とPOPから企業ユーザーのビルまでを結ぶ「アクセス・インフラ」の2層構造になっている。ちなみに両者の間を「メトロエッジ」という。

 MANが注目を浴びる理由は2つある。

 第1点は,市販のレイヤースイッチを利用することで低コストなネットワークを構築し,100Mbpsを月間1000ドル程度と安くしている点である。米国では一般企業に広く普及していたT1(1.5Mbps)やT3(45Mbps)に比べるとビットあたりで格段に低コストである。

 第2点は,企業LANと同じくイーサネットの技術を利用していることだ。企業内LANは10BASEからファーストイーサネット,バックボーンでギガビットイーサネットへと高速化している。この利用環境のまま,外部との接続を考える(VPNやイントラネット)と,T1,T3ではもはや帯域不足であり,企業でのリッチコンテンツ配信のボトルネックとなっていた。光ファイバーを利用した広帯域のMANを利用する需要を企業側が持っているのである。

 多くのMAN事業者は事業範囲を1つの都市部に限定している。通常,ブロードバンド・アクセス回線事業者の場合は,投資回収と価格競争のために大規模化しなければならないが,MAN事業者の場合は,大容量通信需要が見込める大企業中心の都市部に集中し,事業の採算性を高めている。  ここ数年,Cogent Communications(ニューヨークなど10都市),TeraBeam(シアトル),Yipes Communications(サンフランシスコ),Intellispace(マンハッタン)など10数社のベンチャー系MAN事業者が台頭している。MAN事業者は主に3つに分類することができる。

 第1グループは,拠点間接続サービスを提供し,ISPASP,データセンターなどのプロフェッショナルユーザーを対象とする。バックボーン回線需要に対応した動きであり,これらの事業者は米国では“ELEC”(Ethernet local exchange carrier)と呼ばれる。

 第2グループは,イントラネット,エクストラネットを構築したい大企業向けサービスに対応した事業者である。

 第3のグループは,中小企業向けに5Mbps以上の高速インターネットサービスをオフィスビル・テナントに売る事業者で,“BLEC”(Building local exchange carrier)と呼ばれる。ADSL事業者と競合する。

 MANのサービスの特徴として,「プロビジョニング」というオンデマンドでの帯域供給サービスがある。1Mbps単位での増減が可能だ。MAN事業者側にこのサービスを全てWebからのサービスメニューで要求すると,数分以内にユーザーのネットワーク機器やPOPにあるアクセス収容機器が稼動しユーザーの要求に応じたサービスを実現する。データセンター事業者やISP,大企業でのブロードバンド配信など,時間によってトラフィックが大きく異なるケースが増えており,このようなサービスメニューは国内でも必須になるものと思われる。

 ただし,米国でもアクセス網が敷かれているオフィス・テナントの12%しか光ファイバーが敷かれていない。それ以外のビルでは未だメタル回線である。米国のMAN事業者も,通常は光ファイバーで対応するが,それ以外ではHDSLや赤外線レーザーによる無線LANで対応する予定だ。しかし,企業で求められるのはベストエフォート型のサービスではなく,ギャランティ型サービスである。米国のビジネス市場でDSLやCATVが失敗した理由がここにある。HDSLや無線LAN事業でも同じことがいえるだろう。

 米国のMAN事業は,過去1年間で500%も市場が成長した。では,現在の主流であるELECは,将来にわたってブロードバンド・プレーヤーの中心的存在であり続けるのだろうか。通信法で州間通信ができないBellSouthやSBC,VerizonなどのBell系地域電話会社は,今後間違いなくMAN事業に参入するはずだ。彼らがこのおいしい市場を取り逃す訳はなく,ブランド力と資金力をもって進出してくるだろう。今後,MAN事業を展開するにあたっては,メトロ・コアでのMPLS,ギガビットイーサネットの導入,メトロエッジ,アクセス回線部分では無線アクセスや3G携帯電話など多種多様なブロードバンド回線への対応を見越した巨額の投資が必要であり,ベンチャー系には厳しい環境が待ち構えている。いずれはADSLと同様,Bell系に吸収されていくことになるだろう。

日本でMAN事業は花開くのか?

 ダークファイバー市場の開放を機に,日本でもメトロでのアクセス・サービス事業が開花しようとしている。KDDIは「メトロリング」を2000年4月大手町と丸の内で,同年10月に大阪市中央区,NTT東日本が「メトロイーサ」,NTT西日本が「アーバンイーサ」を2001年3月下旬より開始した。丸紅・ヴェクタントグループのメトロアクセス(新宿),三菱地所,丸紅の丸の内ダイレクトアクセス,三菱電機情報ネットワークスのバックイースト・テレコムなど,東京を事業対象に陸続としてサービス事業者が登場してきている。また,長距離通信事業者のNTTコミュニケーションズも「Arcstarギガイーサプラットフォーム」を8月に発表した。

 企業ユーザーのニーズもフレームリレー,専用線サービスから今後はIP-VPNと広域イーサーネットへシフトすることはイニシャルコスト面,ランニングコスト面,提供速度面の3点から間違いなく,今後MAN市場は拡大するものと期待される。大企業の場合は,自社内LANのイーサネットに接続されていくわけだが,中小企業の場合,アクセス回線網は光なのか「フレッツ・ADSL」などのADSLサービスなのか,それとも無線LANとなるのか,この時点ではどれが当面のデファクトになるのか分からない。今後のアクセス回線事業者の動向次第で大きく変わっていくことになるだろう。

[根本昌彦,ITmedia]

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