さよならATM?――ブロードバンドはバックボーンもベストエフォートへ

広域を高速で結ぶWANでは,ATM専用線などを使うのが,これまで一般的だった。だが,高価なこの方法に代わって,バックボーンでDWDMとギガビットイーサを使い,安価なサービスを提供する動きが起こりつつある。

【国内記事】 2001年11月2日更新

 「帯域を保証してきた従来の通信キャリアのバックボーンサービスは,その一方で,一定の帯域以上にはなりえない“帯域制限型”でもあった」

 北海道電力系で企業向け専用線などのサービスをベースに事業を展開する通信事業者,北海道総合通信網(HOTnet)ソリューションビジネス部,IPエンジニアリンググループ主査の馬場聡氏は,東京・お台場で開催中の「e-Drive 2001」で講演,これまでのキャリアのサービスのあり方に,こう疑問を投げかけた。

HOTnetの馬場聡氏

 馬場氏によれば,電話の“チャネル”という概念をベースにした,「時分割多重方式(TDM)によるIP over SDH(SONET)」というのが,既存の大手通信キャリアのバックボーンサービスの実態だった。「いうなればWANの概念。新しいネットワークを構築するには,高価なATMの専用線が必要になった。そのため投資は大規模になる」(同氏)。

 しかし近年,1本の光ファイバーで10Gbpsを数十波多重できる技術「DWDM」が出現,状況が変わってきた。HOTnetでも2年前にDWDMを導入,SDH網とは別にIP網を構築することが可能になったという。

 これと前後してLANも急速に高速化した。イーサネットは,数年前までせいぜい100Mbps程度の伝送速度しかなかったが,「最近,米国では10ギガビットイーサ(GbE)が常識になっている」(同氏)。話題は100Gbpsや,1Tbpsのテラビットイーサにまで進んでいるという。

 こうした変化を背景に登場したのが,HOTnetの「L2L」というGbEを利用したバックボーンサービスだ。LANとLANを結ぶことからこの名称になっているが,このサービスでは契約者からイーサネット通信収容網までが帯域保証サービス。そしてDWDMを使った光ファイバー網上にGbEのパケットを流すバックボーン(中継回線)部分をベストエフォートサービスとして提供する。

 従来ならATMを使う部分にGbEを使うのがポイントで,高速で広域な都市内・都市間ネットワークが,安価で構築できる。実際,同社のサービスでは,10Mbpsが,市内網接続で9万8000円/月,バックボーン接続が8万8000円/月だ。100Mbpsでも,市内網接続が27万8000円/月で,バックボーン接続が24万8000円/月と,ATMに比べて格段に割安になっている。

 「(ルータが不要なので)WANのようにルータの複雑な設定もない。VLAN(仮想LAN)だから,セキュリティ上の問題も生じない」(馬場氏)。アクセスインフラのコストも,イーサネットを光に変換するメディアコンバータが10万円を切った。いずれは無線やDSLからのアクセスも可能にする予定だ。

低料金で普及が進み始めたGbEのバックボーン

 事業所間など,広域を高速に結ぶ必要のある企業・団体などでは,実際に同社のL2Lを採用するところも出てきている。

 「S市の水道局では10事業所間をL2Lで結び,図面(CAD)データや料金データ,財務会計データなどをやり取りしている。当初はATMを使う予定だったが,コストが嵩みすぎると言うことだった」(馬場氏)。

 S市の水道局では,L2Lネットワークのコストパフォーマンスを高く評価,事業所間だけでなく,局内ネットワークもこれで統合してしまった。「おかげでSIは大分困惑したらしい」。馬場氏はこう打ち明ける。この他にも,道内の大手食品販売店などが,L2Lのネットワークを採用しているという。

 L2Lの採用は,同社にとって必要に迫られた部分もある。「キャリア大手の“N社”のネットワークでは,N社型のサービスしか提供できない。これではHOTnetは勝負にならない。せっかく安くていいものがあるのだ。もっと世の中の動きに敏感になるべきだ」(同氏)

 HOTnetでは今後,北海道内のピアリングに積極的に参加,オープン化を図るとともに,GbEを主軸に据えてバックボーンを構築,ATMとの訣別を目指す。その上で,ホスティングやセキュリティなどの付加価値サービスをつけて,低価格のサービスを提供していく方針だ。

 「低料金への挑戦はキャリアの使命」。馬場氏は力強く,そう言い切った。

関連リンク
▼ HOTnet(北海道総合通信網)

[杉浦正武,ITmedia]

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