地方のIT化,成功例ありマス〜岡山県

「岡山情報ハイウェイ」が数少ない“地方IT化の成功例”といわれる理由は何か。県の主導で敷設されたこのネットワークを,「e-Drive 2001」の会場で,岡山広域産業情報システム部の美甘幸路氏が紹介した。

【国内記事】 2001年11月2日更新

 東京から西に約700キロ。「晴れの国」と称されるほど天候に恵まれた岡山県に,自治体主導で造られた高速ネットワークがある。数少ない“地方IT化の成功例”といわれる,この「岡山情報ハイウェイ」は,いかにして誕生し,成長してきたのだろうか? 「e-Drive 2001」の会場で,岡山広域産業情報システム部の美甘幸路氏が講演を行った。

 岡山情報ハイウェイは,県庁と県内数カ所にある地方振興局間を自前の光ファイバーで結んだ地域ネットワークだ。現在の総延長は450キロにおよび,帯域幅はATMの155M〜622Mbps。10カ所のPOPと1カ所のNOCがあり,学校や研究機関はもちろん,一般企業も無償で接続している。

岡山情報ハイウェイの概念図

 美甘氏によると,情報ハイウェイ構想が持ち上がったのは5年前の1996年だという。その背景には,地方ゆえに情報格差が広がるのではないか? という懸念があったようだ。もともと岡山県は,倉敷市や岡山市を抱える県南部と,大きな都市のない県北部で人口密度に差がある。県人口が195万人なのに対し,倉敷,岡山の両市だけで実に100万人を占めているのだ。このため,「ISPは採算のとれない場所(県北部)にはアクセスポイントなど置かないと予想できた」(同氏)。

 岡山情報ハイウェイの目的は,県民すべてにユニバーサルな情報サービスを提供し,コミュニケーションのバリアフリー化を図ること。そして,県庁と県民のグループウェアを構築し,地域ネットワークモデルを確立することだ。

自設か,借り上げか

 バックボーン構築に際しては,NTTなどの通信事業者から借りるか,自前で敷設するかという選択があった。自設に決めた理由は,まずコストだ。

 美甘氏によると,「自設すると約21億円が必要だったが,NTTに155MbpsのATMを借りると6年で(自設した場合の経費を)オーバーすることが分かった。また,保守などに年間7億円近くかかる計算になった」という。これに対して,自設した場合の保守費用は「年間1億円程度で済んでいる」。このほか,自前の回線なら,将来的に余った心線を市町村などに回すことができるという判断もあった。

 ネットワークポリシーの決定時には,CATV事業者やISPとの接続性を重視している。技術検討のために「インターネットワーキング技術コンソーシアム」(IWG)を組織し,実際にISPの代表を交えて話し合いが行われたという。ここで,地域IX(OKIX)の機能,ネットワークトポロジ,そして各POPにおけるハウジングスペースの機能などが決まる。

 美甘氏は,当時を振り返り,「第1種通信事業者と同レベルのクオリティを目指した」と話す。この努力が実り,情報ハイウェイを一般に開放した際には,県内のインターネット接続事業者の実に90%以上がハイウェイに接続。現在では,ほぼ100%になっているという。

 しかし,自設の作業は時間がかかり過ぎる。このため,1996年10月に「岡山県高度情報化実験推進協議会」を立ち上げ,“実験”という名目で借り上げたATMによる接続をスタート。徐々に自前の回線を増やしていく。当時のスピードは1.5Mbpsだったが,県の行政ネットワークと共有したため,「実際は1Mbpsも出なかった」という。

左が1998年4月,右は7月のNOC完成時点。回線はまだほとんどが借り上げ

2001年3月時点。当初の計画にはなかった迂回網まで作られた

 前述のように,現在の帯域幅は155Mbpsから622Mbps。常時40〜50Mbpsのトラフィックがあるという。ただし,大きなイベントなどがあった場合は「155Mbpsではつらい」(美甘氏)。

課題は増速とアクセス回線

 美甘氏が挙げた情報ハイウェイの課題は2つ。高速化とアクセス系回線の不備だ。

 「ATMで622Mbps以上にする場合,管理コストが急増するうえ,IP over ATMのボトルネックも問題になる」。このため,新たに光ファイバーを敷設し,GbE(10ギガビットイーサネット)化することを検討中だ。既設のATM網は残しておき,物理的に切り離されたセキュアなネットワークとして行政などが利用する。

 一方,いくら情報ハイウェイが高速化であっても,アクセスラインのサービスがかけていることから,企業の利用が拡大できていないという。また,一般市民もいつまでもダイヤルアップしているわけではない。急速に普及を始めたADSLによって,「NTTの地域IP網に(トラフィックが)流れている」状況だ。

 一番深刻なのは,ADSLなどのアクセス系商用サービスが展開される見込みのない不採算地域だ。ADSLの伝送距離をオーバーする場所,あるいは利益が上がらないと判断された場所では,いつまでたってもキャリアはこない。NTT地域会社ですら,ADSLはユニバーサルサービスではないと判断している。

 ユニバーサル情報サービスを目指す岡山県は,これを手掛けなければならないようだ。まず,2002年末までに78の市町村すべてを光ファイバーでハイウェイに接続し,アクセス系回線については「市町村(自治体)が音頭をとって,ADSLやCATVを導入することで解決する。こちらは来年にも動き出すだろう」。

 残念ながらまだ「数少ない」といわれる地方のIT化だが,岡山県が成功例といわれる理由は,こうした利用者本位の姿勢を貫いているからだろう。いくらお金をかけて線を引いても,利用したい人たちが使えなければ意味はない。美甘氏の「岡山情報ハイウェイのネットワークポリシーに“県のエゴ”はない」という言葉が妙に印象的だった。

関連リンク
▼ okix
▼ 岡山県

[芹澤隆徳,ITmedia]

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