Big Pipe:通信産業の失速とブロードバンドの行方

【国内記事】 2001年11月9日更新

 通信産業が失速しようとしている。欧米の通信不況,IT不況が日本にも波及し,通信事業者の業績は悪化している。

 11月22日に発表されたNTT持株会社の9月中間決算は,当期最終利益が2618億円の赤字となった。NTTの9月決算での営業収益(売上高に相当)は前年比5.8%増の5兆8064億円だが,経常利益は26.8%減の4034億円である。収益源はNTTドコモの「iモード」であり,同社は過去最高の売上高・経常利益を更新したが,如何せん固定電話を主力事業とするNTTコミュニケーションズ,NTT東日本,NTT西日本はマイラインの導入に伴なう値下げが響き,それらの大幅減収が足を引っ張った結果となった。

 さらに,NTTコミュニケーションズが買収したVerioやNTTドコモが出資したKPN Mobileの株価評価損,NTT東西の希望退職一時金などを合わせ,7624億円の特別損失を計上したことが巨額の最終損失をもたらすことになった。

 一方のKDDIや日本テレコムも減益である。e-Japan構想や成長するブロードバンド&モバイルを背景として日本の基幹産業と期待されていた通信産業だったが,果たして成長神話は崩壊したのか。そしてブロードバンド市場に対する影響はどうなるのか。

 失速の要因は

  1. 供給力過剰(過剰な設備投資)
  2. 設備投資が回収できない程の競争スピードの激化
  3. ハイテクデフレ現象
  4. それを反映した株価の下落
の4点が挙げられる。

 NTTだけを見ても,アクセス回線としてISDN,ADSL,FTTHとさまざまなラインアップをそろえている。過去の設備投資分を回収する前に新しい技術や製品を採用し,投資を続けなければ勝ち組に残れない状況だ。また,Yahoo! BBなど異業種の参入が供給過剰と競争激化に火をつけた。

 ADSLではYahoo! BBが,FTTHでは有線ブロードネットワークスが仕掛け役となって低価格化が進み,特にDSLの月額料金はこの1年間で6000円前後から3000円前後にまで下がっている。

 当初,NTTはFTTH,ADSL,ISDNの3つを段階的に設定する価格戦略を考え,ISDN事業に関わる投資の回収を狙っていたが,ADSLの急激な低価格化がそれを不可能にした。また,次世代規格といって価格を吊り上げることは市場拡大競争の中でもはや不可能となり,結局次世代規格・サービスでも前世代と同じ水準の価格設定をとらざるを得ない「ハイテクデフレ現象」が加速している。

 このような状況を受けて通信産業の成長性に疑問符が付き,株価も下落している。通信産業は21世紀の注力産業であり,巨額の設備投資をしても,いずれは成長するだろうと投資家は目をつぶってきた。しかしキャッシュフロー(現金収支)を生み出さないまま,携帯電話事業やブロードバンド事業など,さらなる設備投資がかさむ一方である。KDDIや日本テレコムは,設備投資で膨れ上がった借入金で長期資金調達が困難な状況に陥ろうとしている。

ブロードバンドへの影

 では,ブロードバンドに対しての影響はどうか。競争激化と供給力過剰はユーザー(需要側)にとって好ましい環境になっていると言えよう。DSLの加入者数が1年で300倍近くにも増え,100万ユーザーまで迫ったのは競争があってこそのもの。ブロードバンドを巡る市場環境は,急激に整ってきた。しかしその一方で,通信事業者の収益性が悪化し,設備投資に息切れが生じることで,市場に悪影響を与える可能性も否定できない。

 もちろん,競争を止め,社会主義的な計画経済のような供給者側の重視を筆者は望んでいる訳ではない。とはいえ,やはり半官半民体制となっているNTTの構造改革が必要なのではないだろうか? NTT法を廃止する代わりに独占禁止法で対処する。NTT間競争を促進するため,NTTコミュニケーションズとNTTドコモ,NTTデータの出資比率を50%以下にするか,完全別会社化する。

 慶応大学の林紘一郎教授は,NTT地域会社を期限付きで清算事業団化し,NTT持株会社を光ファイバー卸売事業者にするといったラディカルな改革が必要だと論じている。

 NTTは2002年春に社員10万人の移動を柱とするリストラを実行すると発表したが,今後は人件費の圧迫だけではなく,既存カッパー回線の負債化がNTT,ひいては日本の通信事業を引っ張ることになろう。出来るだけNTTを身軽にしておかないと,将来,かつての鉄道や道路公団のような恐ろしい負債になりかねない。それは,ブロードバンド市場に直接影響を及ぼすだろう。

通信事業者はどこへ

 通信事業の失速は,以前本コラムで紹介した「ブロードバンドの勝ち組と負け組」の中で説明した「賭け組」パターンそのものであるといえる。プラットフォーマーとして勝ち組に名乗りをあげるため,収支を度外視し,低価格で顧客を囲い込み,その上で収益性向上を図るビジネスモデルを展開しようとしている。

 通信事業者各社も単なる通信サービスでは利益が出ないことを前提に,回線上のアプリケーションサービスに軸足を移し,収益を確保してくるだろう。認証,課金,著作権処理,動画配信,電子マネーなど,情報流通プラットフォームといわれる付加価値事業だ。

 しかし,これらの事業こそ,本当の意味での異業種間競争となる。ソフトウェアプラットフォームでは,マイクロソフトが「Windows XP」をベースに付加価値事業を展開,ハードウェアプラットフォームのソニーや松下電器産業は機器内にこれらサービスを搭載して付加価値を高める。ISPや検索エンジンなどのポータル各社も独自にこれら事業を統合化,内包化しようとしている。

 このような状況下で通信事業者がどのくらい競争優位性を保てるのか,通信事業者各社も理解していないだろう。通信事業者は企業のブロードバンドインフラを構築することを前提としたソリューション事業なども展開し始めている。実際,NTTコミュニケーションズやKDDIなどの進出を恐れるSI事業者は数多い。

 通信事業者は,さらには,放送事業に対してもアプローチを始めるだろう。弊社のレポート「Broadband Media Industry」によれば,放送事業は通信事業に比べて投資効率が3倍〜4倍程度は良い。IP放送については未だ不透明な部分が多いが,通信事業者が収益性の向上を狙うのであれば,この放送事業に対して何らかの策を仕掛けてくるのは間違いないものと思われる。

[根本昌彦,ITmedia]

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