電通に聞く,「ブロードバンド広告の現状と今後」

まだ始まったばかりのブロードバンド広告。広告業界の雄,電通は,この市場をどう捉えているのだろうか。

【国内記事】 2002年2月5日更新

 なかなか市場の立ち上がらない,ブロードバンド広告業界。広告代理店最大手である電通は,状況をどうとらえているのか。インタラクティブ・コミュニケーション局のブロードバンド部長,峯川卓氏に同社の展望を聞いた。


電通の峯川卓部長

ブロードバンド広告は好調?

 同氏はブロードバンド広告について,「取り組むというのが基本方針」と話す。同社は昨年4月ごろからブロードバンドチームを立ち上げて,配信実験などを行っている。峯川氏によれば「昨年10月ごろからADSLの普及をうけ,いろいろ問い合わせが増えてきた」という。

 ユーザーの手ごたえについても「まだ実験が少なくて分からないが,ブロードバンド広告は心配したほどユーザーに嫌がられていない」(同)。

 通常サイト内に動画広告を入れ込む場合,音声はデフォルトで消しておくケースが多い。これは“音をいれるとサイトが重くなる”と嫌がるユーザーへの配慮だが,昨年のアンケートでは半数が「初めから音があってよい」と答えたという。

 「8割ぐらいが拒否するかと思っていたから,意外な結果だった。しかもこの調査はADSLが大幅に普及する前のもの。今ならもっと多くのユーザーがうけいれるかもしれない」。

 ただこうした要因がありながらも峯川氏自身,「少し動きが鈍いと思われるかもしれませんね」と笑うように,電通は表立った動きは少ない。これにはいろいろと,ワケがあるようだ。

業界はまだまだペイしない

 同氏はブロードバンド広告業界について,まだペイできる段階にないと話す。広告といってもストリーム配信する以上,配信側にそれなりのインフラもいるしコストもかかる。だが,それをカバーできるだけの広告費は,広告主から出ないという。

 「単に今までより2倍きれいな広告を流せるようになったからといって,広告主さんが2倍の広告費を払ってくれるか? それがいただけるなら苦労しないのだが」(同)。

 現状ではコンテンツプロバイダは広告料だけでは「無料ではとても折り合わない」という。せいぜいコンテンツが安く視聴できるぐらいが関の山のようだ。

横たわる著作権問題

 またブロードバンド広告では,広告の著作権も問題になってくる。テレビ広告などは立派な著作物であり,権利関係をクリアしなければ,ネット上で使い回すことができない。

 「ビデオのVHSが急速に普及した80年代ごろに,ちょうど同じような議論があった。その時に問題になったのは,そもそも広告制作物の著作権はどこにあるかというもので,広告主,広告会社,制作会社のいずれに属するかでもめた」(同)。

 そもそも広告は,上記の3者のうちどこが企画するかがその都度異なるほか,制作もどこが主導するかはケース・バイ・ケース。このためはっきりとした取り決めはなかったが,全日本シーエム放送連盟(ACC)が「広告主のためにやっているんだから,メディアは問わないように」ということで収めたという。

 ただし,その際に「出演者と使用された音楽は,尊重するように」ということになった。これが現在も,広告の著作権問題として残っているわけだ(1月15日の記事参照)。

 同氏は「タレントが広告に出ると,すぐにその“色”がつく。彼らはイメージを大事にするから,インターネットのようなあやしい要素のあるメディアには出たがらないケースも多い」とも話した。

水面下で準備を進める電通

 こうした状況下で電通が現在構築を進めているのは,広告が個別に持つ“許諾情報”を自動チェックするシステム。これは広告を何日まで,どの地域で配信するかといった点について照会し,契約内容に違反した場合にアラートが出るというもの。「今期中にはプロトタイプが出る」(同)という。

 研究は,同じく業界大手の博報堂とも共同で進めている。業界ネット動画広告の草創期に,しっかりとシステムを組んでおきたいという考えのようだ。

 まだ未成熟な市場をにらみ,慎重にネット動画広告を推進する電通。峯川氏は今後について,年末にはブロードバンドユーザーが1000万に達するという各紙の予想を挙げながら「1000万となると,状況も変わるかもしれない」と話した。

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[杉浦正武,ITmedia]

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