ブロードバンドで日本再生はなるか? ――中谷巌氏

不況が叫ばれる中,日本企業はブロードバンド化の波にどう対応していくべきか。三和総研の中谷巌理事長は現状を痛烈に批判しつつ,その道筋を示した。

【国内記事】 2002年2月12日更新

 ブロードバンド化の波に対して,日本企業はどう対処すべきなのだろうか? 先週幕張で開催された「NET&COM 2002」では,三和総合研究所理事長の中谷巌氏が講演を行い,企業の歩むべき道筋を示した。


NET&COM会場での中谷巌氏

 中谷氏は企業を取り巻く環境について,ますます厳しさを増していると話す。

 まず,情報技術がもたらす“商品価格の下落”がある。中谷氏によれば,従来,取引において売る側と買う側には「情報量の非対称性があった」。つまり買う側は,商品価格についての情報量が絶対的に不足していたため,「だまくらかされて」いたずらに高い価格で購入することがあった。

 ところがインターネットの普及によって,情報の非対称性が崩れてきた。買う側はWeb上であちこちの販売価格を縦横に調べ,一番安い価格で購入することができるようになった。これにより,商品の価格は一番安い価格に収斂したという。

 「DVDプレーヤーは2000年の3月に4万円だったものが,いまや1万円にまで下がっている。DRAMに至ってはこの一年で,価格が4分の1にまで暴落した。それでいて製品の出荷台数は変わっていない。これでもうかるわけがない」(同)。

 さらにこれに追い討ちをかけるのが,“グローバライゼーション”だという。中谷氏は中国の例を挙げながら,日本企業の苦戦を予想する。

 「中国の労働供給力は無尽蔵。こうした人々が日本の30分の1の賃金で働くのだから,中国企業の作る製品は極めて安くなる」(同)。

 日本企業の頼みの綱は高度な技術力だが,これも中谷氏によればそれほどのアドバンテージとはいえない。

 「大阪にダイキンというエアコンメーカーがある。この企業が先日,非常に高機能なエアコンを作り,これで真似できまいと意気込んでいたら,なんと3カ月で中国企業が同様の製品を作ってきたそうだ」(同)。

 ダイキン側はそのエアコンを見て,“これはパテント(特許)違反だ”と中国に怒鳴り込んだという。というのも,ダイキンのエアコンには構造上,ミスによってまったく意味のない場所に穴が空いていた。ところが中国製品は,その穴まで模倣していたのだ。

 「怒り心頭のダイキンに対して,中国側はニヤニヤしながらこういったそうだ。『いや,われわれの模倣力はそれほど完璧になったのですよ!』。向こうにすれば,『日本だって昔は似たようなことをしたろう』という感覚なのかもしれない」(中谷氏)。

 こうした流れは「止めることのできないもの」(同)であり,それによって製品はどんどん「コモディティ化」(=日用品化,安くなること)する。企業の収益構造は悪化し,それが日本の経済界の停滞をもたらすという。

 「そもそも不況の原因として,政策が悪いだの不良債権のせいだの,みんな政府のせいにしているが,究極的には企業の収益モデルが悪いのが問題。企業が利益を上げられないのに何をやったってダメなのだが,そのことに多くの人は気付いていない」(同)


中谷氏が示したグラフ。「株主資本利益率と日経平均株価はほぼ相関している」と,不況の本質が企業の収益構造にあることを示した

ブロードバンドで「形式知」を省け

 上記の事態に対する対策として,同氏は企業が「暗黙知」の部分を持ち,「形式知」の部分を省力化することを挙げる。「暗黙知」とは,説明の難しい,ほかの企業に真似できない部分。逆に「形式知」とはほかの企業が真似できる,システマチックな部分のことだ。

 「たとえばイチロー選手はあれだけヒットを打てるが,なぜ打てるのか周りは説明できない。たぶん,本人も説明できないだろう。これは,他人に真似できない技術。イチロー選手が“暗黙知”を持っているということで,彼はそれによって自分の価値を維持している」(同)。

 いっぽう形式知は,効率的な伝票の処理であったり,入金の確認方法であったり,能率的な会議システムであったりする。中谷氏によれば「われわれは仕事の8〜9割をこうした情報処理にかまけている」。この点をブロードバンド化したIT技術に乗せ,アウトソースしてしまうことが重要だという。

 「形式知のバリューは,いまや限りなく低減している。こうした部分はカットして,そのぶん自社の独自性を追及すべき」(同)。

4つの成功パターン

 中谷氏が成功パターンとして,具体的に挙げるのは4つ。

 1つ目は「コスト削減追求型」で,アウトソースなどにより徹底したコストダウンを目指す。ユニクロなどが成功した手法がこれだ。「この場合,注意しないといけないのは自ら価格を破壊していかないといけない点。後追いでは消耗戦になるだけで,苦しい」(同)。

 2つ目は「バリュースライサー型」で,これはコアコンピタンスを徹底的に特化するというもの。IntelのPentiumプロセッサなどがこれにあたる。「特化を進める以上,ハイリスク・ハイリターンになるのが特徴だ」(同)。

 3つ目は「バリューオーガナイザー型」。別名“ブランド戦略”ともいう。ルイ・ヴィトンやソニーのVAIOなどの成功例がある。「日本人はこの戦略が下手。というのもブランド(=暗黙知)確立のためには,常に品薄感を出しておくことがカギになるからだ。戦後成功した松下電器の『水道哲学』のように,安くていいものをどんどん売ろうというのではうまくいかない」(同)。

 4つ目は「トータル・ソリューション型」。顧客の複雑な欲求を充足するため,個々のニーズを満たすサービスを提供していくことが必要となる。IBMや富士通の「サポート&サービス」がこれにあたる。「顧客管理を徹底すること,そしてサービスコストを削減することが課題だ」(同)。

 中谷氏は“企業の構造改革なしに日本経済は復活しない”と喝破する。企業は資本の論理に沿って,アウトソースを行い,選択と集中を進めるべき,ということだ。同氏は経営者に対し,「ブロードバンド戦略にリーダーシップを発揮して取り組むように」と,重ねて主張していた。

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[杉浦正武,ITmedia]

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