Big Pipe:米国ブロードバンド市場を占う3つの動向

米国のブロードバンド市場で,戦略的な意味を持つ動きが見えてきた。『ブロードバンドアクセス回線によるユーザーの確保』『コンテンツ配信事業をめぐるハリウッドの動き』,そして『ストリーミング配信ビジネスとノンPCビジネス』の3つだ。

【国内記事】 2002年2月13日更新

 米国のブロードバンド市場で,戦略的な意味を持つ動きが見えてきた。すなわち,『ブロードバンドアクセス回線によるユーザーの確保』『コンテンツ配信事業をめぐるハリウッドの動き』,そして『ストリーミング配信ビジネスとノンPCビジネス』の3つだ。米国のブロードバンド市場をリードする企業群は,これにどう対処しているのか,整理してみよう。

 現在,下記のような4つの分野から企業がブロードバンド市場に参入し,市場を形成しようと動いている。

事業分野事業者
(1)CATV放送事業者 兼ISP事業者1. AT&T Comcast,2. AOL TimeWarner,3. Cox Communications
(2)通信事業者兼DSL事業者1. SBC Communications,2. Verizon Communications,3. BellSouth
(3)コンテンツビジネス系1. Disney,2. 20th Century Fox Film,3. Universal Studios,4. Sony Pictures Entertainment
(4)コンピュータ系1. Microsoft,2. Sony/Sony Computer Entertainment

 まず,ブロードバンドアクセス回線市場の動きから述べると,CATV ISPとして君臨してきたExcite@Homeの倒産は衝撃的な出来事であった。これによってComcastによるAT&T Broadbandの買収に影響を与えたことはいうまでもない。

 全米には,加入者数1000万世帯を超える2つのCATV事業者が誕生した。AT&T ComcastとAOLTimeWanerである。前者はCATV事業の水平的な拡大であり,後者はコンテンツまで配信まで手掛ける垂直的な拡大だ。今後,どちらのビジネスモデルがブロードバンドに適しているのか注目される。AOL TimeWarnerと対立を深めるMicrosoftは,AT&TにもComcastにも出資しており,今後AT&T Comcastにも役員を派遣し強い影響力を持つこととなる。

 通信事業者では,新興DSL事業者のNorthpoint Communications,Covad Communications,Rhythms NetConnectionsが倒産したこともあり,ベル系の独占的地域電話会社(ILECs)のSBC Communications,Verizon Communications,BellSouthが強い(昨年11月の記事を参照)。ベル系地域会社は,コンテンツを取り囲む戦略には消極的であり,むしろ長距離電話事業やデータ送信事業など,電話事業の総合化サービスへの道を追及しようとしている。今後,ブロードバンド配信をめぐる競争は,AT&T Comcast+Microsoft,AOL TimeWarner+Sonyを軸に展開すると考えられる。

 また,コンテンツ配信事業をめぐるハリウッドの動きでは,SPE(Sony Pictures Entertainment)主導の「Movie.fly」とDisney主導の「Movies.com」がある。前者はSPE,TimeWarner,Paramount Pictures,Universal Studio,MGM(Metro-Goldwyn-Mayer Studios),後者にはDisneyと20th Century Fox Filmが参加している。この事業の中で,AOLは自社のCATV回線&ISP事業を,Universal Studioは衛星事業のエコスターを活用したい考えがある。

 Sonyは,自社の戦略商品のテレビ,パソコン,PDA,ゲーム機「PlayStation2」をコンテンツ配信のゲートウェイとして考えているし,MicrosoftもAOLタイムワーナーと対立するDisneyと手を組み,「Windows Media Player」を普及させることで,Windowsサーバの事業拡大を狙っている。

 一方,地上波テレビ局や番組提供会社はハリウッド会社の傘下に組み込まれており,今後のハリウッド会社の戦略に対応した形で積極的にブロードバンド配信に対応しようと考えているが,キラーコンテンツのスポーツ中継(メジャーリーグ,バスケットボール,アメリカンフットボール)に関してはNBA,MLA,NFLが独自配信か高価な配信権ビジネスを展開しようとしているため,その動きを静観している状況だ。

集約されたストリーミングビジネス

 ストリーミングソフトウェア事業者のビジネスは,Microsoft,Real networksの2大事業者に集約されつつある。特にMicrosoftは,動画配信事業の強化に向けて着々と準備を進めている。

 Microsoftは,「Windows Media Player」をWindows XPで無償提供することで,利用者の数を圧倒的に普及させ,それを背景に対応する配信サーバや,それに関連するデータベース,認証サーバなど配信ビジネスシステム全般の関連商品で儲ける仕組みを考えている。

 この戦略は,全世界共通である。米国においてMicrosoftは,PC市場に変わる家電市場とブロードバンド市場のコンバージェンスを問題としている。Windowsは,あくまでもパソコンを中心としており,家電向けのWindows CEの普及戦略は現段階では成功していないためだ。

 今後,ブロードバンド家電がPCに代わる市場として成長した場合,このビジネスが崩れる可能性が高い。そこでMicrosoftは,CATVで全米最大のAT&T Comcastに出資してAOL TimeWarnerに対抗しており,AT&TのSTB(セットトップボックス)にはWindowsが搭載される可能性が高い。

 またゲーム機部門では,将来的にPCに代わるホームコンピュータになる可能性が高いPlayStation 2に対抗するため,「Xbox」を投入した。コンテンツに対しては著作権管理技術「Windows Media Technologies」を整備。コンテンツを暗号化し,そのための複合化処理サーバを提供している。

 一方,RealNetworksは,現時点においてNo.1ストリーミング企業であり,シェアは55%(ちなみにMicrosoftが40%,そのほか5%程度)ある。プレイヤーへの課金とサーバ販売が事業の収益源である。しかしMicrosoftのOSバンドル戦略に競争優位性が危ぶまれており,その対抗上,RealNetworksはAOL TimeWarnerやSonyとの関係を深めようとしている。

 とくに,sonyとの提携により,Playstation 2に「Real Player」が搭載される。PlayStation2には「DNAS」が搭載されているが,これは機器の認証のみであり,コンテンツ自体に保護をかけている訳ではない。したがって,動画コンテンツ配信の場合,Real Systemの著作権保護技術を利用することになる。今後,PCに代わってPlaystation 2や提携しているNokiaのPDAなどが普及すれば,PCのみならずデバイストータルとして競争優位が保たれると考えているのだろう。

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[根本昌彦,ITmedia]

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