見えてきた「街角無線インターネット」の商用サービス

「街角無線インターネット」の商用サービス化を4月に控えたモバイルインターネットサービス。商用化時のサービスエリア,料金,そしてホットスポットの“パブリック化”がもたらすものとは? 同社の真野浩社長に聞いた。

【国内記事】 2002年2月18日更新

 「街角無線インターネット」を標榜し,無線LANインフラの面展開を進めるモバイルインターネットサービス(MIS)。昨年9月からは,実験エリア内にアカウント送付先の住所を持っている人なら誰でも実験に参加できるようになり,利用者が飛躍的に増えた。既にモニターは2000人を超え,商用サービスに向けた手ごたえを掴んでいるようだ。4月からの商用サービスを目前に控えた同社の真野浩社長に,その戦略を聞いた。


モバイルインターネットサービスの真野浩社長

 MISのビジネスモデルを語るうえで,重要になるのが「セキュリティ」と「パブリック化」という2つのキーワード。真野氏はまず,無料ホットスポットを進めるIBMの「ビジネスモデルを考えなければ便利」という言葉を否定した。「それはセットメーカーの理論だ。キャリアは社会的な責任を負わなければならない」。

 その責任の一端が,ユーザーのプライバシー保護。指摘される無線LANのセキュリティ問題として,ユーザー認証に使われるESS ID(Extended Service Set ID)とWEP暗号化の脆弱性があるが(詳細は過去記事を参照),「MIS方式」では,WEPキーもESS IDも使わない。「基本的に,ESS IDもWEPキーも,すべてのユーザーに知られることが前提になってしまう。新しい利用者が入るたびに鍵を入れ替えることは運用面から言っても難しい」(真野氏)。

 MIS方式で採用したIP Mobility技術は,ダイナミックな鍵交換とユーザーごとの鍵設定が可能になる点がメリット。通信中は,APとユーザーの間に個別のIPセッションを張り,その間を暗号化する。ドライバソフトと認証サーバの間でワンタイムのパスワード(鍵)を交換するため,「仮に鍵のやりとりが傍受され,後からその鍵を利用しようとしても,既に使えなくなっている」のが特長だという。

パブリック化の意味

 もう1つのキーワード「パブリック化」は,ホットスポットを有料化するための前提条件となる。

 同氏が例として挙げたのは,ホテルの駐車場。一般的に,ホテルの駐車場に車を駐車できるのは宿泊者のみであり,この場合,駐車場はホテルに宿泊する際の“付加価値”ということになる。仮に,その地域にある他のホテルが駐車場を持っていなければ,宿を選ぶ際の決め手になる可能性が高い。ただし,あくまでも本業を補うだけで,駐車場自体が利益を生むことはない。ホットスポットでいえば,IBM印のスポットがこれにあたるだろう。

 「しかし,近くにショッピングセンターがあれば,駐車場の一部を買い物客向けに開放して料金を取ることが可能になる。これが,駐車場を“パブリック化”する意味だ。通信可能な場所を完全にパブリックにすれば,利用者も納得する」。

 一方で真野氏は,NTTコミュニケーションズの「Hi-FIBE」を“パブリック化されていない”例として挙げた。理由は,ホットスポットの展開がモスバーガーやブレンズコーヒーといった提携先に限られていることだ。

 「モスバーガーだけでは,ユーザーに(飲食店の)選択の余地がない。そこでユーザーのコスト(=負担)が発生しているのに,さらにコスト(料金)を発生させるのはおかしな話だ」。

 必要なときに“使いたい場所”で利用できる無線LANサービスなら,有料化してもユーザーはついてくる。これがMISの目論見だ。

改札を出てから数分でスポットに

 ただし,パブリック化は同時に,サービスエリアの広さを要求する。MISの基地局増設ペースは,苦労して作った「東京ホットスポット案内」を,掲載当日に“旧版”にしてくれたほどだが,利用者から見ればまだまだ十分とはいえない。商用サービス化にあたり,どこまでサービスエリアは広がるのだろうか。

 真野氏によると,「まずは密度を上げる」ため,港区,中央区,新宿区,渋谷区,千代田区の5区を対象として,4月までに500カ所に基地局を設置する計画だという。

「とくに,利用者の多い地下鉄やJR線の駅周辺をターゲットにする。地下鉄の駅構内に設置することはまだできないが,改札を出て数分歩いたら利用できる,という状況になるだろう」。

 実現すれば,ビジネスユーザーが“とりあえず”は納得できるレベルと評価できるかもしれない。


エリア拡大の秘密兵器,その名も「MIS Tower」。無線LANアクセスポイントやルータなどを内蔵しており,電話線(ADSL回線など)と電源をつなぐだけでホットスポットが完成する。既に,第一ホテル東京などで稼働中だ

 また,MISは「地域コミュニティパートナープログラム」を開始し,各地の通信事業者に参加を呼びかけている。コミュニティパートナープログラムは,MISが認証システムやドライバなどを提供し,地域事業者が基地局の設置と運営を担当するというもの(2月8日の記事を参照)。

「MISが技術を提供し,代わりにMISのユーザーがその地域に行ったときは接続させてもらう。MISとパートナーは,基本的にバーターの関係だ」。

 15日には,大分県のコアラがこれに名乗りを上げた(別記事を参照)。また,18日には京都の「みあこネットプロジェクト」とIPv6実証実験を開始すると発表している(別記事を参照)。こうしたパートナーシップが広がれば,ビジネスユーザーは出張時でも同じ環境を利用できるようになるだろう。

気になる料金は?

 最も気になる料金について尋ねてみた。エリアの広くなっても,料金が見合わなくては,申し込む人はいないだろう。一方,利用料金と利用者数が設備投資に見合わなければ,街角無線インターネット自体が事業としてなりたたなくなる。料金設定には,微妙なバランスが求められる。

 以前,ある経済誌は,MISの月額料金を「3000円」と予測した。これは,基地局の設置コストなどを試算した結果なのだが,真野社長は「それでは敷居が高い」と否定する。

 「届け出前なので言えないが,仮に月額2500円でも,利用者1人あたりの年間売上げが3万円。十分な額だと思う」。微妙な言い回しだが,月額2000〜2500円という予測は成り立ちそうだ。

「街角無線インターネット」よ,さようなら


 こう言ってはなんだが,少し野暮ったい印象を受ける「街角無線インターネット」。「サービス内容を正確に表した名称」「素朴でいい」と評価する向きもあるが,やはり商用サービス時には,別のブランド名に置き換えられてしまうらしい。ちょっと残念?

MISはゲリラ?


 パブリック化された無線LANは,所有者が意図しない場所をもホットスポット化してしまう。飲食店などの場合,これが客回転率を下げる可能性があり,そのため,MISのサービスを“ゲリラ的”と評する声がある。

 もちろん,真野氏は負けていない。「映画館や一部の喫茶店などが携帯電話の電波を遮断しているように,無線LANを遮断することはできる。しかし,いまどき携帯電話が使えない店で待ち合わせする人はいないでしょう?」。

 インフラとしての認知度が違う携帯電話と無線LANを同一視することに違和感はあるが,何ともいえない説得力がある。逆に言えば,真野氏の言葉は,無線LANを携帯電話レベルの公衆インフラに育て上げる,という意志表示なのだろう。

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[芹澤隆徳,ITmedia]

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