連載 2002年5月10日 09:21 PM 更新

Streaming Now!〜流れをつかめ!
P2Pストリーミングの可能性 part 2〜シェアキャストとBlue Falcon

単なる「視覚上の遊び」といってしまえばそれまでだが、ネットワークトポロジーをグラフィカルに表示する「シェアキャスト」は、P2Pの妙な連帯感を感じさせてくれる。米国ラスベガスで行われた「NAB 2002」で、ビットメディアにその詳細を聞いた。

 ずいぶんと御無沙汰してしまった。実は4月5〜11日、米国ラスベガスで行われた「NAB 2002」を取材してから、いろいろと考え込んでしまい、原稿が書けなくなってしまっていたのである。情けなや。今回は、以前、書いてからホッタラカシにしてしまっていた「シェアキャスト」の話を中心にP2Pストリーミングの話をしたい。これ、日本の技術なのだが、実はNABで仕入れた話なのである。

何故かNABでビットメディアがシェアキャストのデモ

 シェアキャストの基本的なお話は、以前書いたこちらのページを参照していただきたい。ここで「このあたりについては、後日、お話を聞き、正確にレポートしたいと考えている」と書いた。そのチャンスは意外にも米国で訪れた(というより、「お前は自分から積極的に取材しないのか!」という話である……)。何と、NABで映像新聞社が出しているブースにおいて、ビットメディアがシェアキャストの道具一式(といってもPCと小型カメラとマイク)を使ってデモしていたのだ。そこでビットメディアの高野雅晴社長にいろいろとお話を聞いた(高野氏も前回の記事を読んで、私の画面写真を面白がって見てくださったとのことである)。

シェアキャストの法則:「親が死んだらジジイに頼る」

 何はともあれ、前回は私のほうも、単に実験に参加して面白がっていただけなので、サービスの概要をきちんと説明する必要があるだろう。まず、このシェアキャストはASPの形で提供されるサービスである。で、このシェアキャストでは通常のストリーミングサーバのほかに、仲介サーバと接続鍵サーバという2種類のサーバが使われる。

 (1)まず接続鍵サーバに接続して、そこで接続のためのチケットを発行してもらい、(2)そのチケットを使ってアクセスしに行くと、仲介サーバが、「ここに接続すれば?」と、ノードを紹介してくれるので、そこに接続するというワケである。  かいつまんで言うと、そういうことになる。「ノード」というのは、繋がるポイントのことであり、このシェアキャストのP2Pの仕組みの中では、おおもとのサーバであったり、どこかのユーザであったりするわけだ。

 まず、一番気になっていた点。自分が繋がっている人、つまり自分にとって「親」の関係にある人が受信をやめてしまったらどうなるか、という点を質問した。答はズバリ、「おじいさんに問い合わせて接続に行く」とのことである。ここでは特にインテリジェントな仕組みがあるワケではない。単純に、「さっきまで繋がっていたところより上に遡る」という仕組みをとっているらしい。

 ただし、ここで接続し直されるまでにはある程度の時間が必要となる。というワケで、私が試していた時に途切れたのは、(1)別の要因で途切れた(2)私に忍耐力がなく、繋ぎ直すのを待てなかった、のいずれかであったのだ。いずれにしても、「親から勘当されてもおじいさんが面倒を見てくれる」ということは分かった。

 このあたり、Blue FalconやらVtrailsやらの、いわゆる「インテリジェントなシステム」とはちょっと違う。あちらはサーバで一括してトポロジーを管理しており、「常に最適なノードを探し出して近いところに接続しにいく」という仕組みをとっている。その分、賢いと言えば賢いのだが、そのサーバが落ちてしまえばアウトである。

 が、シェアキャストはもっとシンプルで、仲介サーバは空いているノードを紹介するだけ。誰かがトポロジーを管理しているワケではなく、何かあったら、それぞれのユーザーが「おじいさん探し」をするようにできているのだ。ヘンな話、一度繋がってしまえば、仲介サーバが落ちても大丈夫というワケだ。

やはりグローバルIPアドレスが必要

 次に、「私の下に人がぶら下がっていなかったのは何故か」という件だが、これは単に、「私がルータを使って接続し、プライベートアドレスを使っていたため」というだけの話であった……(IPアドレスをグローバルにしても、アクセス制限を設定しているからダメだっただろうが)。

 ルータを使っている人がシェアキャストを使って自分も中継できるように送るようにするためには、アドレス変換をきちんと設定してグローバルアドレスを持つ必要があるというワケだ。そうしなくても受信はできるが、「世のため人のため」というこのシステムには参加できないことになってしまう。みんながルータを使っていたらなかなかこのシステムの良さを活かすことができない。が、私は自分の下に人が繋がっているトポロジー図を見たい。なので、そのためにルータの設定を変更して試そうとしている……。

Mac版がないのはWindows MediaのSDKのせいだった……

 もう1点。「どうしてMacで使えるようにしてくれないのか?」という話であるが、これは別に「シェアの低いMacはシカトする」ということではなかった……(私の被害妄想だったようだ)。

 実は、このシェアキャストの大枠での仕組みは、フォーマットやプラットフォームには依存しないように設計されている。例えば、ビットメディアは現在、「Darwin Streaming Server」を使って配信する方法も研究中であるとのことである。

 では、どうしてMacで扱えないのかというと、「ストリーミングを受信して、それを他の人に送る」というリレー部分で、Windows Media TechnologyのSDKが使われているからなのである。まあ、普通に考えれば、MacにもWindows Media Playerがあるワケだから、問題なさそうに思えるでしょ? ところが、このSDKはMacに対応していないというマヌケな話なのである。

 要約すると「せっかくみんながクロスプラットフォームのことを考えていても、マイクロソフトがWindowsのことしか考えてないからこういうことになるんだよ、オラオラ!」ということになる。ただ、「Macユーザーは受信だけならできる」という仕組みであれば実現可能なので、それはそれで期待したいところだ(本来のこのシステムの思想からは離れてしまうが……)。

Blue Falconから登場したオンデマンドP2P

 ところで、このP2Pなストリーミングというヤツ、基本的にライブストリーミングでしか使えないと思っていたのだが、実はそうでもなかった。Blue Falconは、以前からP2Pストリーミングで頑張っている会社だが、NABにおいて、「オンデマンド型P2Pストリーミング」なるものを展示していた。

 どういうものかというと、まず、ストリーミングデータを、内部的に分割された形で持っているのだ。詳細までは分からないが、例えば5分のデータをストリーミングしようとした場合、0〜30秒、30〜60秒、60〜90秒という形で、10分割されていると考えればいいだろう。そして、そのデータに対して、さまざまな人がアクセスする。

 で、その後にアクセスすると、10個のプログレスバーが表れ、「過去にそのデータにアクセスした人のキャッシュを掻き集めて1つのストリームにしてしまう」というものなのだ(!)。

 私が見たデモは、どうも1つのファイルとしてダウンロードされていたようであった。

「これはデータの著作権上、マズいのではないか?」と質問したところ、「例えばファイルにならないように80%だけをダウンロードするということが可能だ」という話であった。「このキャッシュのためのサーバが必要なのではないか?」と聞くと、「私は技術の人間じゃないのでよく分からないが、どこかにキャッシングされたものなのだろう」ということであった……。

 まあ、オンデマンドであればライブほど集中する心配もないので、どこまで有効なのかは分からない。スゴい技術だとは思うのだが、配信する側としては、「はて。そもそも、何でダウンロードじゃなくてストリーミングにする必要があったんだっけ?」と悩んでしまいそうな気もする。限りなく「分散ダウンロード」に近いシステムなのだから……。

 とはいうものの、まだ私の情報は不正確だと思う。60日後には正式にリリースされるといっていたので、6月を目処に、もう一度正確な記事を書きたいと思う(そんなんばっか……)。

シェアキャスト応援宣言

 ネットワーク帯域は限られているので、こういったP2Pの技術が今後、ますます注目を集めるようになるのは間違いない。優秀な技術も各社からどんどん投入されてくるであろう。

 そんな中で、このP2Pの妙な連帯感を感じさせてくれるのは、トポロジーをグラフィカルに表現してくれるシェアキャストだけだ。もちろん、これは機能にはまったく影響しない部分だし、単なる「視覚上の遊び」といってしまえばそれまでだ。

 が、私にはその「遊び心」がすごく意味のあることのように思えるのだ。いや、別に『ストリーミング受信ゲーム!〜君はあの子の愛のストリームを受けられるか?』といったサービスの登場を期待しているワケではない(そんなもの、あっても流行るワケがない)。このトポロジー図は、活用されても、活用されなくてもいい。とにかく、繋がりが見えるということが、このワケの分からないネットの世界の中で何かの意味を持つような気がしてしょうがないのだ。

 単なるトポロジー図を相手に熱くなり、自分でも何を主張したいのか分からなくなりつつあるが(笑)、とにかく、私はこのトポロジー図がある限り、シェアキャストを応援すると心に決めているのである。

関連記事
▼ P2Pストリーミングの可能性〜シェアキャスト実験参加レポート
▼ “脱ファイル交換サービス”を訴えるP2P業界
▼ P2Pストリーミングがもたらす世界
▼ ビットメディアら、ピアツーピア型ストリーミング配信システムの実証実験を開始。ホリプロがコンテンツを提供

関連リンク
▼ シェアキャスト

[姉歯康, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



モバイルショップ

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!