ニュース 2002年5月17日 01:02 AM 更新

有線ブロード、HFC実験の狙いと課題

有線ブロードネットワークスが、6月からHFCを使ったインターネット接続のフィールド実験を開始する。FTTHを進めていたはずの同社がCATVと同じ同軸ケーブルを導入するのはなぜか?

 有線ブロードネットワークスは、6月から都内の一部地域でHFCによるインターネット接続の実験サービスを開始する。目的は、敷設済み音楽放送用ケーブルをアクセス回線として利用するための技術的検証。その背景には、エリア拡大の遅いFTTHを補い、ブロードバンド事業そのものの展開速度を上げる狙いがある。

 フィールド実験が予定されているのは、東京都世田谷区の1部地域。駅でいうと、京王線の千歳烏山および桜上水の近辺だ。この地域では、調布ケーブルテレビジョンがCATVを展開しているが、実験エリアのほとんどは、まだサービスが届いていない部分という。

 実験のスケジュールは6月1日から8月31日まで。実験対象区域にチラシなどで告知するほか、来週からは有線ブロードの社員が個別に訪問してモニター参加者を集める。3期に分けて延べ150世帯をモニター登録する予定だ。

 モニターは、既にUSENの音楽放送に加入している人はもちろん、新規でも加入もできる。新規の場合は、近隣の電柱から同軸ケーブルを引き込むCATVと同様の工事が必要になるが、工事費やサービス料金はすべて有線ブロードの負担だ。「最大30Mbpsのブロードバンド接続+多チャンネルの音楽放送」という、新しいサービス形態に魅力を感じる人も多いだろう。

 なお、モニターの条件として、インターネットに接続できるパソコンを持っていること、そしてアンケートなどに協力することの2点が挙げられている。

商用サービスは月額3000円台?

 有線ブロードネットワークスの藤本篤志取締役によると、HFC採用の目的はFTTH事業を“補完”することだという。4月末のFTTHの取り付け数(工事が完了した世帯数)は、戸建て・集合住宅を合わせて8572件。ストリーミング動画をはじめ、IP電話「GATE CALL」など積極的にアプリケーションを提供しているが、「下のレイヤー(インフラ)が出来上がらなければ、上のレイヤー(アプリケーション)はあり得ない。FTTHは展開に時間がかかるのが“泣き所”だ」(藤本氏)

 これに対して、同社の有線音楽放送は既に132万件の顧客を獲得している。現在の約22万キロにおよぶ同軸ケーブル網は、不採算地域の撤去作業が進められているが、それでも11万キロ程度が残される予定。「これを最大限に活かし、ブロードバンド事業としてのエリア展開スピードを加速する」。

 事業計画そのものは、フィールド実験の結果を待たなければならないが、「秋頃には商用サービスを開始したい」と意欲を見せる藤本氏。「商用サービスでは、最大30Mbpsの回線を月額3000円台で提供したい。音楽放送との割安なセットメニューを設定することも検討している」という。

本当にケーブルを変えなくても良いのか?

 USEN放送で使われているケーブルは、材質・形状ともにCATVサービスと同じものだ。基幹部分を光ファイバーで構築し、分岐点で同軸ケーブルに変わる点も同様。そこで、CATV各社が導入を進めている世界標準仕様「DOCSIS1.1」を採用し、下り最大30Mbpsという高速インターネット接続を提供するのが有線ブロードのHFCサービスだ。

 ネットワーク構成のうえでも、CATVと異なるのは、数百メートルごとに設置されているブースター(アンプ)が双方向通信に対応していない点だけという。このため、「サービスエリアでは該当するブースターをすべて交換する必要がある。来週から工事に取り掛かる予定だ」(藤本氏)。

 CATVとの違いはもう1つある。どちらも多チャンネルの放送を流している点は同じだが、TVと音楽放送では使う周波数帯が異なり、標準仕様をそのまま持ち込むことはできない。

 具体的には、DOCSIS1.1の仕様が上り方向に10M〜55MHz(国内仕様)を利用するのに対し、USEN放送も29〜76MHzとかなりの部分で重なってしまう。このため、今回は、上りを高い周波数にアップコンバートする必要が生じた。

 「上り方向をCATVがTV放送に利用している650〜770MHzに変更する。もっとも、40MHz以下では流合雑音が多く発生するが、この部分にはない。かえってラッキーだと考えている」。同社が行った社内実験では、1つ前のバージョンであるDOCSIS 1.0に準拠した最大10Mbpsのケーブルモデムを使い、実効スループットで約5Mbpsを記録したという。

 しかし、理論上の問題はなくても、実際に開始してからなんらかの障害が見つかるのが通信インフラの常だ。新しい仕様の機器を使い、フィールドに出たときには何が障害になるか分からない。「実証実験の最大のテーマは、本当にケーブルを換えなくても大丈夫なのか? という点だ。マーケティングの検証も目的に含まれてはいるものの、純粋な技術的検証に近い」(藤本氏)。

 また、先行してDOCSIS1.1を採用したイッツ・コミュニケーションズなどのCATV事業者は、新しい製品にありがちなチューニング不足から、なかなかスピードを上げることができずに苦しんでいる(3月の記事を参照)。有線ブロードのHFCサービスも、実現までには、まだまだ越えなければならない壁が多いようだ。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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