連載 2002年5月24日 03:19 AM 更新

Big Pipe
ソニーのブロードバンド戦略

ソニーの2002年度経営計画は、エレクトロニクス、ゲーム、コンテンツという3つのコア事業に経営資源を集中させ、収益性をアップさせるというものだ。しかし、ネットワークを軸とした経営基盤強化には弱点がある

 5月14日に発表されたソニーの2002年度経営計画は、エレクトロニクス、ゲーム、コンテンツという3つのコア事業に経営資源を集中させ、収益性をアップさせるというものだ。同時に、各セクターの連携を強化するため、「NACS」(Network Application and Content Service Sector」を4月1日付けで設立するなど、ネットワークを軸とした経営基盤強化を狙っている。しかし、収益性の確保という点では、ネットワーク一辺倒の戦略に疑問が残るのも事実だ。

 ソニーは、各カンパニーがぞれぞれブロードバンド関連事業を手がけている。モバイルネットワークカンパニーやホームネットワークカンパニーは、PCやPDA、TVなどのアプライアンスのネットワーク対応を進めている。コアテクノロジーやセミコンダクターを手がけるカンパニーは、要素技術の開発で側面を支える。

 また、グループ企業では、ソニーコンピュータエンタテインメント(SCEI)が「Playstation2」を使ったブロードバンド事業を独自に展開し、一方ソニーコミュニケーションネットワークでも「So-net broadband Mega-Channel」という動画コンテンツ配信事業を手掛ける。そしてCDSP(コンテンツ・デリバリ・サービス・プロバイダ)としてAIIもある……など、その取り組みは多岐に渡る(下表を参照)。全体を通じてみると、コンテンツ〜ネットワーク〜アプライアンスまでの垂直型事業構造による、ワン・トゥ・ワンマーケティングの確立を目指していることが分かる。

カンパニー/ディビジョンブロードバンド戦略
モバイルネットワークカンパニーVAIOをコアにMDやDVカメラ、けいt話などのブロードバンド対応推進
ブロードバンドソリューションネットワークカンパニー放送機器からサーバ、ビデオ、オーディオまでを扱う。企業向けソリューションに注力
ホームネットワークカンパニーTV、STB、デスクトップPCなどの担当。TVとPCが融合するブロードバンド製品を開発
ディスプレイカンパニープロジェクター、PC用ディスプレイに特化。大画面化を促進
コアテクノロジー&ネットワークカンパニーディスプレイ、電池、記憶メディアなどを各カンパニーに提供し、ユビキタスバリューネットワークを展開
セミコンダクタカンパニー東芝やIBM、SCEと共同でLSI事業を強化
通信サービスカンパニーSOHO向け通信サービス「BitDrive」の展開。FWA、ADSLなどを手掛ける
AIIコンテンツアグリゲーター兼CDNとしてCATVやFTTHの事業者にサービスを提供中
ソニーブロードバンドソリューションズ伊藤忠テクノサイエンスとの合弁事業。放送・医療向けからイーラーニングなど配信システムを手掛ける
ネットワークアプリケーション&コンテンツサービスセクター(NACS)課金・認証。ネットワーク対応AV/IT製品やPS2、S0-net、映画・音楽・ゲーム等コンテンツによるネットワーク事業の確立を目指す
S&Sアーキテクチャセンター画像処理などのシステムLSIに特化し、各カンパニーに提供する。半導体部門の強化に努める
ソニーエリクソンモバイルコミュニケーションズ世界シェア第3位の携帯電話機事業。モバイルネットワークカンパニーと協力し、携帯電話機事業の拡大を目指す。
ソニーコンピュータエンタテインメントPlaystation2にHDDユニットを搭載し、ブロードバンドコンテンツを配信
ソニーコミュニケーションネットワークブロードバンド回線対応を進めるISP。コンテンツ開発も手掛ける
ソニー放送メディアSkyPerfec TVやWOWOWなどに出資している
ソニーミュージックエンタテイメントSCNと共同で音楽配信サービス「レーベルゲート」を立ち上げ。また独自の配信サービス「MORICH」も展開
ソニーピクチャーズエンタテイメント米国で「MovieFly」を手掛ける
そのほか、金融サービスソニーファイナンスを中心として「Edy」などの決済サービスや「My Sony Card」事業を推進し、課金基盤を確立


 しかしながら、ソニーのネットワークビジネスは成功しているとは言いがたい。2001年度決算で企業としての黒字は出たものの、それはSCEIのPlaystation2ビジネスが順調に成長したからだ。エレクトロニクスをはじめ、ほかは不調だった。ネットワークビジネスは未だ立ち上がらず、So-netは約250万人の会員を獲得しているが、シナジー効果を上げるには至っていない。

 ソニー全体を見ても、ソニーのネットワーク事業群の中でブロードバンド業界を牽引している市場リーダー的な存在の事業は未だ存在せず、ソニーのアプライアンス事業の拡販に繋がっていると言えるものもまだない。

 ソニーは、ネットワークを軸にした一辺倒戦略からの修正が求められている。同社の出井伸之会長も、「ブロードバンド事業をコアとしたディストリビューションビジネスの効果が表れるのは2005年以降」と話しており、いつまでも「賭け組」でいる余裕はない。そこで、同社がまず着手したのがエレクトロニクス事業の再強化だ。

エレクトロニクスとビジネスソリューション

 「Powered of Hardware」を標榜するソニーは、特に半導体等のデバイス強化を推進している。SCEや東芝、そしてIBMと共同で次期Playstation向けの半導体チップ「CELL」の開発に着手。一方、セミコンダクターカンパニーも九州にあった4つの工場を1つにまとめ、コスト削減を図るとともにMPEGエンコーダやCCD、高温ポリシリコンLCDなどの生産を強化し、2000年度の売上げ4000億円を、2006年度には1兆円にまで拡大する予定だ。ソニーがデジタル家電時代のインテル(高収益企業)になれるかどうかは、これらの事業の成功に掛かっているといえる。

 もう1つの強化点がソリューションビジネスだ。ブロードバンド・ビジネスで注目されるべきは、中長期的に発展拡大するエンターテイメントよりも、既に投資が始まっているビジネスユースである。伊藤忠テクノサイエンスと共同出資したソニーブロードバンドソリューションズや、ブロードバンドソリューションネットワークカンパニーは、企業向けのソリューション事業を展開している。自社のアプライアンスをコアとして、システムソリューション事業を強化する構えだ。

 しかし、この分野には、IBM、日立製作所、富士通、NEC、NTTコミュニケーションズなど手強い競合企業が多く存在する。この中で、ソニーが競争優位性を持つことが果たしてできるのだろうか。先端企業であるが故に、暗中模索の中努力しつづけているソニーの苦悩が伺える。

[根本昌彦, ITmedia]

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