ニュース 2002年6月5日 03:13 AM 更新

“ユビキタス”実現のために越えるべき壁

ラテン語で「いたるところにある」という意味を持つ“ユビキタス”。NTTアドバンステクノロジ主催のシンポジウムでは、研究者と企業がそれぞれの見地でユビキタス社会の目指すものと課題を語った

 モバイル&ブロードバンドの次はユビキタス。最近のIT業界には、こんな風潮がある。ユビキタスの語源は、ラテン語の「ubiqitous」で、「いたるところにある」「あまねく存在する」という意味だ。ここまでは、よく知られた事実だが、今のところは小型デバイスや無線サービスの標語として利用されているだけで、その実像を把握するのは難しい。NTTアドバンステクノロジ主催のシンポジウムでは、研究者と企業がそれぞれの見地でユビキタス社会の目指すものと課題を語った。

 一般的にIT用語として使われている「ユビキタスコンピューティング」は、1980年代に米Xeroxのパロアルト研究所(PARC)に在籍していたMark Weiser氏が提唱したもので、「どこでもコンピュータの機能を利用できる環境」を示したといわれる。しかし、慶應義塾大学環境情報学部の徳田英幸教授によると、Mark Weiser氏の意図したものは若干異なるという。本当の狙いは、Zen Computing、あるいはCalm Computingと呼ばれる、コンピュータやネットワークのサポートによって人間の生活を向上させる考え方と一致する。

 身近な例を挙げるなら、携帯電話は「通話」のユビキタス環境を実現した。また、自動車のITS(Intelligent Transport System)や、自分のPCを持ち込んで利用できるホットスポットなどは、ユビキタス時代の先兵と目されている。

 しかし、これらは用途や場所を限定したものだ。将来のユビキタス社会を示す試みとしては、IBMなどが開発を進めているウェアラブルPC、マサチューセッツ工科大学(MIT)の「Oxygenプロジェクト」、米HPの「Cooltown」、米Microsoft Resarchの「EasyLiving」などが挙げられる。アプローチはそれぞれだが、いずれもコンピューティングパワーをオフィスや書斎以外の場所で利用し、生活の利便性をアップさせようというものだ。

 用途の幅が広すぎて焦点がぼけてしまいがちだが、簡単なヒューマンインタフェースを備え、身に付けるのが負担にならない端末(ウェアラブル)を携帯し、宅内や町中にある種々のネットワークでさまざまなサービスを受ける。そんな環境がユビキタス社会と考えられている。

 では、ユビキタス環境を実現するために必要な技術とは何か。徳田教授は、ネットワーク、プラットフォーム(デバイスやインタフェース)、基盤ソフトウェアの3点を挙げた。

ネットワークの課題

 ネットワークに関しては、無線によるアドホックネットワークをベースにP2Pスタイルの通信を行う方法が検討されている。サーバが遠い場合は、他人の端末(ノード)に中継してもらい、サービスを受ける。必然的にすべての端末はルータの役割を持つことになるが、人が移動することを考慮しなければならないため、経路の分からない宛先にデータを届けるメカニズムが必要だという。

 1つの手段としては、経路探索のためにまずリクエストを投げ、戻ってきた情報をもとに実データを送信するDSR(Dynamic Source Routing)方式がある。ただし、これも「間にいる人がいなくなれば、仮定したリングは途切れてしまう。絶えずコントロールパケットを投げていれば、オーバーヘッドの多い非効率なネットワークになってしまうだろう」。

 無線アドホックネットワークの場合は、ルーティング(経路制御)、アドレッシング(アドレス付け方式)、ネーミング(名前付け方式)の3点をクリアしたうえで、さらに通信の信頼性やスケーラビリティといった問題を解決しなければならない。「ダイナミックにトポロジーが変わる技術は、まだまだ課題がある」のが現状のようだ。

デバイスの課題

 一方、プラットフォームは「いいペースで」進行している部分と、「ブレークスルーが必要」な部分の両方があるという。前者はCPUパワーやメモリ、HDDの容量など。画面サイズやバッテリーといった制約もあるが、例えばシャープでは2005年までに携帯電話用で200ppi、2010年頃には350ppi(3型SVGA相当)のLCD開発を見込んでいる。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)向けであれば、2010年に1920×1080ピクセル。これは40センチ先に14インチ画面があるのと同じ虚像を眼前に結ぶことのできるものだ。

 問題は、「ブレークスルーが必要」なヒューマンインタフェースの部分だ。現在のような、キーボードやペン入力がすべての人に受け入れられることは考えにくい。この点はメーカーも同意見であり、シャープ技術本部横須賀研究センターの上田繁所長は、ユビキタスアプライアンスの要件として、「TVのリモコンに匹敵するような新しいインタフェースが必要」と指摘している。

 「ユビキタス端末は、本来なら十人十色の答えを用意しなければ満足できないもの。メーカーとしては、できるだけ多くの人をカバーできるものを開発しなければならない」(上田氏)。

基盤ソフトウェアの課題

 ユビキタス環境では、移動する端末に対して透過的なサービスを提供しなければならない。このため、ネットワークバンド幅が劇的に変化(あるいは切断)した場合の対処といった外的要因の変化のみならず、バッテリー残量が少なくなったといった内的要因の変化にも対応できるOS支援ソフトウェアを開発する必要があるという。さらにそういった変化をユーザーに知らせるべきか、あるいは別の処理方法があるのか、インタフェースに関わる議論も生じてくる。

 また、UPnPやJiniといった外部との接続を簡便にする技術は提案されているものの、接続時にユーザーの要求によって自動的にアプリケーションを動かしたり、要求をインテリジェントに解釈するといった技術はまだ登場していない。

サービスモデルの課題

 これらの技術的な課題は、さまざまな研究機関やメーカーが開発を進めている。しかし、ユビキタス環境を実現する上で一番厄介なのは、サービスモデルの構築かもしれない。「ユビキタスのコンセプトは、今のところNeedsよりもSeeds中心で議論が進んでいる」(上田氏)。

 例えば、iモードでは、NTTドコモという企業がクローズドなマーケットを形成したが、このような集中型ビジネスでは「利潤の独占やセキュリティ向上といったメリットがある一方で、付加分散の欠如、応答性の低下といったデメリットもある」(徳田氏)。これは、最終的にユーザービリティの低下に繋がる。

 徳田氏によると、ユビキタス社会では、こうした垂直・集中型のビジネスではなく、「横と横の繋がりの重要性が増す」という。例を挙げるなら、ホットスポット。公衆無線LAN装置を設置するにあたっては、通信インフラを提供する企業と場所を提供する店の異業種間協力が必要となった。

 アプリケーションやサービスが増えるに従い、関わるインフラや業者も増えていく。サービスに関わるすべての業者がメリットを享受し、またユーザーの利便性向上に繋がるサービスモデル。これが、ユビキタス実現の前提条件と言えるのかもしれない。

 「オープンなビジネスモデルを早くから構築する必要がある。まずは(ホットスポットのような)単発的なサービス環境の実現が、将来的にヒューマンセントリックなユビキタス環境へとつながっていくだろう」(徳田氏)。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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