連載 2002年6月11日 09:18 PM 更新

Big Pipe
松下電器産業のブロードバンド戦略

ハードウェアを低価格で普及させ、他事業で儲ける。単独でデファクトスタンダードを目指すリスクを冒さず、アライアンスを通じて事業を拡大する。理にかなった松下の戦略だが、epサービスには少し欠けた部分がある

 ハードウェアの低価格化は、製造業を直撃した。ネットワーク対応ゲーム機に代表されるように、通信インフラやコンテンツサービスの“普及材”としてアプライアンスを低価格で提供するビジネスモデルが一般化しつつあり、家電メーカーが高収益体制を保持するためにはビジネスモデルの転換が必要となっている。これを実行しようとしているのが松下電器産業だ。

 松下の場合、ハードウェア部門は全て「ネットワークに対応するもの」としてホームネットワーク化を推進し、デジタルAVとしてのテレビ、モバイルコミュニケーションとしての携帯電話、カーナビなど……自社の強い分野を強化している。これらを普及させることで、まず高収益となる電子デバイス部門を拡大する方針だ。

 電子デバイス部門は、松下の強化部門の1つである。LSIが同じならば、デジタル家電は今後、コモディティ化する可能性が非常に高い。ユビキタスネットワーク社会においてデジタル家電が広く普及する。ソニーも半導体事業には特に力を入れており、この分野は今後、両社の動向が中心となって動いて行くだろう。

 また松下は、ブロードバンド(ハイウェイ)のゲートウェイ(料金所)として蓄積型サービスの「ep」、ISPのhi-ho、ブロードバンドエクスチェンジなどの事業を拡大し、ハードウェアを販売した後でも継続的な収益を上げることのできる体制を確立した。つまり、今後コモデティ化するハードウェアを低収益で普及させ、他事業で儲ける形としているわけだ。

社運を賭けたep事業

 中でも注目すべきはepである。epは、松下が社運を賭けた事業だ。1997年、松下はデジタルテレビを切り口とした新たなビジネスモデルを描く「デジタル放送プロジェクト」を始動。いわゆる「Tコマース」の普及により、家庭内ネットワークへのウィンテル進出を阻み、松下の復権を目指している。

 当面は、epステーションと蓄積型放送プラットフォーム事業を推進する。その先にあるのは、epステーションのホームサーバ化、ひいては地域・医療・電子政府といった社会の基幹インフラとなるプラットフォームビジネスの展開だ。これは同時に、松下がシステムソリューション分野に踏み込むということを示している。その第1歩として、epサービスの加入者獲得が重要な意味を持つわけだ。

 epは、テレビを家庭における“情報の窓口”として位置付け、デジタル放送(BS放送/CS110度放送)、ハードディスク、インターネットを融合させた新しい「蓄積型プラットフォームサービス」として2002年7月1日から提供される(一般放送サービスは既に提供中)。


 この事業には、3つのサービスがある。

  • 1. デジタルCS放送を利用してep専用番組コンテンツをHDDに蓄積し、コンテンツ鍵を電話線を通じて取りに行くサービス。コンテンツ視聴、EC、チケット予約などを提供
  • 2. EPG(電子番組表)を利用したHDD録画サービス
  • 3. デジタルBSCSの視聴サービス

 松下は、ISPとepを接続するサポート事業者「ホームインターゲート」を東芝、イーピー、インターネット総合研究所(IRI)と設立(1月の記事を参照)。また、この事業を業界標準にするため、イーピー設立にあたっては、東芝、日立製作所のほか、地上波キー局やカード会社、旅行代理店、楽天などにも出資を求めた。専用端末の「epステーション」は、松下電器産業以外にも、シャープ、日本ビクター、東芝が製造している(2月の記事を参照


松下電器産業のepステーション「EP-P100」。各社のepステーションは、6月中旬から出荷を開始する

 松下電器産業の戦略は明確だ。単独でデファクトスタンダード(製品が普及し、事実上の標準となること)を作るリスクを冒すことなく、競合企業とのアライアンスを通じてデジュリスタンダード(あらかじめ仕様を策定し、それに沿った製品を開発する)として、トップシェアを確保するというものである。

 また、イーピーのナンバー1出資会社として課金・決済サービスなどを押さえ、アプライアンスが普及した後も継続的な収益を確保できるようにしている。

epサービスの魅力は?

 しかし、ソニーの「Playstation 2」がゲームという明確な目的を持つマシンから“ブロードバンド・エンタテイメントマシン”へ発展して行こうとしているのに対し、epサービスの目的意識がいまひとつ見えてこない。「“思いのままのテレビ”を実現する」(イーピー)汎用性が、そのまま競争力に結びつくとは限らない。

 かつての「ピピンアットマーク」や「WebTV」といったマルチメディアプレーヤー、松下が積極的に関与した「3DO」などと同じ失敗を繰り返さないためにも、epを利用した付加価値を作り出す必要がある。

 キラーアプリケーションを提示することができるのか。松下電器産業の命運は、この1点にかかっているといえよう。

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[根本昌彦, ITmedia]

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