ニュース 2002年7月12日 03:09 AM 更新

“光”を我が家に――低コスト化を可能にする新技術「SPICA」

オムロンが、光通信のキーデバイスである光導波路を複製プロセスで作る「複製光導波路(SPICA)」技術と、これをベースにした光通信用導波路チップを開発した

 ブロードバンドの本命は“光”といわれる。だが、企業だけでなく一般家庭への光化が進むには、光通信デバイスのコストの高さが障壁。この障壁を突き破る可能性のある新技術が、今年はじめに光通信デバイス事業へ参入したばかりの企業から発表された。

 オムロンは7月12日、光通信のキーデバイスである光導波路を複製プロセスで作ることで低コスト化を可能にした「複製光導波路(SPICA)」技術と、これをベースにした5種類の光通信用導波路チップを開発したと発表。マスコミ向けに新技術の説明会を行った。


「複製光導波路(SPICA)」技術をベースにした光通信用導波路チップ

 同社は、今年1月に光通信デバイス事業への参入を発表したいわば後発組。しかし、同社がこれまでに培ってきた制御機器事業のノウハウや光コントロール技術、生産技術などの融合によって「今後、他社に先駆けた先進技術の光通信デバイスをスピーディに創出、市場投入していく」(同社)と、新事業にかける意気込みは強い。

 同社先端技術開発推進室長の細川速美氏は「従来の光通信デバイスは、基幹インフラ向けで生産量も少なく、価格も非常に高いものだった。だが、当社が狙うのは低価格・大量生産が必要なホームネットワークの領域。これまで光通信普及のボトルネックだったコスト面を大幅に改善する新技術により、一般家庭の光化を推進していく」と、新事業に対する同社のスタンスを語る。

 光通信分野では、コスト革新のキーデバイスとして「光IC」が注目されている。これは、レンズやミラー、フィルターといった光部品を個々に組み合わせてデバイスを形成していた従来型に対して、さまざまな光部品の機能を1枚の基板上に集積化した「光導波路」と呼ばれる光の回路で形成されている。「光導波路は、従来の個別部品型に比べて組み立て時間で1/20、部品点数では1/4の削減効果がある。現在、主要な光通信部品は、光導波路型になりつつある」(細川氏)。

 ところが、これまでの光導波路は、集積化によって時間や部品の削減できる一方、半導体の製造プロセスと同じように高価な製造装置を使って多くの工程を経て製造する必要があった。このため、製造コストが高くなってしまうのが難点だった。半導体ICは、基板1枚あたりの集積度をいかに上げるかで製造コストを下げてきたが、光導波路は同じ考え方が通用しない。

 「その理由は“光は急には曲がらない”ため。直進性が強い光の線路は、電気配線のように自由に曲げられず、角度で1〜2度曲げるのがやっと。原理的に集積度は上げようがない。つまり、半導体プロセスで作っている限りは、大幅なコストダウンは望めなかった」(細川氏)。


“光は急には曲がらない”ため、原理的に集積度は上げようがない

 そこで同社は、少ない工程で繰り返し生産できる「複製プロセス」で光導波路を作ることに着目。樹脂(プラスチック)積層による光導波路複製技術「SPICA(Stacked Polymer optical IC/Advanced)」を開発した。「レンズや光ディスクなども、複製による量産でコストを下げていった。複製プロセスは、半導体プロセスに比べて工程を大幅に簡素化できるのが特徴。従来の半導体プロセスで作られたガラス基板の光導波路に比べて、工程を1/3に、コストを1/10以下に減らせる」(細川氏)。


複製プロセスは、半導体プロセスに比べて工程を大幅に簡素化できる

 今回、同社がSPICA技術をベースにして開発した光通信用導波路チップは、光トランシーバ/光タップカプラ/1×4光カプラ/VOA(光可変減衰器)/1×2光スイッチ。「この5種類のチップで、送受信/波長多重/分岐/切替/増幅・減衰といった光通信の基本機能を全てカバーできる」(細川氏)という。


5種類のチップで、光通信の基本機能を全てカバー

 複製プロセスは他社でも取り組まれてきた方法だが、光損失の値が実用レベルに到達していなかった。しかし、SPICAで作られた光導波路は、0.2dB/センチ(光が1センチ伝搬する時の損失が約5%)以下という、ガラス光導波路と同等の損失レベルを達成している。なぜ、同社だけが複製プロセスで光損失の少ない光導波路を作りだすことができたのだろうか。

 「実は、複製プロセスによる光導波路を1989年に世界で初めて提唱したのが当社。長年の研究開発が実ったということ。また、液晶プロジェクタの画素や携帯電話のバックライトに光を集めるためのデバイス製造で、0.5μメートルという微細なパターンを複製で作るという技術がすでに確立されていた点も、今回の光導波路の複製プロセスに生かされている」(細川氏)。


光導波路のウェハー

 同社は“共創”の思想のもと、幅広くパートナー企業を募り、アライアンスを積極的に進めることで光通信デバイスのデファクト化をはかる構え。光通信用導波路チップは、今年度内の単体販売開始を目指しているという。なお、この新技術は、幕張メッセで来週から開催される「インターオプト2002」で一般にお披露目される。

関連リンク
▼ オムロン

[西坂真人, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



モバイルショップ

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!