連載 2002年7月19日 11:13 PM 更新

Streaming Now!〜流れをつかめ!
ストリーミングの高画質化時代到来で何が変わるのか?

Coronaこと「Windows Media 9 Series」の売りは、1280×720ピクセルの720P画像を6Mbpsで流せるという高画/高圧縮率。一方、リアルネットワークスの「Real Video 9」は、DVDに相当するコンテンツを1.5Mbpsほどで実現させる。この画質がストリーミングを変えてくれるとしたら、どんな世界が待っているのだろうか?

 マイクロソフトがCoronaWindows Media 9 Series)、リアルネットワークスがRealVideo 9と、ストリーミング技術の世界は、間違いなく高画質化に向かっている(あくまでも「技術の世界の話」ではある)。これによって、ストリーミングというメディアは本当に変わるのだろうか? そして、この技術を使って、みんなは一体、何をしたいのだろうか?

はじめに〜ストリーミングなんて要らない?

 いきなり言ってしまうが、ストリーミングというメディアは、基本的にユーザー(受信者)にとって必要ないものである……イヤイヤ、衣食住に関わらない、という意味で。テレビがなくても生きていける、新聞がなくても死にはしない、CDプレイヤーがなくても困らない、と、そういう意味での話だ。

 だが、今の時代に、わざわざ「テレビは必要ない」という人は、ちょっと偏屈な人に分類されるかもしれない。まあ、テレビは「生活必需品に近いもの」といっていいだろう。いずれにしても、世の中には、「なくても死にはしない生活必需メディア」が数多く存在する。そのようなメディアが成り立つ条件を考えてみると、

  • 1.面白い、美しい、エキサイティング、衝撃的など、感情に訴えかける要素がある
  • 2.周囲がみんな持っているという状況にあり、共通の話題として欠かせないものとなっている(これは特に日本の場合)
  • 3.圧倒的に便利で、地理的、時間的不利などをはね除ける力を持っていたり、人間より優秀な記憶力を持っている
  • 4.そこでしか得られない情報がある
  • 5.競合メディアに対して価格面などで優位性がある

 と、このいずれかに当てはまっているのではないかと思う。ビジネスにおいてパソコンが扱われるようになったのは、言うまでもなく、4の要素、つまり「便利」が大きい。では、ストリーミング放送が生活必需メディアになるためには、何がキーとなり得るのか? まあ、3の「便利」、4の「情報」、5の「価格」あたりかな、という気がする。映像はテレビで慣れてしまっているので1の点でのインパクトはそれほどではないし、2の「みんな持ってる」状況も想像しにくい。

 ……という一ユーザーとしての率直な感想をもって、前置きとしたい(長いっつーの)。

高画質はインターネット経由でイケるのか?

 では、業界サイドの話に移ろう。

 御存じのように、Windows Media Technologiesの次期バージョン、Coronaの売りは、1280×720ピクセルの720P画像を6Mbpsで流せるという高画質/高圧縮率だ。一方のリアルネットワークスのReal Video 9は、6MbpsのMPEG-2に相当するコンテンツを1.5Mbpsほどで実現させてしまうもので、やはり高画質/高圧縮率が売りということになる。ブロードバンド時代に合わせて、みんなスゴい技術を出してくるものである。

 で、どちらがきれいかというと……知らない。まだその詳細を調べる機会に出会っていないし、別に比較しようとも思わない。どちらもデモを見た限りでは「きちんと再生できれば」十分にきれい。私は今のところ、このレベルの画質の優劣にはあまり興味がない。もう十分なのです……。

 さて、問題は「きちんと再生できれば」というところにある。いくら速いパスを出しても、コースが空いていなければ、ディフェンダーに当たって弾き返されてしまう。特にインターネット経由で配信する場合には、帯域をいかにして確保するか、という話が問題となってくるのだ。

 ここのところ、FTTHやら速いADSLやらで、「ブロードバンド万歳!」という状況になっている。が、「最低帯域保証」という考え方が浸透しているとは言えない。状態が悪い時の帯域が分からなければ、結局何Mbpsでストリーミングしたらいいのか分からない……。

 ということで、普通のユーザーは、まだ、「普通のインターネットで高画質の映像がガンガン流れる」とは考えないほうがいいと思う。「ほうほう、技術的にそこまできたか」という程度で見ておくのが良いのではないだろうか。

 インフラ整備も同時進行で進まなければ、発展はあり得ないのである。

高画質大画面になると、ユーザーは何を見たいのか?

 私は何も、新技術に対して否定的な話をしようとしているワケではない。むしろ、こういった技術の進歩は、ストリーミングでビジネスをしようとしている人にとっては、大きなチャンスとなる。何と言っても、昔から言われてきた「インターネットがテレビに変わる?」というのが、現実味を帯びてきたのだから。

 問題は、「この画質をどう活かすか」である。この画質がストリーミングを変えてくれるとしたら、どんな世界が待っているのだろうか?

 まずはネットワークインフラのことを無視して、「高画質でこれがしたい!」事例を考えてみよう。以下、架空の会話である。

 まずは配信業、コンテンツ制作側の意見をどうぞ。

「えーと、イントラネットで朝礼を……」

そんなものは高画質にせずに、音声だけにしなさい。帯域の無駄遣いです。

「えーと、えーと、テレビのアーカイブをインターネットで流したいです」

それはそれで魅力的なんだけど、テレビ局や芸能プロダクション次第。同じ映像をネットで流すまでの手続きって、非常に面倒なことなのだ。

「あの、お茶の間留学! 黒板の字までしっかり見えるから」

黒板の代わりにテキスト使ったほうが良くありませんか?

 では、エンドユーザーの方の意見は?

「いや、別にないです…………。あ、え、エヘヘ、エロビデオは見たいかな。ヘッヘッヘ。あと、普段見られないようなライブは見たい。テレビの画面で見られるんだったら、映画もいいかも」

 ……結局、エンドユーザーの側はどちらかというとコンテンツの質と内容を重視していることが分かりました。  

技術はどのように進化する?

 実際、エンドユーザーにお話を聞くと、こんな感じだったりするのだ。いかん……。では、このストリーミング技術を開発する側は、どういう未来を描いてコーデックを進化させているのだろうか?

 想像1:「ブロードバンドが普及したね。これで映画を送ることができるね、じゃあ、ホームシアターだね、これで行こう! じゃ、それ開発しといて」といって、意外にシンプルに話が進んでいる。

 想像2:技術の人が、ただひたすら圧縮率の向上を目指して開発を進め、結果としてできたコーデックを使い、そこで初めてどのようなメッセージとともに売り出すかを考える。

 後者のパターンが多いような気もするが、いずれにしても、圧縮技術はどんどん向上していく。その開発はクオリティを上げることが目的だから、別にユーザーの意見はなくてもよい。

 そうこうしているうちに、技術の多くはエンドユーザーのためのものというよりは、「ストリーミング配信でお金を設けたい人たち」のためのものになってしまっていたりする。技術の会社から見れば、配信系の人たちこそがユーザーなのだから、それはそれで納得できる話だ。

結論:一致団結しないとダメじゃないか?

 そもそも、ストリーミングを含むマルチメディア技術は、オモチャとして発展したという経緯がある。パソコンユーザーが、「おお、こんなこともできるぜ、面白い!」「え、自分でも作れるの? やろうゼ!」と単純に喜んでいたために流行った技術である。そのオモチャにビジネスの可能性があったから、発展して現在のようになったわけである。

 それはそれでいいのだが、ストリーミングをメディアとして普及させるためには、もう1ステップ必要なのではないか? 単なるオモチャを冒頭で述べた条件に該当するようなものに変えていくという作業が必要なのだ。では、誰が考えるか? 私は、業界が一丸となって取り組まなければ難しいと思う。

 このケースでは、一丸となるべきなのは、技術開発者と配信者とコンテンツ制作者ということになるだろうか? CDであれば、ディスクの規格とレコード会社とミュージシャン、テレビであれば、TV放送規格とテレビ局と制作会社に置き換えることができる。配信側とコンテンツ制作者がエンドユーザーの意向を汲み取って技術の会社に伝える、というフローが一番美しいように思えるが、いかがだろうか?

 今のところ、どうしてもストリーミングのメリットというと「配信コストが安い」とか、配信側のメリットばかりになっている。この構造を変えないことには、いつまで経っても受信メディアとしては普及しない。コンシューマレベルのメディアにしなくてもいいんだったら、別にいいですけど。

 いっそのこと、「ストリーミングのいいところは発信コストがかからないところだから、ユーザーの人達にもっと発信してもらおうよ」という発信メディアとしての成長を遂げてしまう手もある。それはそれで歓迎する動きだ。私が不満なのは、誰がどこを見て何をしたいのかよく分からないということなのである。

 などと書いていて、結局、高画質の話に行ってませんね(笑)。結論から言うと、初めはやはり業務用、「ホームシアター」ではなく、インターネットカフェや「バーチャルシアター」とでも言うべき場所で使われるのではないかと思う。で、家庭に行くとすれば、キーワードは「リビングルーム」「テレビ接続」になると思う。

 だけど、家庭に行く前に、やっぱりインフラや規格がポイントになる。一度、みんなで話し合ったほうがいいと思うんだけどねぇ。で、初めはMPEG-4で足並みを揃えて、それで不足があったら独自規格を採用してハイクオリティを目指すという方向に行けば、もっと話は早かったと思う。

 たぶん、MPEG-4でもエンドユーザーは文句を言わないと思うのだが……どうだろう?

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[姉歯康, ITmedia]

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