ニュース 2002年9月18日 11:42 PM 更新

ヒューマノイド“光化”計画

北野共生システムプロジェクトの遠隔制御ヒューマノイド「morph」(モルフ)。その“体内LAN”が最先端のプラスティック光ファイバーで光化されるという。その目的は……?

 光ファイバーの大容量通信がロボットを進化させるかもしれない。2足歩行ロボット「PINO」(ピノ)や「morph」(モルフ)の開発で知られる「北野共生システムプロジェクト」は、慶応義塾大学の小池康博教授率いる「小池フォトニクスポリマープロジェクト」と手を組んで、新しい試みを進めている。


ケーブルが多くてよく分からないが、morphの肩と背中を4本のGI-POFがつないでいる

 ロボットが動作するとき、頭脳(CPU)は、手や足といった体の各コンポーネントを協調して動かす必要がある。各部位にはサブCPUが搭載されており、メインCPU(morphの場合は背中にある)と情報を交換しながら、手や足のアクチュエーターを動かす仕組みだ。

 その情報をやり取りするネットワークが、ロボットの“体内LAN”。この媒体として、プラスティック光ファイバーを利用する試みが、昨年10月から密かに進行していた。9月18日に開幕した「International POF Conference 2002」のスペシャルセッション「ギガアイランド」では、一部を光化されたmorphがお披露目された。

GI-POFのメリット

 光ファイバー、とくに小池教授が開発した屈折率分布型(GI:graded-index)のプラスチック光ファイバー「GI-POF」には、ロボットに応用できるメリットがいくつもあるという。北野共生プロジェクトの松岡由紀子氏は、まず「情報伝送量が多いのはもちろん、GI-POPは遅延が極めて少ない」ことを挙げた。

 石英製のマルチモード光ファイバーでは、高速伝送のために径を太くしてモード数を増やすと、素材の特性から光が分散し、ファイバーの内部で反射を繰り返したモードに遅延が生じる。これに対して、GI-POFの全フッ素化光学樹脂は材料分散が少なく、光が反射せずに進むため、遅延がほとんどない。


GI-POFでは光が反射せずに進むため、遅延が起こりにくい

 morphの場合、腕を動かすために5ms(ミリ秒)ごとに10bitの「角度データ」を腕のサブCPUとメインCPUとの間でやり取りしている。全身には26自由度があるため、必要な伝送容量は駆動だけで約70Kbps。また、morphに搭載された40個のセンサ情報なども伝送する必要がある。仮に情報伝達に遅延が生じてしまうと、右手と右足を一度に出すような、お間抜けな2足歩行になりかねない。

 これが新型の「morph3」になると、全身に力センサ、触覚センサ、角度センサ、温度センサ、電流センサなど、計111ものセンサが搭載されており、必要な情報伝送速度は1Mbpsを超える。さらに、ロボットの自由度を上げ、動作を俊敏にしようとすれば、速さに比例して情報のサンプリング同期速度を上げなければならない。

 「将来的には、ギガ単位の伝送速度が求められることになるだろう」。

切って繋ぐだけ

 もう1つのメリットは、「GI-POFは、取り扱いが容易で動きの自由度が高い」ということだ。前述のように、morphには、全身26カ所もの稼動部(自由度)があるうえ、各関節の稼動範囲が広い。脚部、腰、上体の関節を屈曲させて、玉のように丸まった姿勢をとることも可能だ。そのぶん、情報を伝達する配線には柔軟性が求められる。

 この点、従来の石英系光ファイバーよりもプラスティックのほうがはるかに有利だ。GI-POFは柔軟で折れにくく、また、ファイバーとファイバーを接続する際も、「カッターで切って、コネクタで繋ぐだけ」。従来の光ファイバーでは常識だった融着の作業が要らない。ロボットが将来的に家庭で利用されることを考えたとき、取り扱いの容易さは、重要なポイントになるという。

ロボットにWDM?

 展示されたmorphでは、肩のサブCPUと背中のメインCPUを4本のGI-POFが繋いでいた。通信は、I2C(複数IC間相互接続用バス)を使う。

 I2Cは、チップ間のコマンド伝送を行うための仕様。マルチバス対応のため、ロボットの各コンポーネントにコマンドを伝送できるが、データとCPUのクロック同期で各1本、それが双方向通信になるため、計4本の伝送路が必要だ。

 光化による、もう1つの恩恵は、この伝送路を簡素化できること。周知の通り、光ファイバーは、波長の異なる複数の光信号を1本で伝送できる(光波長多重)。

 つまり、通信サービスのバックボーンなどで一般的に使われているWDM(光波長多重)技術と同様、4つの波長を1本のGI-POFで伝送すれば、メインCPUのある背中と各部位を1本のケーブルで接続できるようになる。

 「morphに搭載できる、小型WDMというべき装置は既に開発済みだ。将来的には、morph3の全身を光多重で接続することになるだろう」(小池フォトニクスポリマープロジェクト応用グループの上原桂二研究員)。


だらけた様子のmorph3だが、特注モーター搭載でパワーは十分。光化されれば、シャア専用も夢ではない?

 もちろん、動作を俊敏にするためには、CPUの処理速度向上やモーターの強化、より高速な通信プロトコルの実装といった、別の課題もある。しかし、全身が光化されたmorph3は、少なくとも現在よりも高機能に、かつ俊敏に動くための土台を得ることになる。

 上原氏は、体内LAN光化が、ロボットの家庭進出を後押しすると話す。さまざまな電波が飛び交う宅内を想定したとき、配線が光ファイバーであれば「配線がアンテナにならず、干渉を防ぐことができる」。運動能力向上と多機能化を果たしたロボットは、外部ネットワークとの接続も可能な「宅内端末」になり得るのだという。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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