ニュース 2002年10月24日 11:03 PM 更新

トレソーラ、テレビ番組配信は“ほろ苦デビュー”

テレビ番組のブロードバンド配信で、注目される「Chance@トレソーラ」。一定のユーザーニーズがあるとの手ごたえを得たようだが、課題も多かったようだ

 民放3局のテレビ番組をブロードバンド配信することで、注目を集める期間限定サービス「Chance!@トレソーラ」(8月30日の記事参照)。9月の開始以来、1カ月半が経過しているが、どれほどの成果を上げたのだろうか。

 10月24日から開催されている「e-Drive 2002」のセミナーには、トレソーラの原田俊明社長が登場。その手ごたえと、現場の状況を踏まえての課題などを紹介した。


トレソーラの原田社長

 同社は現在、9月分の視聴データを分析中。この結果を見ると、特定の傾向が現れていたという。

 「ジャンル別では、ドラマ、バラエティー、アニメ、その次にグラビアアイドルの順に人気があった。中でも、ドラマとバラエティーに尽きる」(原田社長)。トップクラスの人気だったのは、「高校教師」「ケイゾク」「トリック」といったドラマ。バラエティーなら「オレたちひょうきん族」だという。

 ユーザープロフィールは、男性8割、女性2割の比率。主な視聴者層は30〜40代という結果が出た。これは「クレジット課金にしたこととも関係があるかもしれない」。

 気になる有料視聴者数だが、これまで数十万人がアクセスし、そのうち3%強がコンテンツの購入に至ったという。

 「ユーザーニーズはある、という認識を得た。心強く思う。視聴時間を見ても、平均40分ほど。1時間番組のコンテンツは、CMが除かれて正味45分ほどになるので、かなり真面目に見ているようだ」(同)。同氏はこれを、“ブロードバンドではショートコンテンツしか視聴されない”という通説を覆す結果だと、胸をはった。

著作権関連で苦心

 事業を進める中で、さまざまな課題も浮き彫りになった。特に、多くのコンテンツプロバイダーを悩ませる著作権関連の問題では、トレソーラも相当の苦労をしたようだ。

 「(著作権者の了承を得るにあたり)特に悩ましいのが、番組中で使われる音楽。いちいち音楽を確認して、その権利者をたどっていかなくてはならない。外国の曲ともなると、国内でサブライセンスを受けた事業者を特定して、そこからオリジナルパブリッシャーをトレースするわけで、気が遠くなるような作業」(同)。

 コンテンツの中で過去にビデオ/DVD化されたものは、使用されている音楽のリストが作成されているため、権利処理が比較的楽になる。しかし、「フジテレビの場合は、楽曲リストがあったものは全体の2割だった。TBSも似たような状況だ」。

 著作権保護技術も、同社が神経を使った部分だ。WMT(Windows Media Technologies)のDRM(Digital Rights Management)技術を導入したほか、コンテンツの静止画キャプチャを防ぐアプリケーションも採用した。

 しかし、これがユーザビリティという面で仇になってしまう。ユーザーがサイトにアクセスにすると、最初の画面でアプリケーションのダウンロードを要求される。ここで逡巡して、先に進めないユーザーが多数いた様子。

 「サイトのトップを訪れた人のうち、40%以上があきらめて、引き返してしまった。静止画とはいえ、やはりどうしてもキャプチャされては、という思いだったのだが……」と、原田氏は複雑な表情。著作権保護とユーザビリティのはざまで、ジレンマに陥っていると話した。

 なお、今回の配信ではコンテンツに対する電子透かし処理を見送った。「電子透かしを入れようとしたところ、1時間番組の処理に1日半かかることが分かった」。あまりに手間がかかるため、断念したという。

事業化なるか?

 同サービスが“期間限定”でなく、正式に商用展開されるかどうかは、気になるところ。しかし原田社長の言葉を聞く限り、即時事業化は難しいようだ。

 ビジネス上の最大の問題は、配信コスト。同氏は「ADSLのアクセス回線料金が安くなり、ブロードバンドユーザーが増えたといっても、配信側のコストが低減しないとビジネスにならない」と嘆く。

 同社の試算によれば、配信時のビットレートを500Kbpsから1Mbpsにしただけで、費用は1.9倍に跳ね上がるとのこと。具体的な金額こそ挙げられなかったが、「オーバーではなく、コストが10分の1にならないと事業としては難しい」。

 ただし、ユーザーに期待を抱かせるような言葉も聞かれる。「最近聞いた話だが、韓国ではトレンディードラマ放送後に『見逃し救済』と銘打って、同じ番組を500〜1000ウォン(50〜100円)でブロードバンド配信しているそうだ。すぐに実現するのは無理だが、日本でもこういったビジネスはありうるかもしれない」。

 著作権処理のルールに関しては、現在日本経団連のブロードバンドコンテンツ流通委員会で話し合いの場がもたれている。また地上波デジタル放送が開始されれば、メタデータによる電子透かしの取り組みも本格的に始まるだろう。原田氏はこうした動向を挙げながら、2005年には事業を本格展開しているのではと予測した。



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関連リンク
▼ Chance!@トレソーラ

[杉浦正武, ITmedia]

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