ニュース 2002年11月1日 08:15 PM 更新

オンキヨーが「NetTune」を開発した理由

「音楽は、いつもそこにある、当たり前のもの」。オーディオメーカーのオンキヨーは、ホームネットワーク内の音楽共有を実現する「NetTune」搭載のAVアンプやレシーバを発売する。UPnP A/Vなどの標準化が進んでいるなかで、あえてネットワークプロトコルをを自社開発した理由とは?

 ネットワークを活用したAVデバイスが数多く登場している中で、ひときわ異彩を放っているのがオンキヨーの「NC-500」だ。「WPC Expo 2002」をはじめ、各所でデモンストレーションが行われていたものの、セットで展示されている音楽サーバはすべて家庭向けのサーバアプライアンスばかり。PCと絡めたソリューションは聞こえてこない。

 それ以上によく分からなかったのが、「NetTune」と名付けられた家庭内ネットワークで音楽共有を実現するためのプロトコルである。ネットワークを介した音楽データの共有といえば、UPnP A/Vを紹介したことがあるが、これらとは何が異なるのだろう? 早速、オンキヨーCE事業部営業企画部の大林忠信担当部長にインタビューをお願いし、NC-500とNetTuneについて話を訊いた。


オンキヨーの「NC-500

CDプレーヤー並みのプレイコントロールを

 たくさんの音楽を一元的に蓄積し、それをシャッフルプレイしたり、好みの音楽を大量の曲目から素早く取り出す。とくに、BGM的に長時間音楽をかけっぱなしにするには、PCはとても便利な道具だ。もっとも、大林氏によると、こうした傾向は何もPCを使って音楽を聴いている人たちだけではないそうだ。「音楽はBGM的に流し、生活の中でいつもそこにある当たり前のものになっている」と大林氏は話す。


オンキヨーCE事業部営業企画部担当部長の大林忠信氏

 ではオーディオ機器ベンダーとして、BGMをより便利に聴くためにどうするか? “ネットワークによる音楽の共有”というアプローチは、そうした発想から生まれ、開発を続けてきたという。そして、その最新の成果がNetTuneというわけだ。

 NetTuneは、オンキヨーが独自に開発したプロトコル「NTSP」の愛称で、TCP/IPネットワーク上でCDプレーヤーと同程度の操作性、同等のトリックプレイ機能などを実現する目的で開発された。NTSPには大きく2つの特徴があるという。

 ひとつは、トリックプレイや高速のシークを実現するため、曲データを細かなフレーム単位で管理していること。特定のフレームを必要な分だけ取り出すための詳細なコマンド体系が決められている。曲の途中にジャンプしたり、あるいは早送り再生するといった処理をネットワーク経由で行うには、CDプレーヤーがCD上に刻まれたデジタルデータにアクセスする場合と同程度の自由度が必要になる。

 もうひとつは、実装が軽く、移植性が高く、さらに少ないバッファメモリで動作可能なプロトコルであることだ。大林氏が「将来的には5万円クラスのミニステレオセットにも標準で組み込んでいきたい」と言うように、コスト制約の厳しい機器でも実装できるように配慮してある。曲データベースの構築や属性ごとの分類、プレイリストなどの管理はすべてサーバ側で行い、クライアントは問い合わせを行うだけ、としている。

 もっとも、UPnP上のアプリケーションプロトコルとして、すでにUPnP A/Vがあるというのに、さらに別のプロトコルが本当に必要なのだろうか?

 「いろいろなプロトコルを検討してきたが、満足できる性能は実現できなかった。CDと同じようなトリックプレイは、NTSPでなければ実現できない。またUPnPはわれわれが考えているものよりも、実装に必要なコストが高い」と大林氏は話す。というのも、ネットワーク対応にコストをかけすぎてしまうと、本来の目的である“良い音を楽しむ”部分で妥協を強いられるからだ。

 今後は、UPnP上にNetTuneと同等のプロトコルを実装する方向も検討しているというが、再生制御の問題があるため、UPnP A/Vをサポートする予定はない。現在はDHCPでIPアドレスを割り振り、音楽サーバをサブネット内で探す仕組みでネットへの参加を行っている。

PCが音楽サーバになる

 また現在、音楽データを供給するサーバとして、富士通がNetTune対応ホームサーバ「ファミリーネットワークステーション」を発表しているほか、東芝やNECもNetTune対応ホームサーバのデモを行っているが、PCをサーバとして運用したデモは行われていない。この点について大林氏は、「PC向けにも“NetTuneセントラル”というサーバを用意する」という。

 NetTuneセントラルは、11月1日付けで発売するNetTune対応AVアンプの「TX-NA900」と同時に公開される予定。製品にCD-ROMは添付されないが、製造シリアルナンバーを入力することでWebサイトからダウンロードできるようにする。


「NetTuneセントラル」のプロトタイプ。実際には、シンプルでグラフィカルなユーザーインタフェースが載る予定だ

 大林氏は「PCが別途必要になるというイメージを与えたくなかった。一般家庭のユーザーには、PCがなくとも専用のホームサーバがあれば利用できることを訴えるため、NetTuneセントラルは意図的に前面に出さなかった」と話す。

 NetTuneセントラルはWAV、MP3、WMAの曲登録とプレイリスト作成機能を持つシンプルなアプリケーションで、サーバ機能は持つが、Windows 2000やXPのサービスとしては動作しない(アプリケーションとして起動させておく必要がある)。ただし、この点については将来的に改善される可能性がある。

ネットを意識させないNC-500の操作性

 さて、CDプレーヤー並のトリックプレイを実現させるために作ったというNetTune。実際の製品への実装を見てみよう。

 NC-500は、オーディオネットワークレシーバと名付けられていることから分かるように、従来のAM/FMチューナーを置き換える製品と位置付けられている。AM/FMチューナーも内蔵されており、またインターネットラジオの受信機能も備えるため、地上波のラジオ放送、インターネットラジオ放送、そして自宅のNetTuneサーバからと、電波とネットワーク、両面からコンテンツを受信することが可能となっている。

 また、ライン入力端子を1系統備えるほか、通常のラインアウト端子以外にボリュームコントロールで出力レベルを可変できるバリアブルアウト端子があるため、アクティブスピーカーと組み合わせることで、別途アンプを用いないNC-500のみで完結するオーディオシステムにすることも可能だ。


背面にはイーサネットポート、ライン入力端子、バリアブルアウト端子など

 なお、インターネットラジオに関しては提携先のImergeが提供するポータルからインターネットラジオ局へのURLを取得し、そこにチューニングを合わせる形式を取る。ただし、ポータルに対して好みのインターネット放送を割り付けることはできない。登録されている局数は現状、約400を数えた。

ストレスのない操作性

 さて、実際にNetTuneを動かしてみると、そのレスポンスの良さに驚く。曲の選択はアルバム名、アーティスト名、ジャンルで分類された曲を再生する以外は、NetTuneセントラルで作成したプレイリストを使うのだが、いずれの方法で選曲を行っても、一瞬で再生が開始される。

 と、ここまでは「RoomLink」や「AudioTron」でも同じだが、再生中のコントロールはNetTuneを実装したNC-500が上回る。早送り時にも曲の内容を判別でき、リモコンへの応答も非常に高速。ネットワーク経由で音楽を再生していることを全く意識させない。音楽再生を中断せずに、次の曲を探すこともできる。短時間、試用しただけだったが、これまでに使ったRoomLinkやAudioTronと比べると、再生制御に関しては体感できるほどの違いがある。


操作は、リモコンか本体前面パネルで行う

 ただ、クライアント側の仕組みを軽くしているだけに、“再生キュー”という考え方は入っていないようだ。たとえば、AudioTronでは、Aというアルバムを再生指示し、再生中にBというアルバムを追加で再生指示しておくと、再生キューにはAの全曲が入った後にBの全曲が続いてリクエストされる。しかし、再生キュー機能がないと、Bの演奏を指示した時点でAの再生は終了し、Bの最初の曲が演奏される。なお、再生キューがあるのはAudioTronだけで、RoomLinkもNC-500と同じような振る舞いをする。


表示部は、明るくみやすい

 音質面では、細かいニュアンスが失われやすい圧縮音楽に配慮し、上位のAVアンプなどに採用されているD/A変換後の信号を最適化するVLSC(Vector Linear Shaping Circuitry)を搭載するなどして、音場感を失わないように調整しているという。試用はアクティブスピーカーを接続した簡易的なデモ環境で行われたため、音質に関しては感想を控えておきたい。ただ、価格なりに十分な音質は備えている。なお、SP/DIFデジタルアウト端子は備えていないので、外部D/Aコンバータの接続やMDレコーダーへのデジタル録音などは行えない。

 専用サーバが無償配布される点など、魅力的なところも多いNC-500だが、エンドユーザーが気になるのは、現在のところオンキヨーのローカル規格であるNetTuneが、将来的にもサポートされ続けるかどうか? という点だろう。家庭内のオーディオ転送/制御プロトコルとしてNetTuneを推進するのであれば、それをデファクトスタンダードとして確立していくための活動は不可欠だ。しかし、その点に関してオンキヨーの歯切れは今ひとつ。

 大林氏は「ネットワークオーディオの市場が立ち上がりを見せるのは、早くとも2003年の秋ぐらいだと考えている。もっとも長いシナリオでは、2〜3年かかる可能性もあるだろう。最初はネットワークを使うことで、どんなにオーディオ環境が改善されるのか、そのコンセプトを見てもらうところからスタートさせたい」と話す。

 将来的にはローエンドのオーディオ製品から上位機種まで、オンキヨー製品を購入すれば、ネットワークオーディオを再生できる。そんな豊富なラインナップを考えているようだ。

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▼ オンキヨー

[本田雅一, ITmedia]

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