ニュース 2002年11月6日 06:54 AM 更新

16Mbps ADSLを可能にする「G.Span」とは?

米GlobespanVirataが出荷を開始した新チップセット「Titanium G24」は、「G.Span」と呼ばれる高速化&長距離化技術により、16Mbps以上の下り伝送速度を実現するという。来日中の社長兼CEO、Armando Geday氏にG.Spanの可能性と現状を聞いた

 米GlobespanVirataは先週、ADSLチップセット「Titanium G24」の出荷開始をアナウンスした。速度向上と伝送距離の延長を実現する新チップの登場により、16Mbps以上のADSLサービスが、にわかに現実味を帯びてきた。新チップの可能性と現状を、来日したGlobespanVirata社長兼CEO、Armando Geday氏に聞いた。


米GlobespanVirata社長兼CEOのArmando Geday氏(左)とフィールドアプリケーション シニアマネージャの倉臼アンドリュ氏(右)

 今回発表されたTitanium G24には、「G.Span」テクノロジと呼ばれる技術が盛り込まれている。G.Spanは、「周波数帯域を2.2MHzまで拡大して高速化を図り、オーバーラップ技術によって伝送距離を延長する」(Geday氏)というもの。ただし、Geday氏はG.Spanを「独自技術」と呼ぶことには抵抗があるようだ。「G.Spanのベースは、“ADSL2”と“ADSL+”だ。標準的な技術を使っている」。

 ADSL2とADSL+は、ITU-Tの標準規格となる新しいADSLの仕様。それぞれ複数の要素技術が含まれており、これらを組み合わせて16Mbps以上のADSLを可能にするのが「G.Span」といえそうだ。

 例えば、ADSL2ではG.992.1(8Mbpsサービスの規格)のオプションとなっていた誤り訂正方式「トレリス・コーディング」を必須にするほか、接続維持に使うパイロット信号を16もの周波数から任意に選択できるといった仕様を含んでいる。トレリス・コーディングの採用はランダム・ノイズ対策、またパイロット信号の周波数を移動させることにより、信号伝送を安定させ、ADSLの長距離化が期待できるという。これらは、既にイー・アクセスが最大12Mbpsの「ADSLプラス」で一部採用している技術だ。

 一方、ADSL+の目玉は周波数帯域の拡大。現在のADSLは、24KHzから1.1MHzまでの周波数帯に255本の搬送波を設けているが、この上限を2.2MHzとして、下りに使う搬送波を増やすという。かつて、最大1.5MbpsだったADSLが最大8Mbpsになったときと同じ方法論といえる。ただし、高い周波数帯は距離によって減衰するため、恩恵を受けるのは条件のよいユーザーに限られるだろう。

仕様概要
ADSL2(G.992.3)米Awareなどが提唱した新規格。通信時の接続維持に使うパイロット信号の周波数を選択できるほか、符号化方式にトレリス・コーディングを採用するなどしてADSLの高速化&長距離化を実現する。以前はG.bis ADSL2、あるいはG.dmt bisなどとと呼ばれていた
ADSL+米TIなどが提唱した新規格。使用する周波数帯域を2.2MHzまで拡大し、下り方向の最大速度を12M〜20Mbpsに高速化。2003年1月にはITU-Tで勧告予定

距離延長は実証済み

 Globespanは、欧州仕様のAnnex Bで培ったエコーキャンセラー技術もG24に盛り込んだ。C.xやAnnex A.ex、そしてC.xのサブセットといえるFBMオーバーラップなど、現在の12Mbpsサービスでは各キャリアがそれぞれオーバーラップ技術を使用しているが、多重化(オーバーラップ)した電気信号を分離するのがエコーキャンセラーの役目だ。メリットは、減衰の少ない低い周波数帯域を下り方向にも利用するため、伝送速度の上乗せと伝送距離の延長を実現できること。

 「われわれは、1年かけて技術を開発してきた。最初のチップができたのは2001年の9月。既に各国の回線で検証を行い、30%の伝送距離延長が実証されている」(注:ここでいう30%の距離延長は8Mbpsサービスと比較したもの。スペック上は、日本の12Mbpsサービスと同程度になると思われる)。


オーバーラップ方式の種類。4番目は、現在ITU-Tで検討中のもの(クリックで拡大)

 しかし、そのオーバーラップ技術を巡り、TTCが紛糾しているのは周知の通り(9月の記事を参照)。日本でサービスを提供する場合、オーバーラップの方法が新たな議論を生む可能性もあるが、Geday氏は「新技術がほかのサービスに影響することはない」という。

 「日本のスペクトル管理標準は、既存サービスへの干渉を一定のレベル以下に抑えるというものだ。これに合わせ、バンド幅の拡大と同時にスペクトル管理標準に適合する形にすればいい。例えば、規定のPSD(送信電力)よりも低めに設定して干渉を抑える。あるいは周波数分割、時分割といった方法で(スペクトルマスクを)“シェイピング”することができる」。

 周波数分割や時分割は、C.xやFBMオーバーラップで実際に使われている手法。つまり、実際のサービスにあたっては、各キャリアがそれぞれの事情にあった技術を選択する、というのがGlobespanのスタンスのようだ。

16Mbps ADSLの開始時期

 気になるのは16Mbpsサービスの開始時期だが、大方の予想よりも早いかもしれない。というのも、実はG.24のCO(NTT収容局側設備)向けチップセット約半年前から量産出荷を行っており、「既に実装した例も複数ある」ためだ。

 先週の発表は、チップに組み合わせるソフトウェアの出荷開始を機に行われたもので、GlobespanはCPE(宅内設備=ADSLモデム)向けのチップセットも「近いうちに」出荷する計画という。2003年1月といわれるITU-T勧告のあと、両方のチップセットがそろえば、ハードウェアの準備は一応整うことになるだろう。TTCによる国内向け標準化といった作業もあるが、個々のキャリアによるインプリメンテーションとマーケティングがサービスの開始時期を決定するだろう。

 「日本のADSL市場は、世界で最も伸び率が高いマーケットだ。われわれは、ITU-T標準をベースとした製品展開により、規格化後に“すぐ使える”状態にして顧客(キャリア)とユーザーの要望に応えたい」(Geday氏)。

 他社に先駆け、新技術対応のADSLチップを投入することで競争力の向上を狙うGlobespanVirata。エンドユーザー向けサービスの開始はキャリアの対応を待たなければならないが、同社の新チップ出荷により、16Mbps ADSLサービスが実現に一歩近付いたことは確かだ。

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▼ GlobespanVirata

[芹澤隆徳, ITmedia]

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