連載 2002年11月29日 10:55 PM 更新

Streaming Now!〜流れをつかめ!
bmwfilmsに見る「極上のインタラクティブ」

「動画にインタラクティブは邪魔」「いや、PCなんだからインタラクティブであるべき」。こんな議論はしょっちゅうだ。どっちが本当なのか?(イキナリ結論から言えば、「どっちもアリ」なのだが……)

 皆さんは、もうbmwfilms.comをご覧になっただろうか?

 リドリー・スコットなど、すごい人達を使ってお金をかけまくったショートフィルムを配信しているサイトである。このサイトはいろいろなところで話題になっており、私も先日、1日に複数の人から「bmwfilms見た?」と聞かれたりもした。


 まず、このサイトに入ると世界地図があり、そこで国を選ぶようになっている。オット、このサイトを100%楽しむためには、安易に日本をクリックしてはいけない! ぜひ、米国をクリックするところから始めてほしい。そうしないと、今回話題にしたい「Enhanced Films」の項目が出て来ないからだ。コイツを楽しまなければ、このサイトの半分も楽しめないことになると、私は思うのだ(それについては後述する)。

「ネットごときに……」はもう古い

 さて、このサイトが話題になっている理由の1つは、先程も述べたように、「ネット配信のためにお金をつぎ込んでスゴいコンテンツを作ってしまっている」というところにある。当然、通常のCMよりずっと長いものである。「長いストリーミングなんて誰も見ない」と言われていることだけを考えれば、これはヘンな話であるが、やはりそういう単純な考え方をしていてはイケナいのだ。配信する側からすれば、「ネットだからこそ、時間の制限をとっぱらった創作活動ができる」という面がある。そしてそれがまた、見る側にとっても満足のいくものであれば万々歳、というワケである。

 bmwfilmsのサイトでは、実は以前からネットのためだけに制作されたQuickTimeムービーをダウンロード配信していた。今回はさらに磨きがかけられ、すべて3フォーマットで思いっきりストリーミング配信されている。BMWとしても、「うむ。そろそろストリーミングのクオリティもよし。配信してもよいだろう」という判断があったのであろう。

 で、これをご覧になった方、感想はいかがだっただろうか? 特に300Kbpsのコンテンツを見た人の中で、「やっぱりストリーミング映像のクオリティが気になってダメ」という人は果たしてどれくらいいたのだろうか?

 少なくとも、私は気にならなかった。また、3つのフォーマットの差についても、うんぬんしたくなるような差は感じられなかった。敢えてうんぬんすれば、1位Real、わずかに遅れて2位QuickTime、ちょっと離れて3位Windows Mediaという感じに見えた。だが、これは担当者のエンコード設定の問題であり、コーデックそのもののクオリティの順位ではない。コンテンツの持つ迫力とかに比べたら、鼻クソみたいな差である。

 ということで、これまで「いやいや、ストリーミングのようなチンケな技術ではウチの作品の良さが伝わりませんなぁ、フォッフォッフォ」「ネット配信なんてやってる暇はないよ」などと言って拒否し続けてきた人は、一体どんな顔をしてこれを見るのか、非常に楽しみなのである。そう、「要はコンテンツ」なのである。

Enhanced Filmsでインタラクティブの何たるかを学べ!

 ストリーミングについてはそういうことである。もう1つ、話題となっているのが、先に述べた「Enhanced Films」のほうである。なんと、1本100Mバイトもある巨大なQuickTimeムービーであり、ダウンロードして再生する形となっている。当然、コンテンツをストリーミングよりもきれいなクオリティで見ることができる。

 さらには、Quicktimeの立体画像表現機能「Cubic VR」によって、車の中をグルグル見ることができる。しかも、このCubic VRは「高解像度モノ」なので、拡大表示させてもかなり迫力があるのだ。そしてFlashトラックを効果的に使った「マルチアングルムービー」も楽しめる、「インタラクティぶ満載」のコンテンツなのだ。おそらくこれを見れば、「インタラクティブなんて……」と考えていた人もちょっと気が変わるだろう。

 では、この「インタラクティブ」のどこがいいのか、ということを冷静に考えると、「『見たい』という欲求を満たすためだけに、機能としてのインタラクティブを追求している」ということに尽きるだろう。

 制作者がこういった形態を選択したのは、おそらく、自分の力量を見せつけるためでも、「QuickTimeはこんなにスゴいんだ」というデモをするためでもない。「ユーザーだったらいろんな角度から見てみたいだろうな……」という素朴な考えがあり、それを実現させるためにQuickTime+Live Stage Proという組み合わせを考えついたということなのだろう。

 そして、最終的には車を売る……ところまでうまくいくのかどうか、私にはわからない。だが、車の販売促進の一貫として、機能を紹介するためにインタラクティブな「機能」を搭載したムービーを活用するというのは、私にはとても自然なことに感じられるのである。

結論:「ストリーミング」「ダウンロード」という言葉から離れましょう!

 このように、このサイトには「ストリーミング」と「ダウンロード」が混在しているのだが、それぞれの役割は明確である。「とにかく早く見たい」という人のために、ストリーミング映像としてWindows Media、Real、QuickTimeと3フォーマットが用意されている。「早くみたい」人はプレイヤーをダウンロードする時間なんてもったいないだろうから、当然のことである(さらに、まったく同じコンテンツに対してMacとWindowsで異なる圧縮形式を用意するという念の入れようだ)。

 そして「もっと楽しみたい」人は、ゆっくりとダウンロードして、QuickTimeを使った高品質な楽しいコンテンツを手元で楽しみなさいというワケである。一旦ダウンロードしてしまえば、あとはノートPCに入れて電車で楽しむこともできる。再生が途切れる心配もない。ダウンロードにしても、ブロードバンドユーザーであれば、30分−1時間も待てばいい。それよりも、これだけのコンテンツを手元に持っていることのほうが嬉しい。

 ……と考えていくと、結局「ストリーミング」という技術が持つユーザーから見た利点というのは、「すぐに再生が開始される」「生中継が見られる」以外にはないということに、改めて気付かされる(著作権うんぬんは配信側の話でしかない)。

 ああ、またいつもの話に戻ってしまった……。だが、これは決してネガティブな話ではないのだ。このことをヒントにストリーミングで商売を始めるもよし、ストリーミングに対して抱いていた幻想を捨ててダウンロードに走るもよし(さらにQuickTime GuidebookでQuickTimeについて一から勉強するもよし……ン?)

 結局は、ユーザー本位で考えることでしか、答は見つからないのだ。「ストリーミング」「ダウンロード」というキーワードに振り回されてはいけない。何かをするための手段として、これらの裏の技術が存在しているというだけの話なのである。

 ……なんて、ついつい当たり前のことを力説してしまったのは、bmwfilmsが私に初心を思い出させてくれたからなのであった。



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[姉歯康, ITmedia]

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