ニュース 2002年12月12日 03:41 AM 更新

メルコがIEEE 802.11“g”を製品化した理由

一足先にIEEE 802.11gチップを搭載したメルコの「G54シリーズ」。現在普及しているIEEE 802.11bとの互換性を維持しつつ、伝送速度を大幅に引き上げるのが特徴だ

 メルコが新しいAirstation「G54シリーズ」で採用したIEEE 802.11gは、現在普及しているIEEE 802.11bとの互換性を維持しつつ、伝送速度を大幅に引き上げるものだ。無線LAN機器の国内市場で48%のシェア(2002年度上期)を持つ同社がIEEE 802.11gを採用したことで、IEEE 802.11a製品が出回り始めたマーケットにも微妙な影響を与えそうだ。

 IEEE 802.11gは、伝送方式にIEEE 802.11aと同じOFDMを採用し、伝送速度を最大54Mbps(理論値)に引き上げた無線LAN技術だ。最大のメリットは、国内ユーザーが300万人といわれるIEEE 802.11bとの互換性。同じ2.4GHz帯を使うため、APを入れ替えてもIEEE 802.11b機器はシームレスに使える。

 そのうえ、IEEE 802.11g対応機器なら、実効20Mbps程度の高速通信も可能だ。5GHz帯と異なり、利用場所が屋内に限定されることもない。

IEEE 802.11a製品の出荷を中止

 メルコは、昨年11月に米Texas Instruments(TI)のチップを搭載して最大22Mbpsの伝送速度を実現する「AirStation 2x」シリーズを発表した(2001年11月の記事を参照)。これは、IEEE 802.11g標準化を期待したものだったが、蓋を開けてみれば、ドラフト仕様に採用されたのは米Intersilが推すOFDM方式(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)。TIのPBCC(Packet Binary Convolutional Code)方式はオプションとなり、「見切り発車で製品を販売することはユーザーに迷惑をかける」として、メルコは出荷を断念した。

 今回も他社に先駆けてIEEE 802.11g製品を投入するメルコだが、PBCCのときとは状況が異なるようだ。IEEE 802.11gは、今のところドラフト仕様だが、2003年5月頃に正式承認される見通し。G54シリーズは、規格確定後にファームウェアアップデートなどで完全対応するという。採用したチップセットはBroadcom製だ。

 一方、同社はG54シリーズの発表と併せ、既存のIEEE 802.11a製品の出荷を中止することも明らかにした。

 「“a”で目指したものは“g”で可能になる。“a/b”コンボ製品の機能は“g”が実現するだろう。“a”の製品は今後、“g”とのコンボという形で開発する」(メルコ)。

問題は通信距離と透過性

 高速無線LAN製品の開発にあたり、メルコが重視したのは伝送距離と透過性だ。

 同社が実施した比較検証によると、近距離の通信速度こそIEEE 802.11aに軍配が上がるものの、35メートル付近でグラフが交差、IEEE 802.11aは急カーブを描いて速度が低下するが、IEEE 802.11gはゆるやかに落ちていくという。


IEEE 802.11a/b/gの見通し通信距離(メルコの資料より)。IEEE 802.11gの数字は試作機の実測データという

 オフィスや住宅内といった見通しの悪い環境では、さらに差が広がる。これは、5GHz帯を使うIEEE 802.11aが遮蔽物に弱く、壁やパーテーションに遮られたときに伝送速度が落ちやすいため。「家庭内LANの主役はIEEE 802.11bからIEEE 802.11gに移る。IEEE 802.11bの市場はIEEE 802.11gが置き換えるだろう」(メルコ)。

 こうした考えはメルコだけのものではない。例えば、無線LAN機能付きのホームサーバ「iBOXサーバ」を販売している日本電算機は、IEEE 802.11bに代えてIEEE 802.11gの搭載を検討中だ。「電話と機器が遠い家は(5GHz帯では)無理がある。IEEE 802.11gを入れるべき」(同社の石井孝利社長)。

 ただし、IEEE 802.11aが策定された経緯も忘れてはいけない。免許不要の2.4GHz帯は、電子レンジやBluetooth、アマチュア無線など、さまざまな機器やインフラが利用する“電波のるつぼ”。よりクリーンな通信環境を得るための5.2GHz帯だ。

 また、米Atheros Communicationsや米IntersilといったチップメーカーはIEEE 802.11a/b/gをフルサポートするチップの準備を進めており、今のところ無線LANデバイスの本命と目されている(7月の記事を参照)。

 デュアルバンドチップの前に登場したメルコのG54シリーズ。まずは用途や環境によって2つの高速無線LANを使い分けることができるようになったことを示したといえる。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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