ニュース 2003年1月8日 05:56 PM 更新

“これがホームサーバだ”と銘打つiBOXサーバとは?

世の中で"ホームサーバ"と呼ばれる、あらゆる製品の機能が詰め込まれているiBOXサーバ。“Linuxベースの、リモコンで使えるPC”といえるような製品だが、その使い勝手は?

 iBOXという名前は、僕にとって非常に懐かしい名前だ。インターネット黎明期から、テレビをインターネットアクセス端末にするセットトップボックスとして発売されてきた息の長いブランドだからである。

 あいにくiBOXの発売元である日本電算機(JCC)の取材担当は僕ではなかったため、これまで実際の製品をじっくりと評価することは無かったが、当時あったインターネットアプライアンスの多くが撤退していった中で、iBOXが生き残ってきた点は興味深い。

 そのJCCが、iBOXブランドでホームサーバを発売するという。もっとも、この連載の中でも述べてきたように、ホームサーバというのは製品ジャンルのようでいて、ハードウェアの機能を指し示さない非常に曖昧な言葉である。

 いったい「iBOXサーバ」とはどんなキカイなのだろうか。短期間ではあるが、自宅で試用する機会を得たので、ここで紹介することにしたい。


テレビの上に乗っているのがiBoxサーバ

Linuxベースのリモコンで使えるPC

 iBOXサーバには、世の中で"ホームサーバ"と呼ばれているあらゆる製品の機能が詰め込まれている。これらをひとつひとつを説明していると、かなり大変なことになってしまうので、順に列記することにしよう。

 JCCが「プレイステージ」と名付けている機能が、TVチューナ、HDDビデオレコーダ、ブロードバンドメディアプレーヤ、Webブラウザ、電子メールクライアント、DVD/CDプレーヤといった機能。「サーバ/ネットワークステージ」と名付けているのが、ブロードバンドルータ機能、Webサーバ、メールサーバ、ストリームサーバ、プリンタサーバ、無線LANアクセスポイント、VPNサーバ。さらに「クリエーションステージ」として、Webページのデザイン・管理機能がある。

 これらの機能は、TVチューナカード付きのx86ハードウェアプラットフォーム上に構築したLinux上で動作する、アプリケーションソフトウェアとして実装されている。なお、プロセッサの動作周波数は800MHzと記載されているが、具体的なプロセッサ名は公開されていない。試用したのはDVD-R/RWや無線LANアクセスポイントを搭載しないモデルだったが、最上位モデル「iS-3」では録画したテレビをDVD-R/RWにすることもできる。

 インタフェースを見ても、VGA、USB 1.1、シリアルポートなどが実装されており、A/V機能を持ったPCそのもの。DVDドライブもPC用のものがそのまま使われている。いわば、“Linuxベースのリモコンで使えるPC”なのである。


背面のインタフェース部

 PCの機能をリモコンで使うことで、テレビが置かれたお茶の間エンターテイメントをより楽しいモノにできる! と言ってしまっていいものか。実物のiBOXサーバを手にして、僕は非常に困ってしまった。それと言うのも、iBOXサーバの使用感は家電に近いものではなく、明らかにリモコン対応のLinux PCそのものだったからである。

キーボードとマウスの方が似合ってしまう

 実はこの製品のレビューを行う直前、別件の仕事でJCCに取材に行くことがあった。iBOXサーバに関連した話を伺うためだったのだが、「PCは多くの人にとって難しすぎるし、Windowsのライセンスは高く、信頼性にも問題がある。我々はリモコンで家電と同じように使える、テレビとともに使う端末とホームサーバを提供している」と話していた。

 賛同できる部分も多いのだが、その反面、Linuxベースであることや、(PC的な)スペックを強調している点に疑念を振り払うことができなかった。そして実際にiBOXサーバを使ってみると、やはりキーボードとマウス、そしてコンピュータディスプレイが似合うように思えてしまうのだ。

 もちろん、リモコンでの操作性に関しては色々と練られている面が多い。さすがにiBOXを長い時間をかけて熟成してきただけあり、Webブラウザやメールクライアントの完成度は決して低くない。リモコンで文字入力を行う際の操作性はさすがにまどろっこしさを感じるが、そもそも赤外線リモコンでの文字入力に効率を期待してはいけない。ではなぜ違和感を感じるのか。

 それはインターネット端末、インターネットサーバとしてではなく、AV家電的な要素に非常にPCチックな部分を感じてしまうからである。つまり、インターネットサーバ機能を持ったインターネット端末機能を持つLinuxPCに、HDDレコーダを付加したものがiBOXサーバだと僕は思う。

 以下に、「テレビのそばに置く装置」としては、改善が求められる点を挙げることにする。

  • DVDプレーヤが騒々しい

 評価機に搭載されていたDVDドライブが何倍速なのかは資料がないが、DVDビデオを再生させる時、相当に速い速度でディスクが回転する。DVDビデオ再生時は等倍速、あるいはせめて2倍速程度で読み出して欲しいところだが、読み出し速度を最大のままビデオ再生させるため、かなり大きな回転音がする。ドライブのマウントがフローティングされていないことも、騒々しさを増長する結果になっているようだ。

  • ディスク取り出しが本体操作で行えない

 DVDドライブのトレイは、リモコンからしか開けることができない。これは想像だが、Linux上でディスクのマウント/アンマウントの管理を厳密に行う必要性から、ドライブの開閉ボタンを操作できなくしているのではないだろうか。

  • ビデオ出力品質が低い

 僕は決してAVマニアではなく、画質に関しての評価は相当甘いと自覚している。がしかし、残念なことに甘い評価基準をもってしても、iBOXサーバのビデオ出力品質は低い。36インチテレビにコンポジット/S端子の両方で接続をしてみたが、いずれも輪郭の甘さが目立った。DVD再生機能があることや、文字出力も多用することを考えれば、D2出力程度は欲しいところ。

 またテレビ視聴、録画ビデオ再生、DVDビデオ再生のいずれも、なぜか階調性が低く疑似輪郭が頻繁に発生していた。コントラストが低めのシーンで見られた。

  • スタンバイ機能がない

 iBOXサーバはサーバとして動作するため、基本的に電源を入れたままの運用になる。従って、スタンバイしないのは当然かもしれないが、ハードディスクが動きっぱなしのため、静かな部屋で動かしていると少々うるさい。ハードディスクだけでなく、落とせる部分は部分的に電源を落とせるようにする必要があるだろう。

  • 操作面での洗練度

 リモコンですべての操作は行えるが、AV家電を作り慣れたメーカーのHDDビデオレコーダと比べると、さすがに操作性や機能の面で劣る部分もある。また、DVDビデオを見ているときに初期メニューを呼び出すと、再度DVDビデオに戻る際、最初から再生が行われるなど、洗練されていない部分もいくつか見られる。

iBOXサーバのウリは?

 iBOXサーバの開発経緯を見ると、まずサーバ機能を持ったiBOXがあり、それに流行のTVチューナ(とそれに付随するHDDビデオレコーダ)、記録型DVDなどの機能を追加したものであることが分かる(*)。当初のiBOXサーバの顧客は自治体や病院だったそうだが、AV機能の強化で家庭にも、という考えがあったに違いない。JCCの石井孝利社長は、しきりにPCを好んでいない家庭でテレビに繋いで使ってもらったフィールドテストの結果について話してくれた。

(*編集部注:この点について、日本電算機側から「iBOXサーバは、開発当初から家庭用サーバに必要な要素を検討し、TVチューナ、DVDなどを簡単に扱える製品を目指していた」との指摘がありました。ここに記します)

 iBOXサーバのHDDビデオレコーダにも良いところはある。インターネット上で展開するオリジナルのEPG「Bepg」(記事参照)は、テレビ画面上で見やすく番組ごとにジャンル情報を持っているため「今週一週間のサッカー中継を録画」といった、一括予約機能は、なかなか使いやすいと感じた。


EPGサービス「Bepg」による予約録画画面

 しかし、せっかくのテレビ機能も、テレビの横に存在することがふさわしいものでなければ活きてこない。今のiBOXサーバに不足する機能があるとは思わない(もちろんあれば良いと思う機能はあるが)。しかし、使い勝手の面で家電的にノンPCデバイスであることをウリにするのであれば、いくつかの点において家電ナイズされなければならない点があるように思う。

 一方で、Linux向けに流通している多くのインターネットソフトウェアを活用した、サーバとしての機能には、有用な部分も多い。家庭内でリビングのテレビ脇に置く機械としては問題はあるが、PC向けのサーバとしては良い面もあるのだ。低価格でアプライアンスサーバを入手できると思えば(機能的にマッチしているならばだが)、iBOXサーバは決してコストパフォーマンスの悪い製品ではない。

 たとえば本機をインターネットへのゲートウェイとして設置し、VPNサーバ機能を有効にしてインターネットから接続すれば、自宅へとセキュアなリモートアクセスを行える。単に仮想的にネットに接続するだけではなく、パケットの内容も暗号化できるため安全性は高い(ルータ内にVPNサーバを置くとIPsecが外部から通らなくなるため暗号化できないが、iBOXサーバはインターネットとのエッジに置く製品なので大丈夫)。

PC側からは、録画したTV番組がMPEG-2ファイルとして見える。これをWindows Media Playerで再生する

 iBOXサーバのウリは、リモコンで使えるアプライアンスであり、アプライアンスでありながらPCと同等の能力を備えていることだと僕は考える。しかし、そのせっかくの長所も、今のままでは活かすことができないのではないだろうか。

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[本田雅一, ITmedia]

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