ニュース 2003年1月10日 03:31 AM 更新

ブロードバンドがテレビの復権をもたらす――ソニー・安藤氏基調講演

CES初日の基調講演にソニー社長兼COOの安藤国威氏が登場。ブロードバンド時代の主役は巷間言われているようなPCではなく、TVであり、それを軸にさまざまなデバイスがオープンスタンダードで相互接続していくとのビジョンを示した

 25年の歴史を誇る「International CES」の中では、多くの日本人が大きな尊敬をもって迎えられてきた。中でもソニーを率いるリーダーへの見方というものには、おそらく特別なものがあるように見受けられる。“コンシューマエレクトロニクス”という市場を創造したのが、ソニーという企業体だったと受け取る人も少なくないからだろう。満員の会場には、講演が始まる前から安藤氏に対する期待感が感じられた。

 CES初日朝の基調講演を担当したソニー社長兼COOの安藤国威氏は、そうした聴衆の期待にうまく応えることに成功した。PC世界のリーダーであるBill Gates氏や安藤氏の後に基調講演を行ったCraig Barrett氏の基調講演にはある種の失望感があったが、安藤氏は将来の生活の豊かさのイメージを聴衆に抱かせられたからだ。

 安藤氏が基調講演の中で紹介した製品は、日本ではすでに公開されているものも多かったが、そこに込められたメッセージは多くの人の心を捉えた。それは生産性を追求してきたPC世界の住人と、エンターテイメントを追求してきたCE世界の住人の違いと言えるのかもしれない。


CES初日の基調講演を行ったソニー社長兼COOの安藤氏

ブロードバンドだからこそテレビ

 今年のCESでは、ブロードバンドが普及した後、どのような家庭環境が構築されるか。そのビジョンが1つのテーマとなっている。多くのベンダーが、ブロードバンドによって自社の製品価値が高まると言いはやす中で、ソニーの主張は「テレビの付加価値が向上する」というものだ。

 安藤氏は「DVDによって映画コンテンツを手軽に流通させることが可能になり、携帯電話によってコンシューマーは、エンターテイメントにワイヤレスで接続可能になった。ホットスポットの広がりなどを例に挙げるまでもなく、今後はいつでもどこでも、ブロードバンドでエンターテイメントにつながるようになる」と話した。

 ここまでは他のリーダーたちも示していている点だが、安藤氏は「ナローバンドではPCがネットワーク世界の王様だった。しかし、ブロードバンドでの主役はPCではない。ブロードバンドはテレビを復権させる」と続けた。

 安藤氏が示したブロードバンド化後のビジョン、主要な点は以下の3つ。1つはテレビをブロードバンドエンターテイメントの中心点として生まれ変わらせること。もう1つはオープンスタンダードが、ベンダーや製品カテゴリの壁を越え、シームレスに動作すること。最後がユーザーに価値あるエンターテイメントを提供すること、だ。

 これらの要素を満たした時、人々はコンテンツを求めてPCディスプレイの前からテレビに戻ってくるというわけだ。米国では今後5年間で、アナログテレビからデジタルテレビへの買い換え需要が加速化している。DVDの普及が大画面テレビの普及を促し、大画面テレビの普及がHDTVへのデマンドを生み、双方向性などとも組み合わさってデジタルへの移行が加速度的に進むと考えられる。

 テレビが復権するタイミングとして、これからの数年間は、まさに最良なのかもしれない。

 元々、ソニーは家庭での“ディスプレイを制する”ことに、大きな力を注いできた会社だが、ここ数年の流れをいかに自社へと引き込むかが、需要な課題であると強く認識しているようだ。日本でもプロモーションされている、映像ソースに依存しない高画質動画エンジンのベガエンジンも、そのひとつ。そしてもう1つ、隠し球とも言える製品が紹介された。

 それは有機ELを用いた薄型の平面テレビである。有機ELは、自身が発光するためバックライトが不要で消費電力も低い。多くのベンダーが開発に取り組んでいるが、今回、基調講演で安藤氏が見せたのは24インチ型という、有機ELディスプレイとしては最大クラスのものだった。


24インチを実現した大型の有機ELディスプレイ

 こうした新技術も含め、ソニーは適材適所でより良いディスプレイをコンシューマーに提供していくという。

 「テレビはもうだめで、今後はPCがエンターテイメントの中心になると言ったひとがいた。しかし今、TVはいつでも起動することが可能で、なおかつデジタル化によりインタラクティブなデバイスになってきた。高解像度化が進めば、大画面の一部にコンテンツを分割表示するといったことも可能。テレビは生まれ変わる」(安藤氏)。

ユーザーの生活にタッチする製品作りを

 安藤氏は以前から、ホームネットワーク環境を整備するため、デバイス同士が相互接続するための最低限の取り決めをオープンスタンダードとして構築する必要性を訴えてきた。その成果はPhilipsと共同で行ったデジタル著作権管理技術を持つIntertrust社の買収、Univarsul Plug&Playを実装したメディア連携の実装、松下電器と発表した家電向けLinuxの開発といった形で結実してきている。


家電向けLinuxプラットフォームは現在8社が参画

 キーフレーズは「A World About U」。Uはあなた。UはUser。コンテンツサービスを、いつでもどこでも。Uのために届け、Uの生活にタッチしていきたい。Uのためのコンテンツ。Uのためのアプリケーションでなければならない。それを実現するためには、業界全体がスタンダード化に向けて努力しなければならない。

 安藤氏が用意したもう1つの重要な手札は、「Passage」という技術。これは日本にはあまり関係はないが、多くのCATVの普及率が高い米国では大きな意味を持つ。Passageはこれまで数多くの方式が乱立していたCATVの伝送方式を、デジタル技術で変換し、相互に接続する技術。ソニーでは将来的にPassageのオープン化を検討し、CATVネットワークや危機の相互運用性を高めていくという。

 「ブロードバンドによる世の中の変化は早い。業界の中で互いが共に成功へと向かうためには、今すぐに手を結び、顧客に対してすぐに高い付加価値を持った製品とサービスを提供しなければならない」(安藤氏)。

 技術革新は、常に顧客に高い付加価値をもたらすためのものでなければならない。当たり前のメッセージではあるが、そこには安藤氏なりの日本へのメッセージが含まれているという。基調講演後の懇談会で安藤氏は「ブロードバンドの時代、ハードウェアとソフトウェア(そしてネットサービス)の融合が進む必要がある。そうした異なる価値を融合させることは、日本の企業がもっとも得意とするところ」と話した。

 安藤氏との懇談会レポートは、別途掲載する予定だ。

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[本田雅一, ITmedia]

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