ニュース 2003年1月15日 05:43 PM 更新

家電復権は韓国有利? なんでもアリ、Samsungの躍進度

閉幕したCESは“家電の復権”を強く印象付けるものだった。その流れに乗って日本メーカーも復権といきたいところだが、国内家電メーカー以上に勢いの良さを感じさせたのが、韓国のSamsungだ

 Samsungのブランドが認知されていないのは、もはや日本市場だけ。Samsung関係者から、そんな話を聞いたことがあった。当時はまだ、ソニーのモノマネ企業という印象をぬぐい去れなかったが、今やSamsungはブランド力で世界34位にまで上昇。株式時価総額ではソニーを上回る企業にまで成長した。ハードウェアベンダーとしての力量はここ数年で急速に伸びてきており、特にこの1‐2年の伸長はめざましい。

 米ラスベガスで開催されたInternational CESでは、家電が復権し、テクノロジーに対する投資がITから家電へとシフトするだろうことが、はっきりと読み取れるほどの盛り上がりだった。その中でIntelやMicrosoftといった、米IT業界を代表する企業がコンシューマーに対して魅力的かつ明確なビジョンを示せなかったのに対して、ソニーをはじめとする生粋の家電ベンダーの元気の良さが目立った。

 その状況だけを見れば、日本の家電ベンダーもこれで勢いが戻ってほしい、いや戻るだろう。そうした印象を持ったCESだが、実際には家電復権でもっとも恩恵を受けるのは韓国ベンダーなのかもしれない。

 というのも最大のチャンスである今このときに、経営立て直しによるコスト削減で潤沢な研究開発資金を用意できずにいる日本企業が多い中、SamsungとLG電子は積極的な投資と柔軟な考え方で、新しいデジタル家電の時代にその足場を固めてきているからだ。

 CESでのSamsungの展示は、悪く言えば“ごちゃ混ぜ”。しかし、それは多くの開発チームが互いの縄張りを侵しながら競争する社内体制から来ているようだ。Samsungブースでは、多くのSamsung社員が社内他チームの展示内容を研究し、質問を繰り返している。社内競争の激しさが、企業としての元気さを表しているようにも見える。

 ある日本ベンダーの研究開発者も「今やテクノロジー企業で研究開発投資額が最も多いのはSamsung。基礎的な技術力とノウハウの蓄積で負けるとは全く思わないが、あれだけ多額の投資はうらやましいという以外の感想が出てこない。ウチであれだけのお金があれば、なんでもできますよ」と話す。

 Samsungに関しては、さまざまな側面があるが、筆者がCESで感じたもっとも大きな印象そして強みは、技術的なものではなく、「なんでもアリ」――言い換えればイケイケの姿勢である。多くの日本のベンダー(ソニーだけは特別かもしれないが)ならば、何か保守的な理由から製品化は難しいだろうと思うようなものが、Samsungブースなら見られるのだ。業界を引っ張るリーダーシップを取ろうとする姿勢は残念ながら見られないが、製品の企画・開発における積極性こそがSamsung最大の武器かもしれない。

 例えばば世界初のHDTV対応DVDプレーヤーと銘打たれた試作機を展示した。東芝がハリウッドからの要請で開発した、MPEG-4/AVCを用いたHD-DVDのプレーヤーというわけではない。通常のDVDビデオを、単純にHDTVフォーマット(480P、720P、1080iに対応)へとアップコンバートして出力する、というのが世界初HDTV対応DVDプレーヤの種明かし。もっとも、単に拡大してエッジがボケるといったひどい製品ではなく、きちんと輪郭から線分検出を行い、それなりにクリスピーな映像になっている。


HDTVフォーマットでDVD映像を補完出力するDVDプレーヤー

 この試作機で利用しているビデオスケーラチップが、自社開発なのか、それともどこかから買ってきたものなのかは展示会場ではわからなかったが、良い意味でも悪い意味でも、こういう一歩間違えるとお笑いネタになりかねない製品を真っ先に開発するところが、なんともSamsungらしいと言えるのかもしれない。

 ほかにもこんなのがあった。ホームシアター製品を展示しているブース内の小部屋に入ると、ワイヤレスリアスピーカーがある。そこには「Wireless」と「802.11b」の文字が。無線LANを使った製品であることはわかりきっているので、なにも前置きをせずにSamsung担当者に「これはどんな技術で無線化しているんですか?」と質問すると「Wi-Fiですよ」とのお答え。「いや、Wi-Fiなのは見ればわかります。これは“完全”にワイヤレスなんですよね?」と重ねて聞くと、「もちろんです。もうワイヤーは必要ありません」。

 筆者に漫才をするつもりなどなく、一見わかりきったことを聞いたのは、このスピーカーには電源ケーブルが見当たらなかったから。ワイヤレスといっても電源は別途確保しなければならない。種明かしをすれば、電源ラインは床の穴から取ってあり、そのまま直接スピーカースタンドへとつながっていたため、見ただけでは電源も含めたワイヤレスに見えた(そう見せていた)のだった。


これがワイヤレスリアスピーカー。スタンド部分にバッテリーでも入っているのかと思ったのだが……

 そういえば同じようなワイヤレスリアスピーカーなるものを見せていた会社が、以前にもあったなぁ。確かソニーだったような……。話が横道にそれてきたが、もちろんマジメな製品も少なくない。ただ「なんでも持っている技術は組み合わせてやれや!」という部分に、勢いを感じるのである。

 例えば松下電器のブースでは簡単に見せているだけだった、HDTVのワイヤレス電送の話も、Samsungブースでは詳しく話を聞くことができた。両社が展示していたのはMagisというシリコンバレーにある会社が提供している802.11aベースの無線QoS技術を使ったもの。

 無線QoSでは802.11eのベースになっているWhitechipなどが知られているが、Magisの技術はそれよりも効率が良いという。リンク状態が良好ならば、HDTVストリーム1本、SDTVストリーム3本、それとは別にオーディオストリーム1本を同時に通しても、コマ落ちがしないという。計算上は不可能ではないが、なかなかすさまじい仕様だ。


Magisの技術を使ったHDTV電送のデモ

 Magisの技術は松下でも見ることは可能だし、今後は他の日本ベンダーも採用する見込み。だが、製品化前の現段階でこれだけ大々的にワイヤレスHDTVをアピールしてしまうSamsungの積極性。これは日本のベンダーも、大いに学ぶべきかもしれない。「技術的にはいつでもできる」と構えていると、いつの間にやら取り残されている、なんてこともあるんじゃないだろうか。

 このほか隣接したシャープブースの目の前で、世界最大と銘打った54インチ液晶テレビを展示(関連記事参照)。同じ韓国のLG電子も、Zenithブランドで52インチのスーパーIPS液晶テレビを披露していた。いずれもワイドUXGAの解像度を持ち、1080pをダウンコンバートなしに表示可能だ。


Samsungが展示した世界最大54インチLCDテレビ


LG電子の52インチS-IPS液晶テレビ。液晶テレビの中では美しさと視野角の広さで群を抜いていた

 なんにせよ、日本のベンダーにもこれぐらいの積極性が欲しいところ。元気の良さ、積極性は、来場者の心理にも響くものだ。Samsungのブランド認知度は、昨年よりもポイントが30%以上も上昇しているという。家電への回帰が鮮明になってきた今年、人々が欲しいと思える製品作りを期待したい。

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[本田雅一, ITmedia]

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