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2003/01/29 11:59:00 更新 |
Windows Media 9、つかみはOK?
「Windows Media 9シリーズ日本語版」の発表イベントで、マイクロソフトの古川享副社長が「動画配信が新しいビジネスとなる段階にきた」と宣言した
マイクロソフトは1月29日、「Windows Media 9シリーズ日本語版」の提供を開始した。同日行われた発表イベント「Digital Media Day」の基調講演に登場したマイクロソフトの古川享副社長は、「動画配信が新しいビジネスとなる段階にきた」と宣言(別記事を参照)。同時に多数のコンテンツプロバイダーがWMT9を採用した動画配信サービスを発表した。
Windows Media 9の特徴は、まず「メディア再生能力の劇的な向上」(古川氏)。プレーヤーの起動速度は約30%向上。バッファリング時間を縮める「ファスト スタート」は、ストリーミングメディアにビデオデッキのような「早送り」や「巻き戻し」を可能にする。回線状況のよいときにバッファを溜め、回線コンディションが悪化した場合でも再生を続けることができる「ファスト リカバリ」と合わせ、ユーザーにストレスを感じさせない動画配信が可能を可能にするという(昨年6月の記事を参照)。
画質・音質面では、従来(WMV8)より約20%の品質向上と、720P相当のHD(High Difinition)サポート、そして5.1chサラウンドオーディオが目玉になる。基調講演にゲストとして登場した音楽家の久石譲氏は、映画「千と千尋の神隠し」で使用された同氏の楽曲「竜の少年」などをバックに「かなりのところまできている」とWMT9の音質を評価。「単なる臨場感ではなく、その場で音を出しているという“空気感”が重要だ。ステレオでは無理だが、5.1chならば伝えやすくなる」と語った。
ゲストに登場したのは音楽家の久石譲氏
コンテンツホルダーに優しい?
今回のイベントは、Windows Media 9が、久石氏のような「プロのクリエイターから支持された」ことを印象付けるとともに、コンテンツホルダーに対して採用を促すデモンストレーションの意味がある。そのためか、マイクロソフトはこれまでDRM(Digital Right Management)以外あまり表に出てこなかった、配信側を支援する多くの機能を披露した。
例えば、Windows Media PlayerのなかにHTMLやFlashを表示する機能だ。従来は、コンテンツの付加情報はWebブラウザで見るのが普通。というよりも、PCの場合はWebブラウザで動画を探し、再生時にだけWindows Media Playerが立ち上がる。
しかし、今の形では、STB(セットトップボックス)などPC以外のデバイスに配信するとき、プレーヤーとは別にWebブラウザを機器に組み込まなければならない。対して、プレーヤーだけでテキストやFlashを表示できれば、操作性や機器コストの面でメリットが生まれるだろう。
ナローバンド配信向けの機能も盛り込まれた。それが「Video Smoothing」機能だ。必要な帯域幅を確保できないと、フレームレートが落ちて紙芝居のような見にくい動画になってしまうが、Video Smoothing機能は疑似フレームを追加して動画をスムーズにしてくれる。デモンストレーションでは、10フレーム/秒の動画を30フレーム相当に“補完”してみせた。
デモ風景。静止画では分からないが、Video Smoothingをかけた動画(右)はスムーズに再生されている
また、Video Smoothingには逆の使い方もある。例えば、あえてフレームレートを落とし、そのぶん解像度をアップした動画を配信することもできる。細かい部分まで描写したい風景などのコンテンツを、限られた帯域の中で配信するときに適した機能だ。
パーソナライズド・ストリーミングのデモンストレーションで使われたのは日産自動車の広告
ユーザープロファイルに応じて配信するコンテンツを選択する「パーソナライズド・ストリーミング」は、広告配信時に威力を発揮する。例えば、ライブ中継の途中にCMを挟むといったケース。動画再生前に、視聴者の年齢や性別、家族構成といった簡単なプロフィールを入力してもらい、これを元に最適なCMを選択、配信できる。数ある日産のCMの中から、若い独身男性には「キューブ」、子持ちの女性には「エルグランド」、子どものいない中年男性には「フェアレディーZ」のCMがそれぞれ配信されるという具合だ。1つのコンテンツをもとに、複数のワン・トゥー・ワンマーケティングが成立する。
さらに、マイクロソフトは、自らコンテンツ有料配信のビジネス展開を支援する場を提供した。この「プレミアムサービス」は、Windows Media Playerのサイドメニューにアイコンなどによる導入口を設け、ワンクリックでコンテンツサービスへ誘導するというもの。現在の動画配信ビジネスは、特定のISPや回線事業者の会員を対象としたケースが多いが、プレミアサービスを採用すれば、Windowsユーザー全体にサービスを紹介できる。
今回の発表では、WOWOW、エイベックス、ショウタイム、スカイパーフェクト・コミュニケーションズの4社が参加することを明らかにした。「Windows Media 9は、高音質/高精細な再生機能だけでなく、ビジネスフェーズに入るきっかけを提供する」(古川氏)。
音楽配信は……?
MPEG-4よりも割安なライセンス体系にくわえ、さまざまな面からコンテンツ配信を支援するマイクロソフト。既に国内のサポート企業は100社を超えたという。ただ、その中に楽曲配信サービスを提供する企業は見あたらない。
PCが“不正コピーの温床”のように見られている現状では難しい面もあるが、PCで再生できないコピーコントロールCDの登場など、マイクロソフトにとってさらに苦しい状況も生じている。古川氏によると、同社は「Windows Media Data Session」などを通じて、音楽産業の理解を得る努力を続けているという。Windows Media Data Sessionは、家電が再生する領域とPCが再生できる領域を分けて音楽CDを制作する技術だ。
「既にレコード協会やJASRACにも提案している。プロテクションをかけるだけでなく、メーカーがある程度PCでの利用を自由に設定してビジネスできるようにしたい」(古川氏)
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[芹澤隆徳,ITmedia]