リビング+:連載 2003/03/11 19:41:00 更新

連載:enjoy@broadband.home.net
11aと11g、11bと11g。混在環境でパフォーマンスをチェック

低価格で登場したIEEE 802.11g(ドラフト)製品に注目している人も多いことだろう。早速、リンクシス・ジャパンの「WPC54G」と「WRT54G」を使い、そのパフォーマンスをチェック。それだけではつまらないので、ソニーの802.11a製品や802.11b製品と共存する環境でも比較してみよう

 IEEE 802.11gのドラフト仕様に準拠した製品が、IEEE 802.11b製品並みの低価格で登場したことで、そのパフォーマンスに注目している読者も多いことだろう。802.11gは、無線通信部分のプロトコルを改良することで、802.11bと同じ2.4GHz帯を使って最大54Mbpsの高速通信を行う無線LANの規格だ。そこでさっそく、802.11aとgのパフォーマンス比較をわが家の環境で行ってみた。

 802.11aの機器としてソニーの「PCWA-C700」および「PCWA-A520」を、802.11gの機器としてリンクシス・ジャパンの「WPC54G」と「WRT54G」を用い、さまざまな状況下でスループットを計測してみた。

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リンクシス・ジャパンのIEEE 802.11b無線LANカード「WPC54G」(左)と無線ルータ「WRT54G」(右)。詳細は2月の記事を参照
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ソニーのIEEE 802.11a無線LANカード「PCWA-C700」(左)とアクセスポイント「PCWA-A520」(右)。詳細は昨年11月の記事を参照

距離と壁に強い2.4GHz帯

 まずはアクセスポイントに各1台のクライアントを接続し、ファイルをダウンロードした時にかかる時間を計測するという、非常に単純な試験を行ってみた。

 試験に利用したファイルは55個のJPEGファイル、計39Mバイトで、「Internet Explorer」で連続してFTP転送する際にかかった時間を計測している。このテストでは、無線区間の最大スループットを計測できるわけではないが、複数ファイルを転送する際に行われるメッセージのやりとりなども含んだ数字にしたかったため、55個のファイルを使用することにした。1つの巨大なファイルを転送する場合には、若干、スループットが向上する可能性がある。

 同一の部屋にアクセスポイントがある場合、802.11a、gともに802.11bの内蔵無線LANインタフェースの半分程度ですべての転送が終了した。ほんの少し802.11aの方が高速だが、その差は1秒ほどでほとんど差はないと考えていいだろう。

 壁を1枚隔てた隣の部屋から接続した場合も同じだった。隣の部屋からアクセスポイントの状況を見ると、802.11gは信号強度が96%、802.11aは75%と、802.11aの方が壁による影響が大きいことがわかるものの、実際のリンク速度は54Mbpsのままであり、計測結果も誤差程度の違いしか現れなかった。

 壁を越えると802.11aは急激にリンク品質が落ちる、というのが定説(というより5GHz帯の特性)だが、壁1枚(実際には壁のほかにタンスも挟まった環境での測定)ぐらいならば、パフォーマンスに関する影響はほとんどないと考えていい。

 もちろん、これだけではつまらないので、さらに離れた場所に移動する。

 今度はアクセスポイントを2mの高さに設置し、その部屋からキッチンと廊下を隔てた先にあるリビングルームから通信を試みた。わが家は一般的なマンションで、すべての部屋は石膏ボードとベニヤ板で区切られている。

 距離にするとわずか6〜7mといったところだが、ここで802.11aは通信が不能となってしまった。ユーティリティでリンク状況を見ると、電波強度は38%程度あり、一応6Mbpsでリンクしていることになっている。しかし、PCカードを挿入してもDHCPサーバからIPアドレスを受け取ることすらできない。何度かPCカードを抜き差ししてみたものの、結局通信できず。

 気を取り直して802.11gで接続してみると、電波強度は65%とかなり良好(ただし、これはWRT54Gが、大きめのダイバーシティアンテナを搭載していることと無関係ではないだろう。筆者が普段利用している802.11bアクセスポイントよりも、電波状況は良かった)である。実際のリンク速度は36Mbpsで、計測結果も40%程度の速度低下で収まっている。

 わが家の場合、アクセスポイントを置いた場所と計測したリビングは対角線上のもっとも離れた場所にあり、条件的にはこれよりも悪くすることができない。逆にいえば、一般的なファミリータイプのマンション(2DK〜3LDK程度、60〜100平米)で802.11gを使う場合、電波が届く、届かないを心配する必要はほとんどないといえる。

 ただし、802.11aの場合でもアクセスポイントを自宅のちょうど中間位置に移動させると、すべての部屋で利用可能になる。その際、最も遅くなるケースでも36Mbpsは確保できる。アクセスポイントの配置によっては、802.11aでも問題はないだろう。距離にもよるが、壁2枚までならば、それほど大きな差は出ないようだ。

802.11gが電子レンジに弱いって本当?

 本当である。ただし802.11gに限った話ではなく、802.11bでも電子レンジによる干渉は発生する。電子レンジが使う電波の周波数は2.4GHz帯だからだ。試しにアクセスポイントを電子レンジのそばに置き、その反対側からクライアントのPCを接続して、同様のFTPテストを行ってみた。

 電子レンジが動き始めてもリンク品質は全く変化しない。54Mbpsで繋がったままだ。しかし、転送はわずかに進んだところで進まなくなり、そのうちにFTPがタイムアウトしてしまった。電子レンジの放出する電波がノイズとなって、信号の判別がうまく行えていないようだ。リンク速度が全く低下しない理由は不明だが、通信は行えないと考えていい。なお、同じ状況で802.11aは全く問題なく機能し、パフォーマンスの低下も見られない。

 高速無線LANを使い、高ビットレートのビデオをワイヤレスで転送しながら見ようと考えているなら、802.11aを優先的に考える方がいいかもしれない。電子レンジが回り始めたとたんに、見ていたビデオが止まってしまうなんてことも考えられる。これが家電メーカーが802.11gに積極的ではない理由の1つなのかもしれない。

802.11bとの共存環境

 802.11gには、電子レンジ以外にも敵がある。それは802.11bだ。802.11gのメリットの1つに802.11bとの互換性があるが、実はこの2つを同じチャンネルで利用すると互いに帯域を食い合うため、802.11gのスループットに大きな影響が出てしまうのだ。

 802.11g対応アクセスポイントには、802.11gと802.11b、両方のクライアントが接続可能だが、設定できるチャンネル数は1つ。同じアクセスポイントに802.11bで接続しているユーザーがいると、そのアクセスポイントにつないでいる802.11gユーザーは思ったほどの速度を得られなくなる。

 そこで、WRT54Gに802.11bで接続したノートPCで巨大なファイルをネットワーク経由でコピーさせておき、それと並行して802.11gで接続したPCにおいてFTPテストを実行してみた。すると、電波強度98%、リンク速度54Mbpsにもかかわらず、95秒もの時間がかかってしまった(通常時は38秒)。実に半分以下に実効速度が落ちてしまうわけだ。

 ただし、この問題は同じチャンネルを使っている802.11bと802.11gの間でしか起きない。WRT54Gには802.11gしか接続を許さない(802.11bクライアントを排除する)機能があるため、これを有効にしておき、802.11b用のアクセスポイントを別のチャンネルで設定しておけば、スループットの低下を避けることができる。

 ためしに、その通りの設定にしたところ、802.11bからの干渉はなくなり、速度は単独で802.11gクライアントだけを接続した場合と同じ速度が出るようになった。すでに802.11bのアクセスポイントを導入しているユーザーは、802.11gを導入する際に元からあったアクセスポイントを活かしたまま、機器によって使い分けるなどの手段を考えることをお勧めしたい。

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テスト結果。クリックで拡大

PC向けなら802.11gは良い選択

 結局、802.11gは規格こそドラフト段階ながら、期待通りのパフォーマンスを発揮してくれた。クライアント台数が増えた場合の実効パフォーマンスに関して、今回はテストを行っていないが、自宅で個人が利用する範囲内であれば802.11aと同等のパフォーマンスを得ることができる。

 家屋が狭く、小さな部屋で細かく区切られた住戸が多い日本の場合、壁を通過しやすい2.4GHz帯の無線LAN技術の方が使いやすいと感じる人は多いはずだ。わが家の場合でいえば、中心部の高い位置にアクセスポイントを置けば、居住空間全体を54Mbpsで接続できる範囲に入れることもできる。同様の条件で802.11aの場合、どうしても36Mbpsや24Mbpsに速度が落ちる部屋ができてしまう。

 ただし、2.4GHz帯は他に利用している機器が多い帯域でもある。今回実験したように、通信区間に電子レンジが置かれていると、2.4GHz帯の無線LANは一時的に使用不能になってしまう。高速無線LANでビデオや音楽などを飛ばそうと思っている場合は、映像や音声が途切れる可能性もあるので、802.11bの装置などを用いて電子レンジやBluetooth機器との干渉の状況を把握しておくことを勧める。

 個人的には、映像や音声を扱う高速無線LAN技術は、802.11aをベースにした5GHz帯の方が有望だろうと思っている。今年の家電製品の展示会などを見ても、AV系ベンダーは802.11aを基本としてワイヤレス戦略の展開を考えているようだ。

 今後はAV系ストリームが中心ならば802.11aを、PCアプリケーションの利用が中心ならば802.11gを、というように、使い分けが進んでいくだろう。またPC向け機器に関していえば、今年の夏以降にも802.11a/b/gのすべてに対応した機器が中心になってくると思われる。

 また802.11b対応のデバイスと802.11g対応のデバイスが混在する環境では、両者の利用するチャンネルを明確に分けることを勧めたい。同じチャンネルで両者を利用すると、802.11gの帯域は大きく落ち込んでしまう。アクセスポイントが2つ必要になるが、異なる無線LAN規格と考えて共用は避けた方が、802.11g本来のパフォーマンスを享受することができる。

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関連リンク
▼リンクシス・ジャパン
▼リンクシスのニュースリリース
▼ソニー
▼製品情報(PCWA-C700)
▼製品情報(PCWA-A520)

[本田雅一,ITmedia]



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