リビング+:ニュース 2003/03/21 23:14:00 更新


“IPv6対応コクーン”が語る、ネット家電サービスの方向性

「コクーン」と「ブロードバンドAVルータ」を使ったIPv6接続実験には、ソニーが“方向性を改めて示す”という意味合いがある。その目的と詳細をSo-netに聞いた

 So-netとソニーが5月に開始する、“コクーン”と“ブロードバンドAVルータ”を使ったIPv6接続実証実験は、IPv6を使った実用的なアプリケーションの検証であるとともに、ネット家電向け動画配信サービスの新しい試みとしても注目される。その目的と詳細をSo-netに聞いた。

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IPv6対応のコクーン「CSV-E77」とブロードバンドAVルータ「HN-RT1」。再生中のCMはプッシュされた動画コンテンツだ

 IPv6は、ほぼ無限といえるアドレス空間を持ち、家電やモバイル機器など、さまざまなデバイスに対するネットワークアプリケーションの提供を可能にする。一方で、市場にはネット対応家電やホームサーバといったデバイスも登場しはじめ、グローバルIPアドレスに対する需要は高まってきた。

 にもかかわらず、アドレスの割り当てが始まって4年が経過した現在も、IPv6普及の兆候はみえない。So-net執行役員の平林信隆氏は、その理由をこう指摘する。「まずIPv6を実装した家電がない。そして、B to Cのサービスを提供するプロバイダがいないことだ」。いくつかの商用IPv6サービスは開始されているものの、ほとんどは研究目的に使われているのが現状。潜在的な需要は高いものの、他社の出方を窺っている事業者がほとんどだ。

 ソニーグループの場合、AV機器はもちろん、So-netのネットワーク、そして配信サービスなどを一括して提供できる。ソニー・ミュージック・エンタテインメント(SME)やソニー・ピクチャーズ、エー・アイ・アイといった有力コンテンツホルダーがグループ内に存在することも大きなポイントだろう。今回のIPv6接続実験は、そのメリットを最大限に活かした。

 「ソニーの場合は、以前から家電にIPv6を実装する方向性を打ち出していた(2001年の記事を参照)。今回の実証実験には、ソニーが“方向性を改めて示す”という意味合いもある」(平林氏)。

コンテンツも本格的

 IPv6接続実験の内容は、エー・アイ・アイなどが提供する動画コンテンツをIPv6ネットワーク経由でコクーンにプッシュ配信。コクーンのHDDに蓄積し、ユーザーは録画したTV番組と同様に視聴できるというものだ(17日の記事を参照)。その狙いは、「コンテンツ配信の仕組みとネットワーク、デバイスといった技術的な検証にくわえ、アンケートなどを通じてユーザーのビヘイビア(振る舞い)を捉え、サービスの検討と運用のノウハウを蓄積することだ」(平林氏)。

 モニターには、IPv6対応した特別仕様のコクーンとブロードバンドAVルータが貸与され、その際アンケートに回答してもらう。ここで、登録するキーワード、プッシュ(端末からみるとダウンロード)する時間帯、動画のクオリティなどを選択。この情報をもとに動画配信が行われる。したがって、ユーザーが試験開始後に特定のコンテンツを選んでダウンロードすることはできない。

 動画フォーマットはMPEG-2 TS。ビットレートは、コクーンの録画モードと同じ「EP」(3Mbps)、「SP」(6Mbps)、「HQ」(9Mbps)の3種類が用意される。つまり、録画した放送コンテンツと同等の画質となるわけだ。「EPモードでは素材によってはノイズが気になることもあるだろうが、HQなら放送と同じクオリティの体験が可能になるだろう」(同社ビジネス開発&グループアライアンスディビジョン事業企画の宅島欣男チーフ)。

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ダウンロードしたコンテンツもコクーンの録画番組一覧に加わる。その番組がTV放送なのか、ネット経由で降ってきたコンテンツなのか、ユーザーは意識する必要がない

 コンテンツラインアップは公開されていないが、ソニー・ピクチャーズは映画の本編を含むコンテンツを提供するという。最終的なコンテンツの数は交渉中のため未定だが、「少なくとも数百のライブラリを確保し、ユーザーのもとには“毎日”コンテンツが届く」(宅島氏)。なお、配信されるMPEG-2動画に、DRM(Digital Rights Management)など著作権保護の仕組みは含まれていないが、CoCoonにはデジタルアウト端子がない。また、MPEG-2 TSはPCで再生することはできないため、問題はないという。

IPv6ネットワークの仕組みと課題

 タ験ネットワークは、アッカ・ネットワークスもしくはNTT東西の「フレッツ・ADSL」を介して、So-netのIPv6ネットワークに接続する形だ。So-net側には、コンテンツ配信用と配信データ管理用の2つのサーバが置かれ、アンケートをもとにしたユーザー情報を参照しながらコンテンツをプッシュする仕組み。

 ユーザー〜サーバ間は、IPv6標準のIPSecこそ使用しないものの、「トンネル接続のうえ、(IPv6の)上位ルータにファイアウォールを設定してCSV-E77改に対するアクセスを制限する。VPNに近い、セキュアなネットワークといえる」(So-netエンジニアリング&デジタルディビジョンの川上幸司氏)。もちろん、IPv4ネットワークに関しては、AVルータのファイアウォール機能が働く。

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PCのルータ設定画面にも「v6設定」のアイコンが追加された。ただし、設定可能なのはユーザーID、パスワードなどに限られる

 トンネル接続には、DTCP(Dynamic Tunnel Configuration Protocol)を使う。通常、トンネルを確立するには、固定のIPv4グローバルIPアドレスが必要になるが、それではIPアドレスを動的に割り当てるコンシューマー向けのADSL環境には適さないためだ。DTCPは、クライアント側から接続要求を出し、サーバ側がクライアントを特定したうえでトンネルを設定できる。つまり、IPv4のIPアドレスが変わった場合も、コクーンのIPv6アドレスは固定的に使える。

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ブロードバンドAVルータの接続モード画面。「トンネル(DTCP)」と表示されている

 ただし、IPv6のメリットの1つは、広大なアドレス空間を活かしてアドレスを“使い捨て”にできることだったはず。サービスのたびにIPアドレスを変更すれば、外部から端末を特定することが困難になり、結果としてユーザーの安全性が向上する。この点について川上氏は、「将来的には使い捨てになるだろう。ただし、事業者をまたぐオープンなサービスでは、“誰がそのアドレスを管理するか”という課題が残されている」と話す。

 サービスを提供する際、変化するIPアドレスをもとに対象デバイスを特定するには、その情報を持ったサーバに問い合わせる必要がある。だが、そうした情報を蓄積している事業者がサービスの主導権を握るのは確実だ。このため、家電ベンダー、ISP、コンテンツ提供者を含め、水面下では既に主導権争いが始まっているという。「事業者間を横断して情報をやり取りすることは、技術的に可能だ。しかし、運用面の問題は大きく、大勢が決まらないとオープンなサービスの提供は難しいだろう」(同氏)。

もっとも有望なビジネスモデル

 課題は残されているが、今回の実験によって、IPv6を活かしたサービスがいよいよ動き出したことは確実。また同時に、家電と同じ使い勝手、そして最大9Mbpsの映画を配信できるソニーの実験は、画質と操作性の両面で従来のブロードバンドコンテンツとは一線を画すものになりそうだ。既報の通り、同社は実証実験が「即ビジネスに繋がるものではない」としているが、実験結果は今後のサービスやネット家電の開発にフィードバックされる。

 「従来の動画配信は、機材や回線などインフラ面の制約が大きく、コンテンツの質や操作性など(ユーザーが)満足できない面も多かった。今回の実験は、これまででもっとも有望なビジネスモデルの検証だと考えている」(宅島氏)。

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関連リンク
▼ニュースリリース(So-net)
▼CoCoon(製品情報)
▼ブロードバンドAVルータ(製品情報)
▼So-net
▼ソニー

[芹澤隆徳,ITmedia]



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