リビング+:ニュース 2003/04/23 23:59:00 更新


会議に踊ったDSL作業班の“着地点”

紛糾したDSL作業班が、ようやく報告書をまとめた。各サービスの分類はとりまとめられたのか、また各事業者の争点はどこにあったのか、これまでを振り返りながら確認していきたい

 時計の針は、21時を回っていた――。

 DSL作業班の主任、東京大学の相田仁氏が会合終了を告げると、出席者および傍聴者から一斉に拍手が起こった。この日、8時間におよぶ激論が終了すると共に、昨年12月から10回にわたって開催されてきたDSL作業班が、いちおうの報告書案をまとめ終えた瞬間だった。

 振り返れば、DSL作業班での話し合いは事業者間の利害関係が絡み、紛糾に紛糾を重ねた。これまでの経緯を簡単に振り返りながら、報告書がどのようなかたちで決着したのか、確認しよう。

スペクトル管理の重要性

 ことの発端は2002年3月中旬、ソフトバンクBB(当時はビー・ビー・テクノロジー)が、Yahoo! BB 12Mサービスの実験を行ったことだった。当時、ADSL業界は高速化競争の真っ最中。ソフトバンクBBは、ほかの事業者はもちろん、情報通信技術委員会(TTC)にも隠すかたちでフィールドデータを集め、その後の商用化につなげた。しかし、これが波紋を呼ぶことになる。

 ソフトバンクBBの行動に不満を持ったのが、DSLのスペクトル管理に携わる、TTCの一部の会員。スペクトル管理とは、複数の伝送方式が相互に漏話干渉を起こして、エンドユーザーに不利益になる状況を防ぐことだ。たとえばADSLやISDNといった伝送システムをそれぞれ標準グループ/標準外グループに分類して、「標準外グループは、標準グループと同一カッド内に収容しない」などのルールを策定する。(記事参照)。

 おりしも業界では、8Mbps超の新技術が続出していた。Yahoo! BB 12Mのように、スペクトル適合性が確認されていない、いわゆる未確認方式が乱立しては、スペクトル管理が難しくなる。2002年7月31日には、イー・アクセスの提案を基に、未確認方式の伝送システムが3つのグループに分類された。この際、BBTが提供する12Mbps ADSLサービスは、標準外グループとして分類されていた。

 このグループ分類は、ADSL事業者の回線をNTT東西の局舎に収容する際に、意味を持ってくる。具体的には、“標準外伝送方式”の回線は収容制限を受けると同時に、単独カッド収容となるため、月額899円の追加負担を請求されてしまう。こうなると、ADSL事業者はエンドユーザーに、割高なサービス価格を提示するしかない。

 当然ながら、ソフトバンクBBはこの動きに猛反発。TTCに動議を提出し(記事参照)、さらにはイー・アクセスのCTOにして、同時にTTCサブワーキンググループのリーダー、小畑至弘氏を相手取って提訴まで行い(記事参照)、全面的に争う姿勢を見せた。

 こうした事態を収拾すべく、情報通信審議会の事業用電気通信設備委員会の下に「DSL作業班」が設置され、スペクトル管理の基本的要件がまとめられることになった。作業班の会合には、NTT東日本、ソフトバンクBB、イー・アクセス、そのほかTTC会員が出席して、昨年12月から会合が開かれるようになった(記事参照)。

報告書と、その中身

 それでは、具体的にはどう分類が行われたのか確認しよう。報告書では、伝送方式は被干渉、与干渉の観点から4種類に分類された。

区分被干渉に対する保護あり被干渉に対する保護なし
与干渉に対する利用制限なしクラスAクラスB
与干渉に対する利用制限ありクラスA'クラスC

 各伝送方式のクラス分けにあたっては、第9回の会合終了時で「一定の計算モデルに基づく“保護判定基準値”に沿って判断される」、と規定されていた。ただし、単純な計算式で標準外とされては困るソフトバンクBBは、フィールドにおける実測データを判定に利用することを要求。「実測データは、当該回線のケーブル内における状況についての情報が不十分」とするNTT東日本などと、真っ向から対立した。

 結局、この保護判定基準は事業者間の個別協議も含めて、総合的に判断されることに落ち着いた。報告書案には、既存方式の保護判定基準値を設定するにあたり、「サービスの実態を考慮し、必要に応じて……現実的な範囲で緩和を行うこともできる」という文面も盛り込まれる見込み。120万回線のユーザーを抱える、Yahoo! BB 12Mが不利な分類を受けないよう、一応の道筋はついたものといえる。

 なお、第10回の会合にあたりソフトバンクBBとイー・アクセスが、それぞれ自社サービスである「Annex. A OL」(オーバーラップ)と「Annex C FBM」を、クラスAに分類すべきと主張した。しかし前述のとおり、事業者間の調整をへてクラス分けが行われることから、4月22日の時点ではまだ、どの技術がどのクラスに分類されるかは明文化されていない。

遠距離特例について

 会合でもう一点、議論が白熱したトピックが「遠距離向け伝送方式の扱い」だった。

 報告書案では、電話局の局舎から遠距離のユーザーに対してサービス提供が容易になるよう、遠距離向け伝送方式はできる限りの配慮をするとされている。具体的には、遠距離伝送方式は“利用制限を受けない方式”に分類するということだ。これには、参加した各事業者が合意している。

 それでは、具体的に伝送損失がどの程度以上の場合を遠距離として認めるのか。これを巡って、出席者の意見は鋭く対立した。

 ソフトバンクBBが提案したのは、NTT線路情報(記事参照)上で「伝送損失40dB」となる場合。根拠としては、同社が提供する遠距離向けサービス、Reach DSLの利用者が現れるのが、40dBからであることを挙げた。

 しかし、イー・アクセスは線路長対伝送損失の図から、「伝送損失62dB」までは通常のサービスでサービス可能と判断。これより遠距離向けの場合にのみ、初めて遠距離通信と定義されるべきとした。

 この件に関する結論は、ほぼ出なかった。折衷案として、伝送損失が60dBを超える距離を対象にするサービスは全くの“無制限”にして、40−60dBの距離を対象にするサービスには、ある程度の優先を認めるが無制限にはしない、とすることも検討されたが、これではあいまいに過ぎるため、合意に至らなかった。今回の報告書案では、この件もやはり明文化されていない。

堂々めぐりのはてに

 一連のDSL作業班の会合では、当事者間の意見の対立が特に目立ち、しかもお互いが歩み寄りの姿勢を見せない点ばかりが目に付いた。

 各事業者は、彼我の意見の差を知り、それを埋めようとはせず、相手のあげ足をとったり、「は?」と悪意を持って聞き返したりするシーンがしばしば見られ、一部の出席者が「議論をまとめるつもりがあるのか疑いたくなる」と発言するなど、険悪な雰囲気になることもしばしばだった。

 前回の合意事項が報告書案に正しく反映されていない、として事務局を批判する声もあり、事務局の人間が「それなら、各人が自分で考えたとおりの文書を作成して、これを“両論併記”のかたちで掲載するほかない」と、怒気を含んだ声で反論するシーンも。また、前述の“40dBか60dBか”の議論では、ある事業者が「私は正直、どちらかに決まるとは思えないんですよ……」と発言。傍聴席も含めた会場全体が苦笑に包まれるといったシーンもあった。

 今回で、報告書の体裁だけはまとまった。確かにまだ議論が残る部分はあるが、事業者間の協調により解決できるはず。こうした争いで、エンドユーザーに不利益が生じないようにしてもらいたいものだ。

関連記事
▼DSL作業班、ついに決着
▼スペクトル管理 〜これまでの経緯
▼TTC標準、焦点の「PSDマスク」
▼「TTC標準には致命的な欠陥がある」──BBTが動議を提出
▼BBT、イー・アクセスCTOを提訴
▼NTTのDSL接続約款変更が条件付きで認可へ
▼情報通信審議会“DSL作業班”の会合、初回から紛糾
▼自己申告? DSL回線の収容ルール
▼“事前の対策”と“事後の対処”〜DSLの収容条件はどちらが正しい?

[杉浦正武,ITmedia]



モバイルショップ

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!