リビング+:特集 2003/06/02 19:38:00 更新

特集:CATV再発見
地上デジタル放送の功と罪 (1/2)

年末には3大都市圏の一部で開始される地上デジタル放送。新たな放送メディアの登場をビジネスチャンスとして捉えているCATV事業者がある一方、頭の痛い問題も生じているようだ

 年末には3大都市圏の一部で開始される地上デジタル放送。新たな放送メディアの登場をビジネスチャンスとして捉えているCATV事業者がある一方、頭の痛い問題も生じているようだ。

 地上デジタル放送は、ハイビジョン放送を含む高画質映像をはじめ、双方向性、モバイル視聴といった多くのメリットがある。先行したBSデジタルやCS110度放送との一番の違いは、4500万といわれる日本の全世帯がいずれ地上デジタルに移行する点。日本の放送サービスを底上げし、また経済的にも大きな効果があると期待されている。

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地上放送のデジタル化スケジュール

 一方、CATVは、BSやCSのデジタル放送を新しいサービスとして取り込んできた。地上のパラボラアンテナで放送を受信し、同軸ケーブルを介して契約世帯にリアルタイムで配信するデジタル放送サービスだ。既にケーブルを引き込んでいる世帯であれば、セットトップボックス(STB)をデジタル対応のものに変更するだけで多チャンネルの高画質放送が楽しめる。アンテナを敷設する必要がなく、また複数の放送、複数の有料チャンネルを視聴しても契約窓口は1つという手軽さも手伝い、徐々にユーザーも増えてきた。

 例えば、神奈川県と東京都の一部でCATVを展開しているイッツ・コミュニケーションズでは、ちょうど一年前の2002年6月1日に「iTSCOM TV プレミア」というデジタル放送サービスを開始した。プレミアの契約世帯数は、約1万3000件。この数字が多いか少ないかは判断の分かれるところだが、「2003年に入ってからの新規契約者だけをみると、9割を『プレミア』が占めている。まだアナログだけで放送しているチャンネルがあるため、古くからのユーザーは移行し難い面もあるが、“勢い”は完全にデジタル放送だ」(同社経営統括室経営企画担当部長の石丸英二氏)という。

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イッツコムの「iTSCOM TV プレミア」で採用されている松下電器製デジタルセットトップボックス

 もちろん、この「勢い」は、単に“高画質”だけが理由ではない。現在、プレミアで受信できるのは、BS/CSデジタルなど36チャンネル。さらにオプションで「デジタルWOWOW」など2チャンネルが用意されているのに対し、アナログの「レギュラー」は24チャンネル+4チャンネル(オプション)。既にチャンネル数はデジタル放送のほうが多くなっている。また、「プレミア」という名称にもかかわらず、月額料金は2500円と「レギュラー」の3800円よりも安い。積極的にデジタル化を進めている同社の戦略が伺える。

 そしてイッツコムは、地上デジタル放送をいち早く手がけることで、この勢いに弾みをつけたい考えだ。同社のサービスエリアは、世田谷区や川崎市など東京23区の中心部よりも西方向に広がっており、地上デジタル放送が始まる2003年12月の時点では当然、“放送エリア外”。しかし石丸氏は、「12月から、地上デジタル放送の8チャンネルすべてを同時再送信する」と言う。

区域外で再送信は可能か?

 確かに、本来ならまだ視聴できないはずの地上デジタル放送をケーブル経由で提供すれば、加入者獲得のうえで大きな武器になるだろう。同社は既に、ホームページやパンフレットの上で「デジタル完全対応」を謳うなど、着々と準備を進めている。

 しかし石丸氏によると、地上デジタル放送の再送信には、大きな課題が残されているという。「問題は、どうやって地上デジタル放送を引っぱってくるか、だ」。

 この場合、問題は技術的面よりも法制上の手続きにある。というのも、ケーブルテレビの“同時再送信”は、直接電波が届く(はずの)エリアで行うことが前提となっており、本来の放送地域から外れた場所で番組を放送する「区域外再送信」は例がないからだ。仮に区域外再送信が可能になると、極端な話、地方のCATV局でもキー局の番組を放送できることになり、地域性が損なわれるなどの弊害が生じかねない。このため、「少なくとも、アナログ時代は不可能だった」(石丸氏)。

 ただし、可能性を語るなら、有利な材料もある。放送局や総務省が地上デジタル放送を普及させたくでも、開始当初は国土の大部分に電波は届かない。CATVによる再送信は、放送のデジタル化に弾みをつける契機となり得るのだ。また、デジタル放送波は届かないとはいえ、イッツコムの場合はアナログで同じキー局の番組が放送されているエリアだ。実現のためには、各放送局と「同時再送信同意書」を交わす必要があるが、同社は現在、NHKや民放各局、そして放送番組著作権保護協議会(番協)などに働きかけているという。

 この試みは、地上デジタルがCATVに新しいビジネスチャンスをもたらす例として注目できる。地上デジタル放送の区域外同時再送信が実現すれば、全国のCATVユーザーや事業者にとって福音となるだろう。

 しかし一方で、地上デジタル放送がCATV事業者やエンドユーザーに負担を強いる可能性も指摘されている。

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[芹澤隆徳,ITmedia]



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