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2003/06/04 23:59:00 更新 |
特集:CATV再発見
双方向TV、夜明け前
地上デジタル放送の開始にあわせ、双方向通信機能を搭載したSTBの採用に踏み切る事業者も少なくない。過去に幾度となく失敗を繰り返してきた“TVでインターネット”だが、CATVではどのようなアプローチでこれに挑むのか
CATVは、デジタル化とともに双方向TVへの道を歩み出した。地上デジタル放送の開始を起点として、通信機能を持つセットトップボックス(STB)と家庭用TVを使った双方向ビジネスを立ち上げようとしている。過去に幾度となく失敗を繰り返してきた“TVでインターネット”だが、CATVではどのようなアプローチでこれに挑むのだろうか。
日本ケーブルラボ(JCL)が5月に策定した「JCL SPEC-010 デジタル放送双方向運用仕様(暫定版)」は、BS/CSを含む各種デジタル放送用のSTBで、インターネットやWebメールなど各種の双方向サービスを使うための仕様だ。今のところは付加価値的な位置付けだが、Webアプリケーションはもちろん、将来のVoDなども見越して、CATVのデジタル放送リマックスシステム(デジタル放送をCATV向けに変換し、再編して放送する仕組み)に双方向通信機能を持たせるのが主旨だ。
ただし、「実際には地上デジタル放送(と組みあわせた形)が完成形」(JCLの原田守夫副所長)というように、地上デジタル放送の開始が、双方向機能搭載のトリガーになることは間違いない。地上デジタル放送は、投資効率の点からみてもデジタルサービス開始の好機となるからだ。
SPEC-010のSTBには複数の仕様があり、ベーシックな「STB100」と「STB200」(200番はHDTV対応)は上りに電話回線を使うが、「STB300」以上にはDOCSIS仕様のケーブルモデムが内蔵される。HTMLブラウザは300番以上のオプションとして設定されており、「ほとんどの機器メーカーはブラウザを搭載するはず」(JCL)という。STBは、デモンストレーションに登場したパイオニアのほか、松下電器産業、東芝といったベンダーが開発を進めている。
まずはショッピング
双方向サービスに向け、実際に動き出した事業者もある。名古屋市に本拠を置くシーテックと中部ケーブルネットワーク(CCNet)は、STBによるWebブラウジングとWebメールサービスの実施を2月に発表。6月からは「テレビネット」として大々的にアピールしていくという。
また、シーテックと提携しているスターキャット・ネットワークス(名古屋市)も、スケジュールこそ未定だが、地上デジタル放送の開始にあわせてHTMLブラウザ搭載のSTBを採用し、双方向アプリケーションを提供する予定だ。
スターキャットによると、WebやWebメールなどのベーシックなサービスにくわえ、CATVだけで完結するショッピングモールの構築を計画中という。これは、TVの通販番組やWebページで見た商品を、その場で購入・決済できるというもの。代金はCATV視聴料と同じ口座から引き落とされるため、手軽に利用できるのが最大のメリットだ。
「CATV事業者は顧客情報を持っているため、口座引き落としの処理も容易だ。双方向サービスでは、ビジネスになるアプリケーションを提供していきたい」(同社)。
TVショッピングの隆盛が示すように、TVと物品販売は相性のいいサービス。また、SPEC-010の双方向システムでは、ブラウザの画面に放送中のデジタル放送サービスの映像を“子画面”としてはめ込む「TVプラグイン機能」を実装。あらかじめショッピングポータルサイトを構築しておけば、番組の放送にあわせて商品の詳細情報や購入申し込み画面を表示可能になる。アプリケーションを補完する機能が最初から盛り込まれているわけだ。
もう1つの有利な点は、CATV本来の地域性といえる。インターネットの情報は基本的に全国規模だが、CATVは地域限定だ。地元の店舗情報はもちろん、宅配サービスなどすべての情報を身近な場所から入手できる。例えるなら、iモードメニューで「iエリア」選択までの手順を省いたようなもの。TVの手軽さと合わせ、主婦層の支持を得ることが期待されている。
VoDは数年先?
一方、VoDのほうはすぐにサービス開始とはいかない模様だ。理由はやはり、著作権処理の仕組みが整えられていないこと。「VoDは良い事業になると思うが、作品が集まらない。メジャーな映画が、上映後あまり間をあけずに提供できるのなら手がけるが、今はまだ無理がある。早くても5年は先になるのではないか」(スターキャット)。
開局当初はアナログによるPPV(ペイ・パー・ビュー)を手がけていたというイッツ・コミュニケーションズも同意見だ。「当時はコンテンツが少なく、視聴料が高価だったために失敗した。現在はコンテンツホルダーも流通経路の開拓に前向きだが、著作権処理の仕組みが複雑すぎる。早い時期にVoDビジネスが花開くとは思えない」。
逆に、すぐに集めることのできるコンテンツといえば、旧作映画かアダルト作品。メインユーザーはファミリー層というCATVだけに、アダルトをリビングルームのTVで鑑賞する需要は少ないはずだ。いずれにしても、両社の見解は「デジタルのVoDは数年先」というものだった。
単なる通信インフラではない
CATV局は長い間、毎月のTV視聴料のみを収入源としていた。最近になってインターネット接続がサービスラインアップに加わったものの、競争による値下げ圧力や設備投資の負担もあり、大きくジャンプアップするには至っていないのが現状だ。
そのような状況のなかで、双方向サービスには“新しい収入源”という期待がかけられている。例えば、前述のショッピングモールのようなアプリケーションでいえば、CATV事業者が「モールの出店料」や「決済代行手数料」といった形の新しい収入源を得ることができるだろう。
仕様を策定したJCLの原田氏は、双方向機能をデジタルSTBの単なる“付加機能”から新しい収益源に昇格させるのは、地域性を活かしたアイデアだと指摘する。
「CATVは、接続時に端末を認証するなどセキュリティ面でも優位性がある、いわば地域イントラネット。単なる通信インフラとして捉えては見誤る。TVを使った双方向サービスは、新しい“ビジネスキーワード”になるだろう」(原田氏)
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CATV再発見 3/5 |
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[芹澤隆徳,ITmedia]