リビング+:ニュース 2003/08/05 23:56:00 更新

連載:enjoy@broadband.home.net
「PSX」の姿を想像してみよう

いきなりの発表で「多くの誤解を生んでしまった」というソニー・コンピュータエンタテインメントの「PSX」。年内にも登場するこの製品は、一体何を目指すものなのか。ゲーム機なのか、AV製品なのか、はたまたホームネットワーク製品なのか? 久夛良木社長のPSXに関するコメントなどから、PSXの姿を想像してみよう。

 先週開催された「PlayStation Meeting 2003」でソニー・コンピュータエンタテインメントの久夛良木健社長は、2つの新しい製品に関する追加情報を提示した。そのうちの1つはPlayStation Portable「PSP」。そしてもうひとつが「PSX」だ(話はそれるが、初代PlayStationの開発コード名はPS-X。懐かしさを感じている人もいるのではないだろうか)。ここでは久夛良木氏のPSXに関するコメントを紹介しながら、どのような製品なのかを想像してみることにしたい。

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「PlayStation Meeting 2003」で講演した久夛良木健社長

 主なディテールはこちら)にも掲載されているが、わかっている点をまとめると……

  • DVD±R/RWドライブ
  • HDD内蔵
  • USB 2.0
  • メモリースティックスロット
  • イーサネットポート
  • アナログ地上波/アナログBSチューナー内蔵
  • PS2チップセット(エモーションエンジン+グラフィックシンセサイザ)
  • PS2用OSカーネル

 これらの技術要素を統合したものになる。

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5月28日の「ソニーグループ2003年度経営方針」説明会で唐突に発表された「PSX」。説明会は、いきなり「プレイステーション新製品説明会」になってしまった

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「フローティングデザイン」と呼ばれるきょう体は、今後主流になると目されている液晶テレビやPDPにも合い、リビングルームにとけ込むようなデザインを目指したという

 ただ、いきなりの発表で、しかも詳細な内容は公開されなかったためか、「多くの誤解を生んでしまったようだ」(久夛良木氏)という。どのような誤解かは例示しなかったが、久夛良木氏の話からすると、もっとも大きなものは“家電のまねごとができるゲーム機”という捉え方だったのではないだろうか。中には「ゲーム機と家電のハイブリッドなんて、これまでに何度も失敗している。複合機なんて売れるわけがない」と切って捨てる意見もある。

 しかし、そう簡単なものではないようだ。というのも、PSXが発表された業績説明会でも、先日のPlayStation Meetingでも、久夛良木氏は「これはSCEで販売する製品ではなく、ソニーで販売するAV機器」と説明しているからだ。これまでのゲーム複合機は、何らかのAV機器にゲーム機を統合する、あるいはゲーム機にオマケ的にAV機器の要素を組み込んでいるものがほとんどだった。PSXはそれらとは違い「ポストVHSを目指す製品」(久夛良木氏)である。

 では、AV家電売り場で最も伸びているDVD/HDDハイブリッドレコーダを、PS2のアーキテクチャを応用して開発した、他社の後追い製品なのか? というと、どうもそうではないらしい。PSXにとってハイブリッドレコーダとしての機能は、ある側面だけを表したものにしか過ぎないためである。

 PSXには大きく分けて、3つの側面がある。

 ひとつは前述したハイブリッドレコーダとしての側面。もうひとつはブロードバンドユニット内蔵のプレイステーション2としての側面(PSXが売れればBBユニット付きPS2のインストールベースが増えることを意味している)。そしてホームネットワークのコアデバイスとしての側面である。

DHWG対応(?)のデジタルメディアサーバ/プレーヤーにも

 デジタル化が進むAV家電の中、次の大きなステップとしてホームネットワークが注目されている。久夛良木氏も「新しいデジタル化の波の中で、PCのサイドからホームネットワークに近付こうとするベンダー、家電世界の側から近寄るベンダーなど、さまざまな業界がホームネットワークへと入ってこようとしている」と話す。

 つまりPSXは、ゲーム業界の側から、デジタルホームネットワークの世界へと近寄る製品といえるのかもしれない。だから、PS2のコンテンツはすべて動作するが「ソニーらしいデザインで作ったAV家電であって、決してゲーム機ではない」となるのだろう。BBユニット付きPS2というのは、あくまでもオマケというわけだ。

 また同氏は、PSXがネットワークを通じてHDDに蓄積したメディアを配信するデジタルメディアサーバとしての機能、それにデジタルメディアをネットワーク経由で再生するプレーヤーとしての性格を持たせるとしている。ここで気になるのが、どういったサーバになり、どんなサーバのクライアントになるのか? という点だ。

 たとえば現在、それぞれカンパニーが異なるとはいえ、同じソニーの中にメディアサーバ/メディアプレーヤー機能を持つ「VAIO」があり、「GigaPocket」や「VAIO Media」といったものが存在する。その一方で、Linuxベースで開発されている「CoCoon」シリーズがあり、こちらはメディアサーバ/メディアプレーヤーとしては(現時点では)機能していないが、イーサーネットでネットワークへ接続できるという点で機能的なオーバーラップもある。

 これらネットワーク指向の強いソニー製品は、まだ相互接続を実現していない。が、VAIO Mediaの担当者は「社内での横の連携は強めている。近い将来、間違いなく相互接続されるようになる。また、接続のための手順はソニー社内だけで閉じたものにはならない」と明言していた。

 とすれば、VAIO、CoCoon、それにソニーブランドで発売されるPSXが、相互接続されないと考える方が不自然だろう。VAIOのAVコンテンツをPSXで再生したり、PSX内のAVコンテンツをVAIOで再生する、あるいはCoCoonチャンネルサーバが収集したテレビ番組をPSXで再生するといったことが、ネットワーク透過で行えるようになると考えていいのではないだろうか。

 おそらくPSXのメディアサーバ/メディアプレーヤー機能は、Digital Home Working Group(DHWG)が進めている標準化に準拠したものになるだろうと、ここでは推測してみたい(6月30日の記事参照)。DHWGとは17社で構成される組織で、家電、パソコン、携帯電話といったデジタル技術を応用した家電製品の主要ベンダーが含まれている。DHWGの目的は、ホームネットワークでさまざまなメディアを扱うために必要な決めごとを作ることだ。

PS2のピクセル処理能力をUIに応用

 ではなぜ、PS2のアーキテクチャを用いる必要があるのか? ネットワーク指向の強いホームネットワークの中心デバイスを狙うのであれば、PS2用の独自カーネルではなく、ネットワークに強い別のプラットフォーム上に製品を構築する方が楽だろう。CoCoonは、まさにそうした点を狙ったシリーズである。

 しかしPS2にも、ネットワークゲームへの対応を行うため、PS2カーネルへのネットワーク機能の実装が進められてきた。それよりも、PS2の持つピクセル処理能力を用いて、より魅力的なユーザーインタフェースを構築することを選択したのがPSXといえる。

 PS2は並列にメディアデータを処理することが得意なアーキテクチャであり、また3Dグラフィックをレスポンス良く動作させる能力に長けている。いずれもゲーム機に必要な要素だからだ。

 複数のポリゴンに貼り付けられた別々の動画が同時に動きながら、ポリゴンがレスポンス良く動く独特のユーザーインタフェースをPSXのデモとして発表時に見せられたが、強大なパワーを持つPCはともかくとして、並の家電にPS2と同じような3Dグラフィック性能を求めることはできない。久夛良木氏の言う「リアルタイムレスポンス」をAV機器で実現するために、すでに価格がこなれているPS2チップは最適だ。

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PSXのメニュー画面

 またPS2は2000年時点では最先端だったが、現在は半導体技術がさらに進み、クロック周波数を向上させる余地が大きく残っている。おそらくほとんどコストを上げることなく、動作クロックを何倍にも上げることができるはずだ。そうすれば、複数のビデオストリームを同時に処理しながらポリゴン上のテクスチャーとして表示し、そのバックグラウンドでメディアサーバとしての役割を持たせることも十分に可能であろう。

 ただしビデオレコーダ部のエンコーダーなど、AV機器としてのコアとなる機能までを、PS2チップで処理するのは無理がある。再生処理に関しても、現在のPS2のDVD再生機能を見る限り、最新のプログレッシブDVDプレーヤー並みに高い画質を実現できるのか、疑問は残る。

AVベンダーならではの“質”を実現できるか

 PSXがAV機器であってゲーム機ではない、というのであれば、ゲーム機のDVD再生機能とは一線を引くAV機器としてのクオリティを持っていなければならない。ここでいうのは、単純に画質だけの話ではない。

 以前に紹介したCoCoonシリーズのハイブリッドレコーダは、Linuxの上に構築したソフトウェアとアップグレード性の高さはあったが、使い勝手や絶対的な画質といった面で、あまり魅力のある製品には見えなかった。

 コンセプトやプラットフォーム技術が優れていたとしても、既存のAV機器にユーザーが慣れている以上、それらに引けを取る部分があっては、幅広いユーザーには拡がっていかない。年末登場の他社ハイブリッドレコーダよりも、(見た目のカッコ良さではなく)高画質で扱いやすいものにならなければ、他の部分でのアドバンテージを活かせない。

 もちろん、価格との関連性も無視はできない。久夛良木氏はPSXについて、インパクトのある価格になるとは話していたが、同時にゲーム機のようなソフトウェアで儲けるビジネスモデルではなく、単体のAV機器として利益の出る構造になるとした。

 今年末は、AV機器ベンダー各社とも、ハイブリッドレコーダ拡販のために、かなり低価格化が進むだろう。そうした中で、どの程度の価格競争力があるのか、AV機器としての質をどのあたりに設定しているのか。

 画質、操作性、機能、レスポンスなど、すべてにおいて、一般的な家電レベルを超えたものになるならば、PSXは素晴らしい製品になるだろう。仮にその逆だったら……、いやここではやめておこう。年内にそれは登場する予定なのだから。

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▼ソニー

[本田雅一,ITmedia]



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