リビング+:ニュース 2003/09/04 22:07:00 更新

デジタル家電フォーラム2003
地上デジタル放送にみる親子丼の作り方

「卵が先か、鶏が先か」。これを地上デジタル放送に当てはめると、TVなどの受信機が“鶏”で、サービスエリアが“卵の白身”、コンテンツは“黄身”になるらしい。

 新しいサービスが始まるとき、必ず議論の場に持ち出される言葉がある。「卵が先か、鶏が先か」。これを地上デジタル放送に当てはめると、TVなどの受信機が“鶏”で、サービスエリアが“卵の白身”、コンテンツは“黄身”になるらしい。

 電子技術産業協会(JEITA)主催の「デジタル家電フォーラム」最終日。2003年末に3大都市圏から提供が始まる地上デジタル放送をテーマにパネルディスカッションが行われた。2011年のアナログ停波を前提に進められている地上デジタル放送は、開始前から普及が約束された珍しいサービスだ。しかし、一般視聴者の認知度は高いとはいえず、移行期間の短さやTV買い換えにかかるコスト負担などが懸念材料になっている。

 ソニーホームネットワークカンパニー渉外担当の河上弘巳氏は、“メーカー代表”という立場からこう指摘する。「日本のTV受信機市場は年間1000万台。しかし、国内にある1億台のTVを2011年までに置き換えるとなれば、年間1250万台を売らなければならない」。8年間にわたり、25%増の販売台数を求められるわけだ。

 同氏によると“鶏”に求められる条件は2つあるという。地上波デジタル対応の受信機が市場に存在すること、そしてユーザーの購入意欲を刺激する価格であること。対応予定の受信機はいくつか発表されているが、ラインアップをみればわかるようにPDPや液晶といった高付加価値モデルが中心だ。全世帯にあまねく普及させるとなれば、低価格化はもちろん、ラインアップの拡大も求められる。

 しかし、河上氏には自信がありそうだ。「メーカーは常に競争にさらされており、低価格化は必ず実現する。(高付加価値モデル以外の)21インチ以下の製品がデジタル化されるタイミングで、一気に普及するはずだ」。

 河上氏によると、むしろ問題は“黄身”の部分だという。「当面はサイマル放送(アナログ放送と同じ内容)という状況の中で、いかにユーザーの購入意欲を刺激するか?」。

ハイビジョンが中心に

 日本放送協会(NHK)総合企画室(デジタル放送推進)統括担当部長の土屋円氏によると、NHK総合テレビは1日の番組のなかで68%をハイビジョン化することが目標だという。ゴールデンタイムを含む5時から24時の時間帯に限れば、実に82%がハイビジョン放送となるという。「これはピュアハイビジョンという意味であり、アップコンバートを含めたら100%になる」。

 一方、NHK教育テレビではマルチ放送などの提供も検討している。地上デジタル放送は、1チャンネルぶんの帯域でHD放送×1もしくはSD放送×3チャンネルを送信可能だ。このメリットを活かし、「たとえばお昼前の時間帯などに主婦向けの料理番組と子ども向けの教育番組など、3つの番組をマルチ放送で提供することを検討している。視聴率は期待できないが、分散した視聴者ニーズに応えることができる」。

 データ放送では、ニュースや気象情報、鉄道情報など地域性を重視したコンテンツを検討していく。「BSデジタルでも気象情報は好評だった。地上デジタル放送では、鉄道情報や台風の進路情報など、BSデジタルではできなかったローカルな、細かい情報も提供したい」。

ビッグイベントに合わせて

 もっとも、データ放送やマルチ放送は認知度も低く、今のところTV買い換えの原動力になるとは考えにくい。NHKの土屋氏、そしてフジテレビジョン技術局役員待遇技師長の関祥行氏も同意見のようだ。「重要なのはやはり“メインストリーム”のハイビジョン化だ」(関氏)。

 “メインストリーム”については、面白いデータがある。NHKの「BSデジタル受信者調査」によると、NHK総合とBSデジタルのハイビジョン放送で同じ番組を放送しても、一般番組とサッカーのワールドカップ中継では視聴傾向が全く異なるという。普段はあえてデジタルBSチューナーの電源は入れない人も、大きなイベントのときにはハイビジョン放送を選ぶ傾向が伺える。

番組名総合BShi
一般番組おはよう日本11.9%3.7%
ニュース712.8%4.7%
W杯開会式15.2%24.8%
開幕戦(前半)13.9%26.6%
「BSデジタル受信者調査」2002.6より

 地上デジタル放送は、1960年代のカラーTV化に続く大変化といわれる。白黒からカラーへの移行時には「皇太子殿下ご成婚」や「大阪万博」といった大イベントの力を借りても、13〜14年の年月が必要だった。それを、今回は8年間でやらなくてはならない。

 牽引役となりそうなビッグイベントは、2004年のアテネオリンピック、2006年のワールドカップサッカー ドイツ大会、2008年の北京オリンピックなど。NHKの土屋氏は、各地の開局や送信出力アップによるエリア拡大と、これらのビッグイベントを「有機的に結びつけていく必要がある」と指摘した。うまく連携すれば普及の起爆剤になり得る一方、間に合わなければタイミングを逸してしまうからだ。

 「たとえば、来年のアテネ五輪までに多摩中継局の開局を間に合わせたい。こうしたタイミングが、地上デジタル放送の普及を左右する鍵になるだろう」。

 黄身だけの卵や白身だけの卵は、あまり美味しくないものだ。完全な形の卵と、そしてできるなら安い鶏も提供してもらい、食生活ならぬライフスタイルが豊かになることを期待しよう。

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関連リンク
▼社団法人電子技術産業協会

[芹澤隆徳,ITmedia]



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