リビング+:ニュース 2003/10/06 23:59:00 更新

インタビュー:キャスティ、春山昭彦社長
地上波のビジネスモデルをブロードバンドに

「ひかり荘」などユニークなコミュニティを形成していることで知られる「casTY」。一方、設立以来一度も赤字を出したことがない財務面の健全さも特徴だ。キャスティの春山昭彦社長に同社のビジネスモデルと今後の展開を聞いた。

 東京電力と吉本興業の合弁会社キャスティが運営するブロードバンドコンテンツサイト「casTY」。「ひかり荘」などユニークなコミュニティを形成していることでも知られるが、一方で設立以来一度も赤字を出したことがない財務面の健全さも特徴だ。キャスティの春山昭彦社長に同社のビジネスモデルと今後の展開を聞いた。

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キャスティの春山昭彦社長

 casTYのコンテンツは、掲示板への書き込みなど一部登録制を採用しているものの、基本的に誰でも無料で利用できる。また、「TEPCOひかり」や関連ISPのバナーは設けているが、広告費はまったく発生していないという。一見、収入源がないように見える同社が、ネットベンチャーらしからぬ黒字経営を維持している理由はなにか。

 キャスティが設立されたきっかけは、2001年5月頃に東京電力がFTTH事業に参入する話が出たことだ。「東電は、ブロードバンド事業の開始にあたりコンテンツを探していたが、やはり著作隣接権などが課題になった。一方の吉本興業は、CS放送などに番組を供給しており、さらに軸足を広げようと考えていた」(春山氏)という。

 新しい活動の場としてブロードバンドに目を付けた吉本興業に対して、著作権処理などの必要がない独自コンテンツを求めた東京電力。利害の一致する両社が手を組み、企画会社を設立したのは2001年11月30日だ。その後、約4カ月を経て2003年3月にキャスティは事業会社となった。

 「ブロードバンド専門ということもあり、さほど大きな事業規模にはならないことが分かっていた。そこで、企画会社のときにコーポレートミッションを“TEPCOひかりを世の中に認知させること”に設定した」。つまり、東電の依頼を受け、企画から制作までをすべて請け負う完全受託のコンテンツ制作会社だ。

 「東電とキャスティは、いわば放送局と制作会社の関係。事業にかかる費用を東電に出してもらい、コンテンツの“完パケ”を納品する。制作に係るリスクはすべてキャスティが負担するため、(東電にも)決して悪い話ではない」。

 放送の世界では一般的なこの方法により、委託する東電側は、コストオーバーランの危険なく、コンテンツの方向性や質も保証されることになった。一方のキャスティは、制作費の範囲で作業を進めている限り、赤字になることはない。そして、東電というスポンサーの存在によって、ユーザーは無料で「ひかり荘」などのコンテンツを楽しめるわけだ。今のところ、登録会員数やユニークユーザー数は非公開だが、ページビューは月間約2000万に上るという。

 同社は、サイトの立ち上げから3年間、つまり2005年までは現在の受託制を維持する方針だ。理由は、3年の間にTEPCOひかりをはじめとするFTTHが普及し、リッチコンテンツの市場が拡大すれば新しいビジネスモデルが成り立つと見ているため。ユーザー層の拡大により、広告モデル、有料コンテンツ配信、eラーニングなど多くの選択肢の中から時流にあったビジネスを選択できるという。また、たとえば吉本芸人のライブなどをネット配信したあと、DVDパッケージ化するなど、コンテンツの2次利用も検討していく。

「ひかり荘」のコンセプト

 casTYの主力コンテンツといえば、やはり「ひかり荘」だろう。ひかり荘は、アパートを模したスタジオにさまざまな住人が住み込み、部屋の様子を生配信しながらユーザーとコミュニケーションする24時間365日の動画チャットだ。書き込みには会員登録が必要だが、これは単に“荒らし”を防ぐための措置であり、すべて無料で参加できる。

 中の住人たちは、いずれも「何かしらの分野で専門家っぽい人たち」だ。タレントをはじめ、モデル、フードコーディネーター、ネイルアーティストなど、その肩書きはバラエティ豊か。“っぽい”というだけあり、中には「新米ママ」「主婦一年生」など、どうやって集めたのかと疑問を禁じ得ないケースもある。

 「開始当初は、制作者のツテを辿って(出演者を)探していたが、最近はセレクションを行っている。チャット自体も、住人が好き勝手に進行しているように見えるだろうが、実際には室内のインテリアやカメラ配置はデザイナーが担当し、作家陣が段取りを決める」。

 たとえば、ひかり荘の一覧画面をみると、カメラの画角がすべて異なることに気づくだろう。しかも、あくまで自然にそうなったかのような“演出”が施されている。利用者が参加しやすい状況を設定し、ある程度の枠の中とはいえ、気軽に疑問を投げかけたり、また自ら情報を発信することができる環境を整えたわけだ。これは、「現場の職人芸」だという。

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ひかり荘。ペットや庭のカメラもある

 一方、住人として吉本興業のタレントが出演する機会もあるが、実際はファンが期待するほど多くはない。これは、「エンターテインメントサイト」という色を付けたくないためだという。

 「ライブがいけないとは思わないが、テレビで見られるものはテレビで見ればいい。FTTHならではの双方向性や広帯域を活かし、生活に密着した便利で楽しいコミュニティサイト。これがひかり荘のコンセプトだ」。

casTYが目指す新しいコミュニティサイトの形

 さらに、ひかり荘にはもうひとつ、重要な役割がある。それは、ユーザーから個人情報の発信を促し、新しい才能を発掘、発見するということ。平たくいえば、コミュニティに集まったユーザーが尋ねる立場だけでなく、現在の住人と同じように、ほかのユーザーから尋ねられる立場にもなれるという意味だ。

 「たとえば、何か知りたいことがあったとき、過去に同じ経験をした人をサイト内から簡単に検索できるシステムを作りたい。ユーザーが持っている情報は不正確かも知れないが、問題解決のきっかけを与えることはできる。つまり、“隣のオジさんにきく”感覚で、ユーザー同士がお互いに役に立てるコミュニティサイトだ」。

 春山氏によると、マッチングシステムのエンジン部分は既に用意できているという。また、ひかり荘には「マイページ」と呼ばれるユーザーの個人ページを作る機能があり、その中には、まだ動いてはいないものの、動画を配信するためのスペースも用意されているのだ。

 ふらりと立ち寄ったユーザーが、いつの間にか住み込んでしまう。そんなコミュニティサイトも面白いかもしれない。

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▼casTY

[芹澤隆徳,ITmedia]



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