リビング+:特集 2003/10/21 23:59:00 更新

特集:秋の夜長はイーブックで過ごす
注目を集める、読書専用デバイス

電子書籍の現状を多角的に紹介する「特集:秋の夜長はイーブックで過ごす」、第2回はコンテンツ閲覧用のデバイスを扱う。PCでもなく、PDAでもなく、電子書籍のためだけに開発された専用デバイスとは、どのようなものがあるのか?

 電子書籍の現状を多角的に紹介する「特集:秋の夜長はイーブックで過ごす」、第2回はコンテンツを閲覧するための専用デバイスを扱う。

 従来の電子書籍サービスでは、ユーザーは自らのPCに専用ビューワソフトをダウンロードして、PC画面上で視聴するといった利用シーンが考えられていた。しかしこれでは、たとえノートPCを用意したとしても、通勤電車内などでイーブックコンテンツを気軽に閲覧する……といった楽しみ方は考えにくかった。

 電子書籍の異なるアプローチとしては、イーブックコンテンツをPDAなどのモバイル端末に表示させる取り組みもある。たとえばシャープは、XMDF(用語参照)という電子書籍用フォーマットと、「ブンコビューワ」と呼ばれる専用ビューワを用意している。ユーザーはこれを利用して、電子書籍のフォント、行間隔などのレイアウトを自由に調節できるほか、パラパラ動画や音声再生といったマルチメディア機能を楽しむことができる。

 ただし、表示にPDAというデバイスを利用する以上、やはり液晶画面の解像度、サイズ上の制約があるほか、電池寿命の限界なども存在する。以上の点から、業界では“読書専用端末”を待望する声が大きかったことは、過去にも何度か触れたとおりだ(記事参照)。

 こうした背景があって登場した読書専用端末だが、それでは、その中身は一体どのようなものか? 話題の端末を、見ていくこととしたい。

作家の要望に応えた「ΣBook」

 今秋から市場に投入される読書専用端末として、注目を集めるのが松下電器産業の「ΣBook」だ。価格は3万円台で、一般の書店で販売することを考えているという(記事参照)。

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 自発光しない記憶型液晶(コレステリック液晶)を搭載し、低消費電力を実現したことが特徴。松下電器産業のパナソニックシステムソリューションズ社、eソリューション本部 eシステム開発グループの早川佳宏グループマネージャーは、「アフリカ一周旅行をしても電池が大丈夫なように」設計した、とその開発コンセプトを説明する。

 端末はフォントを利用せず、画像をスキャンした1枚のイメージとして扱うことも、ポイントの1つ(記事参照)。早川氏は、「フォントだと、ソフトウェアの都合で勝手に改行したり、改ページしたりしてしまうケースがある」と話す。

 しかし、こうしたレイアウトを考慮した上で原作を書いたという作家も多い。スキャン画像なら、著作物の同一性が保持されるというわけだ。

 また、2画面液晶による見開きの視聴スタイルも、作家サイドがこだわった点だと、早川氏。「漫画家が特に言ってきたのは、シーンによっては見開きで強調したいということ」。こうした著作権者の声に応えながら、ΣBookは開発されたのだとした。

「本を開発した」 〜単機能は当然

 ΣBookを見ていて気が付くのは、その機能が極めて限られている点だ。操作体系にしても、左右の改ページと、しおりをはさむボタンぐらいしか用意されていない。そのしおりにしても、3カ所にはさむことができるだけだ。

 早川氏は、このシンプルな操作体系に自信を見せる。たとえば、「しおりは3つで十分」なのだという。

 「ユーザーの声を聞いていると、3つあれば、全ての本が読める。たとえば、海外の推理小説を読むとする。事件現場の地図が描いてあるページで1カ所、横文字の登場人物が紹介してあるページで1カ所、そして読みかけの部分に1カ所だ」。

 ΣBookでは、前述のとおりフォントを使用していないため、たとえば単語ベースでテキストを検索する、といったことも行えない。

 しかし、早川氏はこれも問題はないと考える。「我々は、“本”を開発したのです。本に検索機能は、ないですよね? 確かに、機能を付加しようとすれば、いくらでもできる。しかし同時に、操作が複雑にもなってしまう」。それでもいいのだろうか、と早川氏は問いかける。単機能での割り切りは、幅広いユーザーを獲得するためにも、必要なことと判断したのだろう。

対抗馬? E-Inkの電子ペーパー

 ΣBookは現状、読書専用端末として最初に商品化されると見られており、そのゆえに注目度も高い。しかし、このほかにも以前から話題になり、また今年度中には製品展開が予定されている技術がある。

 それは、米E Inkの「マイクロカプセル型電気泳動方式」を採用した電子ペーパーだ。これは、表示パネルに白い粒子と黒い粒子が入ったマイクロカプセルを敷き詰めるというもの。電圧をかければ、正の電極側に黒い粒子、負の電極側には白い粒子が引き寄せられる――という仕組みだ(詳細は過去記事参照)。

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E Inkの電子ペーパーを搭載したデバイスの参考出展(WPC EXPO 2003会場にて撮影)

 ΣBookのコレステリック液晶同様、バックライトを必要としない反射型表示であるほか、電源をオフにしても表示内容が保持される。このため、低消費電力を実現できる。また、その薄さのゆえに曲げたり丸めたりできるというフレキシブルさも魅力だ。

 コレステリック液晶よりも、低コストで大面積を実現できるというメリットもある。また、コントラスト比が10.8:1と高く、半透過式の白黒STN液晶の“4.1:1”や、新聞(Wall Street Journal)の“7.0:1”を上回る(*)ことにも注目したい。

*数値はいずれも、45度の角度で情報から照明し、かつ視角が0度の場合

 E Inkと提携して、マイクロカプセルを一面に塗布した「前面板」を生産する凸版印刷は、このディスプレイを用いて年度内には何らかのデバイスを製品化する予定だと話す。

 デバイスの外観は、従来の参考出展とは異なるものになる見込み。メーカー名などは、現時点では「ノーコメント」とされた。今後、こうしたデバイスがどれだけの完成度をもってユーザーの前に姿を表すのか、またそれによってイーブックビジネスの在り方を大きく変えることができるのか。今後注意すべきポイントだろう。

(次回は、ΣBookのレビューをお届けします)

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[杉浦正武,ITmedia]



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