リビング+:特集 2003/10/22 19:52:00 更新

特集:秋の夜長はイーブックで過ごす
“紙の域”に達した? 電子ブックビューワーΣBook、試用中

今回の特集「秋の夜長はイーブックで過ごす」では、ここまで、コンテンツの現状や閲覧用デバイスの今後について伝えてきた。第3回は少し趣向を変えて、現実の形となった記憶型液晶採用電子ブックビューワー「ΣBook」を実際に触ってみる。
画面:約7.2インチ記憶型XGA16階調グレイスケール液晶×2枚
記憶媒体:SDメモリカード
メーカー:松下電器産業
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 これまでにも電子書籍専用端末というものは、さまざまな形態で登場していた。ある程度の展開を見せたNECのデジタルブックプレーヤのほか、辞書的な意味合いを強めて広がったソニーの電子ブックプレーヤー(データディスクマン)などなど。しかし、いずれも紙の出版物の代替となるには、決め手には欠けていたといわざるをえない。

 現在、電子書籍データにはいくつかの形式があり、それぞれに配布・販売が行われているが、それを読むのは主にパソコンあるいはPDA上ということになっている。気軽に利用できるノートPCの普及や、PDAの高解像度化により、それらで読む電子書籍もさほど悪くはない。それでも、専用端末の登場が望まれていることもたしかだろう。近いうちに発売が予定されているΣBookは、そんな期待を現実の存在にまで昇華させようと試みられた製品である。いまのところ、公募したモニターに試用が依頼されている段階だが、筆者も運良くこのモニターに参加できたので、レポートしてみたい。ただし、あくまでもモニター段階であり、踏み込んだテスト・レビューを行っているわけではないことは、あらかじめご了承いただきたい。

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見開きを意識しての液晶2枚利用。SDスロットは左上部にあり、真ん中に単3乾電池2本を収納。ボタンは下部に並ぶ。基本的には左右端のボタンを使ってのページめくりを中心としたシンプルな操作系だ

 ΣBookでは、まず、なるべく紙の本に近づけようという目的が感じられる。液晶には日本初という記憶型液晶を採用し、画面書き換え時以外には電力を必要とせず、電源のオン/オフという概念をなくした。そのため、電力消費は抑えられ、単3乾電池2本で3カ月以上という持ちのよさを実現しつつ、画面は常に表示したままという利便性にもつながっている。液晶パネルは7.2インチXGAタイプ。具体的にいえば、画面自体は文庫本とほぼ同じ(幅が数ミリ大きい)、ジャンプコミックスなどコミック本と比べると、幅は同じで高さが2センチほど少ない。この液晶パネルが縦配置で2枚装備され、すなわち見開きを再現している。7.2インチでXGA(1024×768ドット)というと180dpiとなり、印刷物とまったく同じとはいかないものの、まず満足のいく表現力といえる。

 見開きという形態は、通常の文庫本小説などを読むのには必要ないのだが、コミックや、イラスト・写真をメインにした書籍では、見開きを意識したページも存在するものなので、そのあたりに配慮した設計だろう。つまり、「紙の本に近づけよう」という目的は、「まずは現在流通している紙の本(あるいはその版下データ)をそのまま再現する」ことにほかならないわけだ。

 視認性も薄暗い環境(うちのようにリビングなのに電球1個という特殊な住居空間とか)ではやや見にくく感じるが、通常の家庭やオフィスの室内程度の明るい場所なら問題なく、かなり見やすい。液晶は16階調グレースケールで、現状機種ではブルー&ホワイトの表現となる。最初は少し違和感があるが、マンガ週刊誌などでもこのような色の印刷はありうるので、慣れればまったく気にならない。ただし今後は、通常のブラック&ホワイト型液晶、カラー型液晶への対応も進めていくようだ。

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厚みはそこそこある。ただ、単3乾電池の直径より一回り大きいだけなので、バッテリの種類や配置を変えないかぎりは、いたしかたない。しかも、乾電池の採用はそれなりに意義深い点(価格が安い、入手しやすい、など)なので、単純に変更が得策ともいえない

 本体のサイズは閉じた状態で幅154.5×高さ205×厚さ25.4ミリ、開いた状態で幅292×高さ205×厚さ12.7ミリ、重量は約520g(乾電池含まず)。駆動時間は前述したが、厳密に言うと単3形アルカリ乾電池2本で10000ページ程度の書き換えが可能とされている。よって、1日80ページ程度の閲覧で3カ月以上持つことになる。

たしかにマンガはΣBookに適したコンテンツだが、もちろん、それだけではない

 閲覧できるデータは、試用開始当初は「10daysbookで購入した書籍」だけだったが、先ごろ「手持ちのテキストデータ・イメージデータ」を閲覧するためのデータコンバーターが提供開始された。さらに、ΣBook専用の電子書籍販売サイトも近々オープンする予定だという。10daysbookはサイトを訪問してもらえれば一目瞭然だと思うが、マンガが中心(小説、そのほかもある)の電子書籍販売サイトだ。サイト上で購入した数十Mバイトの書籍データを専用の「ebi.j ブックリーダー」で管理・閲覧する仕組み。筆者は「ゲゲゲの鬼太郎」が網羅されると聞いて以来ずっと利用しているが、ご存じない方もいただろう。

 とりあえず、以前に10daysbookで購入ずみの「ゲゲゲの鬼太郎」(水木しげる)や「男どアホウ甲子園」(水島新司)、「アポロ」(朝倉世界一)などを、PCからSDカードへ移し、ΣBookで読んでみる。必要なソフトウェアは、「SD-ePublish R/Wドライバ」「ebi.j ブックリーダー for ΣBook(サンプル版)」で、これらをもともとの「ebi.j ブックリーダー」に追加してインストールする。著作保護機能に対応したSDスロット(またはリーダーライター)も必須だ。概念としては、「ebi.j ブックリーダー」内の書籍データをSDメモリへ貸し出し、その間はPC側では読めなくなる。SDからPCへ返却すれば、また読めるという寸法である。貸し出し(ファイル転送)には「データ変換」という工程も生じるようで、これが少々時間がかかる。

 ΣBook上で読むマンガ、これはなかなかのものだ。特にもとが単色刷りのページは、ベタ塗りの多さもあいまって非常に見やすい。PC上で見ると、表紙はどれもカラーで、作品によっては本編にもカラーページがあったりするのだが、ΣBookでは当然ながらすべてグレイスケールで眺めることになる。こういったページや、濃淡を駆使した絵づかいの作品では、当然ながらベタ塗りのものより見やすさはやや落ちる。

 ΣBookの特徴には前述したとおり、紙の本と同じく「電源のオン/オフという概念がない」ことがあるが、紙の本とは異なり「特定のページを開いたまま置いておける」という点も合わさり、「ながら読書」には最適だ。何か作業をしつつ、横にΣBookを置いて、手が空いたら読む。電池の消耗も、ページがめくれてしまうことも気にする必要ない。

自動的に追加されるビューワーで拡張性も高い

「ΣBookBuilder」がリリースされ、自前で用意したテキストや画像をコンバートするツールも利用できるようになったのだが、ここで少し意表を突かれた。実は「ΣBookは紙の本の“見た目”を再現する」、すなわち、「すべてのデータは(PC側でコンバートして)ビットマップとして扱う」ものだと勝手に思い込んでいたのだ。もちろん、テキストはテキストデータで扱ったほうが、検索や辞書引き、引用などにも利用できて便利だが、そもそもΣBookにはそのような操作体系や機能はない。そんなわけで、「まあ、全部ビットマップ化して扱ったほうが、何かと都合がいいかもしれないしな」と勝手に納得していたわけだ。

 しかし、違った。コンバートツールを通して変換されても、基本的にはテキストデータはテキストのまま(ただし、設定ファイルなどがつき、書籍データとして構成)だが、同時に新たなビューワーをSD内へ添付してくれる。テキストからコンバートした書籍データが入ったSDメモリカードを、初めてΣBookへ挿入すると、「新しいビューワーが見つかりました。ビューワーを更新していますので……」というメッセージが表示されるのだ。

 このビューワーでは、「文字サイズ[標準]・横書き」「文字サイズ[標準]・縦書き」「文字サイズ[大]・横書き」「文字サイズ[大]・縦書き」と表示形式を切り替え可能で、「背景色と文字色の反転」も選べる。青空文庫から「吾輩は猫である」「或阿呆の一生」のプレーンテキストファイルをダウンロードして、コンバートして読んでみたが、これも十分に実用的な印象だ。個人的には「文字サイズ[大]・縦書き」が好みだが、さらに大きい文字サイズを選べてもいいかもしれない。

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「文字サイズ[大]・縦書き」でのテキストコンテンツ表示。文字サイズ[標準]だと、1画面あたりの文字数が多くて、個人的には圧迫感を感じるが(特に縦書きではもう少し行間に余裕がほしい)、文字サイズ[大]であれば見やすい

 繰り返しになるが、このΣBookはまだ製品化前の段階であり、本体のみならず、周辺ソフトウェアも含め、細かな調整がなされていくだろう。また、製品がリリースされたとしても、それは「完成」ということではなく、「初めの一歩」と捉えるべきで、これを足がかりにΣBookがどのように進化し、またそれを中心とした電子書籍の世界をどれほど、そして、どのように広げていけるか、期待は大きい。XMDFなどのほかの電子書籍形式とも交流を図るべきだろう。しかし、とにもかくにも、まずは、これまで絵に描いた餅にすぎなかった、“電子書籍を実現するためにふさわしいハードウェアを採用したビューワーデバイス”が、ようやく実際に製品として登場することに拍手を送りたい。

(次回は、電子書籍に対する著作権者の意識を紹介します)

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[浅井研二,ITmedia]



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