リビング+:ニュース 2003/11/26 16:32:00 更新


「AX300」の魅力と制限

PCとの連携という点において、多くのユニークな機能を持つNECの「AX」シリーズがさらに進化した。300Gバイトの大容量HDDや書き込みDVDのサポートは、PCユーザーにとって魅力的な選択肢となるはずだ。しかし、AX300は、その特徴ゆえに不利な点も抱えている。

 NECが2002年10月に発売した「AX10」は、テレビの機能を拡張するハードディスクレコーダーとしての顔と、PCに対してテレビ機能をネットワークで提供するAVサーバとしての顔、2つの性格を併せ持つ製品として登場。その後、Windows Media Video形式への変換機能などをくわえ、250GバイトHDDを内蔵する上位モデル「AX-20」を投入するなどの機能強化が行われてきた。

 PCにテレビ機能を提供するサーバ機能を備えた製品としては、ほかに東芝の「TransCube」やシャープの「ガリレオ」といった製品もあるが、AXシリーズはAVラックにピッタリ収まるきょう体サイズとデザインを有し、ルータ機能をあえて内蔵しないなど、AV機器よりの性格付けが与えられ、ユニークな製品へと仕上がっていた。

 DVDドライブは内蔵しないものの、ネットワーク経由でPCにビデオデータを転送することも可能で、記録型DVDドライブと組み合わせることでハイブリッドレコーダーライクな使い方もできた。なおかつハイパフォーマンスでレスポンスの良いユーザーインタフェースも持っていたが、残念なことに市場で成功したとは言い難い。

 AXシリーズが、AV機器としてほとんど認知されてこなかったこと、PCユーザーがAXシリーズを導入することで、どのようなメリットが得られるのか? といったポイントが、ユーザーにうまく伝わらなかったことも原因と見られるが、やはり“PC周辺機器”という位置付けを脱し切れなかったところに、NECの敗因があったのかもしれない。

 しかし、NECはAXシリーズに関して、まだまだ諦めてはいないようだ。AXシリーズの新型機、「AX-300」では、よりAV機器としての色を濃くしながら、多くのライバルがひしめくハイブリッドレコーダー市場に参入する。商品企画・開発に携わったNECの担当者に話を聞きながら、AX-300のディテールに迫ってみた。

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ホームサーバとDVDレコーダーの融合というコンセプトを表現したというAX-300の外観

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フロントパネル内に前面端子がある

従来機の長所を生かしながら人気フィーチャーを導入

 NECはAXシリーズのモデルチェンジに当たって、従来機のユーザーからさまざまな意見を集めてみたという。そこから得られた意見を集約した結果が、新製品の仕様へと繋がっている。

 従来機の良いところは、PCのハードディスクに対して簡単にダビングが可能で、PCに対してテレビ/ビデオの配信機能、常に放送を記録し続けることで、いつでも好きな時に視聴中の番組を遡れる「常時タイムシフト」、番組表の操作性、PCベースのハイパフォーマンスハードウェアによる高速ユーザーインタフェースなどが挙げられた。

 一方、PCを使わなければ記録型DVDを作成できないこと、DVDプレーヤーとして利用できないことなどが不満点としてあったという。言い換えれば、機能や性能に関しては十分に高い評価がありながら、DVD機能の欠如が製品としての失敗に繋がったということだ。実際、市場ではハイブリッドレコーダーの販売ボリュームが急増したものの、ハードディスクレコーダーはほとんど伸びていない。

 AX-300がDVDレコーダー機能を内蔵したのはこうした声を反映したものと言えるが、一方でPC周辺機器という位置付けから、単体でさまざまな用途に使えるAV機器へと製品のポジションを変えたとも受け取れる。ハイブリッドレコーダーとしての機能を追求しながら、従来機で評価された部分をそのまま残そうとしたわけだ。

 もっとも、従来からの機能も大幅に強化されている。特に、PCアーキテクチャをベース(VIAのEdenプラットフォームを利用しLinux上に独自ソフトウェアを構築している)にすることで余裕のある、プロセッサパフォーマンスを活用した機能が目立つ。

軽快な操作性

 それは、試作機を触ってみて実感できた。たとえば、一部の家電製品にあるEPG操作におけるレスポンスの悪さは全く感じない(もっともこれはAX10の時代からそうなのだが)。東芝の「RD-XS41」も、新RDエンジン搭載でレスポンシブになっているがそれ以上の軽快さだ。メモリに余裕があるためだろうが、EPG呼び出しのレスポンスは最速と言っていい。

 AXシリーズには、現在視聴しているテレビ番組の裏チャンネルを一覧表示する機能があるが、高速表示が可能なため、チャンネル切り替え時に常に使いたくなるほど。常時タイムシフトも併せ、すべてのテレビ番組をテレビ内蔵のチューナーではなく、AX-300で見たくなってくる便利さだ。

 また、AX-300からはキーワードを指定した番組検索の機能が加わっている。単語を指定しANDもしくはORで番組表データを検索(チャンネル番号や曜日の指定も可能)。検索結果を「My EPG」として表示する機能だ。検索条件は最大10個まで指定できる。キーワード指定は、ネットワーク接続したPCからも行うことが可能だ。

 このとき、設定した検索条件に合致する番組を、単にカスタムEPGとして表示するだけでなく、自動的にすべて録画してしまう「おまかせ録画」機能もある。ソニーのチャンネルサーバのように、ユーザーの視聴する番組を学習して自動録画するわけではないが、むしろ自分でキーワードを指定できる方が確実性があって良いと感じる場合もあるはずだ。

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「おまかせ録画」画面

 また、録画データを管理するユーザーインタフェースが新たに実装された。ハードディスクをフォルダ単位で管理するのと同じように、最大20個までのフォルダを作成し、録画するビデオファイルを保存する場所をあらかじめ指定しておくことができるのだ。溜め込んだ大量のビデオを絞り込めるメリットがあるほか、同一フォルダ内に録画したビデオを連続再生するといったことも可能になっている(連続テレビドラマなどに有効)。

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最大20個までのフォルダを作成できる

 さらに従来からあったサムネイル付きのシーンサーチもレスポンスアップ。HDD中のMPEG2ファイルから高速にサムネイルを抽出し、快適なシーンサーチが可能になっていた。サムネイルを選択し、ジャンプできるのはもちろん、フィルムロール表示の中で順にブックマークを打っていくこともできる。同様に高速サムネイル表示を利用し、簡単に素早くカット編集(GOP単位)することも可能だ。

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サムネイル付きのシーンサーチ

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カット編集の画面

 このあたりは、PC用のクライアントソフト「SmartVision/PLAYER」のカット編集、シーンサーチよりも扱いやすくなっており、AX-20からAX-300への進化で大幅に改善されたポイントでもある。

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リモコン

専用MPEG2トランスコードチップを搭載

 AV装置としてのハードウェア面でも進歩の後が見える。従来機はEdenプラットフォームのPCに、「SmartVision HG/V」のボードをPCIスロットに差し込んだハードウェアだったが、AX-300では独自のチューナーを専用マザーボード上に実装している。チューナー自体も地上波だけでなく、アナログBSを追加した。将来は放送が打ち切られる予定のアナログ放送だが、コピーワンス信号の問題がないBSアナログ放送の録画は根強いニーズがある。

 また、MPEG2ファイルの高速トランスコードを行うため、トランスコード専用チップを開発。「高速レート変換エンジン」として搭載している。通常、専用エンジンを搭載していないハイブリッドレコーダの場合、ビットレート変換にはビデオファイルの実再生時間と同程度の時間がかかるが、このトランスコードエンジンを使うと約7倍の速度で変換できるという(具体的にはCBR 8Mbps/2時間のMPEG2ファイルをVBR 4Mbpsに変換する際、17分で完了する)。

 高画質なモードで記録している番組を再エンコードすることで容量節約できるほか、内蔵DVDドライブを用いてDVD-Rなどに録画する際、DVD容量に合わせてピッタリのサイズにレート変換する際などに活用できるだろう。録画時は高ビットレートのCBRで記録しておき、書き出し時にギリギリサイズのVBRで書き出すといった使い方も簡単だ。

 このほか、従来はコンポジットビデオとS端子のみだった映像出力は、D2端子対応のプログレッシブ出力となり、ドルビーデジタル、DTSのパススルー出力に対応したS/PDIFデジタルアウト(TOS-LINK)も装備することでDVDビデオプレーヤーとしても使える製品に仕上がっている。

性能・機能の充実は目を見張るが……

 AX-300には他にも多くの注目機能がある。たとえばPCに対して録画した番組を、自動的にWMVなどに変換・転送する機能を使えば、ノートPCを職場や学校に持ち込んで休み時間に見るといったことも可能だ。PCのハードディスクとの間で、自由にビデオデータをダウンロード/アップロードすることもできる。

 従来、画質や操作性の面で多少問題があった常時タイムシフト(放送中番組を視聴する場合でも、一端録画された映像を表示するため画質が多少落ちる、またチャンネル切り替え時のレスポンスが悪いといった問題があった)も、テレビに出力する映像は放送をそのままパススルーし、タイムシフト用の録画はバックグラウンドで行うように変更するなど、細かな仕様変更もある。

 ゴーストリデューサ、3D Y/C分離、デジタルNR、タイムベースコレクタなど、通常のAV機器ならばハイエンド機にしか装備されない高画質回路も組み込まれている。AX10、AX-20では画質面で、多少不満の残る部分もあったが、AX-300ではAVユーザー向けにより細かな画質チューニングも施しているという。

 性能の高さ、機能の充実には目を見張る。単に開発者から伺った話を紹介するだけでも、相当にエネルギーが必要なほど、大幅な進化を遂げた。家庭内ネットワークを持ち、PCを所有しているユーザーならば、魅力的な機能はとても多い。ただし本機では解決できていない問題も残っている。それはコピー管理機能だ。

 ご存じのように地上波デジタル、デジタルBSには、一様にすべての番組にコピーワンス信号が入るようになる。コピーワンスの放送は、CPRMという著作権管理に対応したデバイスでしか録画できない。

 たとえば、DVD部がCPRMに対応していない場合、ハードディスクに記録した映像をDVDにダビングすることはできない(ただし現在検討中のチェックイン/チェックアウト機能が承認されれば、CPRM非対応のドライブでもハードディスクからDVDへのコンテンツ移動ができるようになる可能性はある)。ところがAXシリーズの場合、ハードディスクレコーダ部もCPRMに対応していない。なぜならAXシリーズのハードディスクに記録されたコンテンツは、ネットワークを通じて簡単にPCへとコピーできてしまうからだ。

 このためAXシリーズでは、コピーワンス信号の入った番組をハードディスクにも記録できない。当面は継続される予定のアナログ放送だけでも十分に有用な製品ではあるが、近い将来、何らかの対策が行えなければ、AXシリーズの持つ自由、便利さはいずれ失われることになるだろう。

 またAX-300が購入できる場所にも制限がある。AX10、AX-20は主にPC売り場に置かれ、AV機器の売り場で製品を探しても、実際にモノを見ることができなかった。一部店舗ではAV機器売り場で販売されたようだが、AX機器の色が濃い製品だけに売り場の確保も重要な鍵となると考えられる。

 NECによると、徐々にではあるが、AV機器売り場でも販売されるようになりつつあるとのこと。せっかくハイブリッドレコーダーを購入するならば、きちんとテレビに接続された状態で評価し、納得した上で購入したいというのがユーザー心理のハズだ。ましてや来年1月末の発売となると、不利は否めない。

 とはいえ、RDシリーズやDiGAシリーズなど生粋の家電品とは異なる方向で進化してきたAXシリーズは、PCを使い慣れたユーザーが購入するハイブリッドレコーダーとしては、かなり魅力的な製品に見える。内蔵DVDドライブの記録速度が見劣りする(DVD2倍速相当)、DVD-RWが使えないなど、スペックの○×表では不利な面もあるが、市場に投入されれば既存機の強力なライバルになるだろう。

 近日中に評価機が入手できる予定なので、その際には再度、その機能と使い勝手をレポートしたい。

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関連リンク
▼ニュースリリース(NEC)

[本田雅一,ITmedia]



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