リビング+:ニュース 2003/12/01 21:29:00 更新

地上デジタル放送
トラモジか、パススルーか、それが問題だ

地上デジタル放送が開始されたが、一部のCATV会社と放送局の間では、まだ微妙な駆け引きが行われている。焦点は、地上デジタル放送の再送信を行う際の伝送方式だ。

 12月1日、いよいよ地上デジタル放送が開始されたが、CATV会社と放送局の間では、まだ微妙な駆け引きが行われている。焦点は、地上デジタル放送の再送信を行う際の伝送方式。つまり、CATVの変調方式である64QAMに変換して送出する「トランスモジュレーション」(トラモジ)と、放送波に何の変更もくわえない「パススルー」のどちらでサービスを行うか、という点だ。利用者にとって、また放送局やCATVにとって、この2つはどのように異なるのか。

 トランスモジュレーションは、センターで受信した放送をCATVが“再編成”してネットワークに送出する方法だ。番組そのものに変更を加えるわけではないが、ネットワークの伝送効率を上げるため、チャンネルの周波数帯や変調方式を変える。地上デジタル放送なら、本来のOFDMを64QAMに変更して送出する形だ。

 このため、視聴者側はCATV専用のSTB(セットトップボックス)が必須だが、デジタルチューナー非搭載のテレビでもデジタル放送を視聴できるのがメリット。また、多くのCATVは、BSやCSのデジタル放送も再送信しているため、1台のSTBで3つの放送を楽しめるといった魅力もある(CSのチャンネル数は限られる)。アンテナをいくつも設置したくない、あるいは設置できない人にとっては便利なサービスとなるだろう。変調方式の変更で画質の劣化を懸念する声もあるが、CATV側は「画質は何ら変わらない」(J-COM)と自信を持っている。

CATVがトラモジにしたい理由

 対してパススルーは、変調方式を変えず、その名の通りCATV局を“スルー”する送出方法だ。放送波の周波数や変調方式には何の変更も加えずに再送信を行うもので、主に難視聴対策に利用されている。

 ユーザーからみると、パススルーのCATVはアンテナから延びる同軸ケーブルと何ら変わらない。自前のアンテナを設置するのと同じ周波数(チャンネル)で視聴できる。トランスモジュレーションの場合は、STBが1台ならテレビも1台しか利用できないが、パススルーなら地上デジタルチューナーやデジタルチューナー内蔵テレビさえあれば、複数のテレビで同時に地上デジタル放送を楽しめる。将来、地上デジタルチューナー内蔵のテレビが普及したときにはメリットが大きいだろう。

 パススルー(同一周波数)パススルー(周波数変換)トランスモジュレーション
周波数変更なし変更あり変更あり
変調方式変更なし変更なし変更あり
CASB-CASB-CASB-CAS
端末市販チューナー市販チューナー専用STB

 ただ、パススルーはいわば、CATVの設備を単なる共同視聴アンテナにしてしまうものだ。CATV会社側のHE(ヘッドエンド)設備投資は比較的安いが、それ以上に難視聴対策ということで視聴料を高く設定できない(利用者が負担しないケースも多い)。利用者もCATVユーザーという意識は希薄で、多チャンネル放送への移行なども期待しにくい。つまり、CATV局にとって“あまりおいしくない”ビジネスといえる。

 一方、当然ながら放送局側は放送に変更をくわえられることを嫌い、CATV局に対してパススルーの採用を求めている。今のところは「2年後までにはパススルーを」(NHKの場合)というスタンスだ。J-COMでは、「トラモジとパススルーを並行して提供する場合、16チャンネルぶんの帯域が必要になってしまう。今のところは、猶予期間をもらっているという状況だ」と話している。

 もう一つ、放送局側が良い顔をしない理由として、CATV局が地上デジタル放送を“売り物”にしているという点が挙げられるだろう。とくに放送エリアが極端に狭い在京CATV局では、トランスモジュレーションだけを採用し、それを武器にBS/CSデジタルを含む多チャンネル放送へ加入者を誘導する傾向が顕著だ。地上デジタル放送を機に一気にデジタル放送サービスを開始したJ-COMしかり、サービスを強化したイッツ・コミュニケーションしかり……。

 実際、当初から放送エリアが広い大阪や名古屋のCATV会社は、難視聴地域のユーザーのために比較的早い段階でパススルーを開始するケースが多い(関連記事)。これには、「地上波が届くのだから、地上デジタル放送が自社サービス(多チャンネル放送)の競争力にはつながらない」という判断もあるだろう。逆に、東京の多くの地域では、CATV局の多チャンネルサービスに加入するしか、地上デジタル放送を視聴する方法がないわけで、一部ユーザーから「抱き合わせ販売」という声が上がっているのも仕方ないといえる。

 とはいえ、状況に恵まれない東京のユーザーにとって、在京CATV局と各放送局の協議によってもたらされた“区域内エリア外再送”は貴重だ。だからこそ、各放送局は猶予期間を与え、監督省庁は黙認しているはず。その労力と投資を評価するユーザーなら、デジタル多チャンネル放送に加入するのも良い選択肢だ……などと、某CATVで地上デジタル放送のオープニングイベントを見ながら考えた。

 もちろん、それには各CATV局が自社の多チャンネル放送ばかりを売り込むのではなく、難視聴エリアのデジタル対応も進めることが条件になるのだろう。

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[芹澤隆徳,ITmedia]



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