リビング＋：ニュース

2003/12/10 23:59:00 更新

GI-POFで家庭のギガビット化めざす慶應大学

光ファイバーを利用して、家庭内でギガビット環境を実現する――。ブロードバンド社会の理想として語られる姿だが、慶應義塾大学はこれを“GI-POF”で実現させようと考えている。

　光ファイバーを利用して、家庭内でギガビット環境を実現する――。ブロードバンド社会の理想として語られる姿だが、慶應義塾大学はこれを“GI-POF”で実現させようと考えている。

　12月10日、慶應義塾大学構内で開催された「DVTSコンソーシアム」第2回ワークショップで、GI-POFの開発で知られる慶應義塾大学理工学部、小池康博氏が講演を行い、同技術の概要と関連する取り組みなどを紹介した。

慶應義塾大学の小池教授。POFコンソーシアム会長も務める

GI-POFとは？

　まず、GI-POFについて確認しておこう。

　ひとくちに光ファイバーといっても、石英系のシングルモード光ファイバーと、プラスチック光ファイバー（POF）がある。現在、幹線系ネットワークで敷設が進んでいるのは前者。しかし、光信号を伝搬するコアの直径が細いため分岐、接続にコストがかかるほか、曲げにも弱いとされる。

　一方のプラスチック光ファイバーは、より大口径で曲げにも強く、扱いやすいとされ、構内インフラなどでの活用が期待されている。中でも、ファイバー内部の屈折率が曲線的に変化する「GI」（Graded Index）型のプラスチック光ファイバーが、GI-POFだ（記事参照）。屈折率が階段状となる「SI」（Step Index）型と比べ、伝送ロスが少なく安定した通信が可能になる。

　2002年9月には、慶應義塾大学の小池教授と富士写真フイルムが、1Gbps超の通信速度を実現するGI-POFの開発に成功している（記事参照）。これを利用すれば、一般の家庭でも大容量のデータを手軽に扱えるという。「ファイバー・トゥ・ザ・ホーム（FTTH）ではなく、ファイバー・トゥ・ザ・ディスプレイだ」（小池氏）。

　こうした環境が実現すれば、家庭内のブロードバンド環境は一変する。たとえば、高品質な動画像の伝送システム「DVTS」（Digital Video Transport System）を利用し、35MbpsのDVストリームを無圧縮で伝送するTV電話システムなども構築できる。

　実際に、GI-POFを用いて慶應三田キャンパス、慶應幼稚舎、自由が丘にあるマンションなどを接続して「ギガビット・アイランド」を構築し、そこでの生活にどう広帯域回線を活用できるかの検証も行われている（記事参照）。小池教授もこの中で、DVTSを用いた遠隔教育の実験として、幼稚園児を対象に講義を行うなどしている。

榊原記念病院の場合

　今年12月からは、榊原記念病院でも新たにGI-POFを利用したネットワークが構築された。同病院は、ベッド数が320ほどの「普通の総合病院」（小池氏）。GI-POFで、どのようなメリットが得られたのだろうか。

　まず、POFを利用することでネットワークのアーキテクチャがシンプルになった。「通常の電線では、あまり長さがとれないため、フロアごとにスイッチを設置しなくてはならない。POFなら、メインサーバが1台あるだけだ」。このため、メンテナンスフィーも少なくてすむという。

　もっともその代わり、敷設する光ファイバーは全体でかなりの長さになる。「榊原記念病院の場合、460キロのファイバーをひいた。これは、東京から京都ぐらいの距離になる」。

　この分だけ、光ファイバーのコストがかさむというデメリットがあるようにも思える。だが小池氏は、それを考慮してもインフラ構築のトータルコストは安くあがると話す。

　同氏はまた、100世帯の集合住宅でギガビットネットワークを実現するために、どのくらいの費用がかかるのかを試算してみせる。石英の光ファイバーによりネットワークを構築した場合、部材費、工事費、機器費などを合わせた総額は、5500万円程度。しかしGI-POFでは、この半分程度ですむとした。

ブロードバンドは、遠隔医療にも利用されつつある。GI-POFなら、より高クオリティの医療サービスを提供できる

関連記事
富士写、1Gbps超の家庭向けPOFを開発
GI-POFがDVIケーブルを延長する
光ファイバーによる大容量伝送実験「ギガビット・アイランド」開始
「ギガビット・アイランド」は次のステージへ

[杉浦正武，ITmedia]

---