リビング+:レビュー 2003/12/19 02:24:00 更新

レビュー:プラネックス「BRC-14V」
マルチユースのブロードバンドルータを試す

プラネックスから、インテルの「IXP」ネットワークプロセッサ採用の有線ブロードバンドルータ「BRC-14V」が登場した。有線ブロードバンドルータの高スループット化、低価格化が進む中、あえて“マルチユース”を冠し、機能の豊富さで差別化を狙う。その製品の出来を見てみよう。

 ネットワーク機器ベンダーのプラネックス・コミュニケーションズから登場した「BRC-14V」は、インテルの「IXP422」を採用した多機能な有線ブロードバンドルータだ。インテルが「ネットワークプロセッサ」と呼ぶIXP4xxを採用した製品を同社は「eXgate」シリーズとして展開しており、IEEE 802.11b/g対応の無線LANブロードバンドルータ「BRC-W14V」、802.11b/gに対応する多機能無線LANアクセスポイント「BRC-AP04」も準備されている。

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ブロードバンドルータとしては標準的なサイズ。スタンドは、乗せるだけの構造で、横置きも可能

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背面には左からUSBポート×2、WANポート、LANポート×4、リセットスイッチ、電源スイッチ、電源コネクタが並ぶ。LANポートはストレート/クロスケーブルともに自動認識するタイプだ

 BRC-14Vの特徴は、ワイヤースピードに迫る高いスループットと、安価なブロードバンドルータにはないさまざまな機能。単に高速なブロードバンドルータなら、実売1万円を切る製品も多い中、本製品は直販価格で1万9800円というプライスを付けている。つまり、「多機能」の部分に1万円の価値があるかどうか、このあたりが評価の重要なポイントとなる。

 まずはカタログスペックを軽くおさらいしておこう。ブロードバンドルータとしてのスループットは、SmartBit測定値でワイヤースピードとなる100Mbps、FTP実測値で94.5Mbpsとしている。これはPPPoEではなくローカルルータ接続時と思われるが、PPPoEでもかなり高いスループットであることは容易に想像できる。PPPoEでのマルチセッションも最大同時4接続に対応している。

 セキュリティは、送受信別にパケットフィルタの細かい設定が可能だ。インターネット側からのパケットを特定のPCに転送するDMZ(本製品ではバーチャルコンピュータと呼ぶ)にも対応する。ファイアウォール機能としてSPI(ステートフル・パケット・インスペクション)も採用し、送出したパケットに合わせて動的に必要な受信側のポートを開き、受信の必要がなくなると受信側のポートを閉じるという動的なポート制御を行い、高いセキュリティも実現している。

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パケットフィルタは、送受信ともに細やかな設定ができる。VPN接続を行っている場合にも、送受信別にパケットフィルタの設定が可能。初期状態では一切パケットフィルタの設定がないが、これは大まかなセキュリティレベル選択でWAN側からのアクセスを全て拒否できるからだ

 セキュリティ設定は、標準で3段階の設定があり、“最大”に設定するとインターネット側からのアクセスは全て拒否する。PCをサーバとして利用しない限り、この設定で十分だろう。“標準”でも、「ローカルサーバ」「リモートアクセス」でユーザーが許可したインターネット側からのアクセス以外は拒否する。簡易的にサーバを運用を行う場合なら“標準”を利用すればOKだ。

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パケットフィルタとは別に、セキュリティの設定ができる。「最大」にしておいても、Webアクセスやメールといった一般的な使い方なら問題ない。「標準」に設定しても、基本的にWAN(インターネット)側からのアクセスは全て拒否する

 最近のブロードバンドルータがあまり備えていないのは、DHCPでの静的IPアドレスの割り当て。BRC-14Vは、特定のMACアドレス、つまり特定のPCには決まったIPアドレスを割り当て、指定のないPCには、あらかじめ指定した範囲から動的にIPアドレスを割り当てることができる。PC側のTCP/IP設定は全て自動(DHCPで取得)のまま、インターネット側にはサーバとして公開するようなPCには、固定したIPアドレスを割り当て可能。実は非常に便利な機能の1つだ。

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DHCPのIPアドレス配布状況も確認できる。MACアドレスを指定すれば、特定のPCに決まったIPアドレスを配布することも可能。タイプの欄で「固定」と表示されている部分がそうだ

実使用環境でのスループットはどうだ

 FTTHの普及が進む現在、ブロードバンドルータには実使用環境での高いスループットが求められる。FTTHによるインターネット接続サービスでは多くがPPPoEによる認証を採用しており、やはりPPPoE利用時のスループットが気になるだろう。

 ここでは筆者宅に引き込まれている「TEPCO ひかり」のインターネット接続回線にBRC-14Vを接続し、PPPoEの実利用環境におけるスループットをチェックした。時間帯は平日の午前中で、それなりに高いスループットが期待できるはずだ。

 計測には「Radish NetSpeed Testing」と「Speed RBB Today」を用いたが、どちらも受信は80Mbpsを軽く超え、最高で85.98Mbpsを記録した。送信もRadish NetSpeed Testingでは80Mbpsを超えており(Speed RBB Todayは傾向として送信が低い値になりやすい)、かなりの高スループットだ。以前、RAS PPPoEを用いて、ルータを使用せず、PC直結で早朝に計測した場合でも最高86.52Mbpsだったので、ルータ部分における送受信速度のロスはほとんどないといえるだろう。

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「Radish NetSpeed Testing」では、受信が85Mbps前後、送信が80Mbps前後と高い数字を叩きだした。

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「Speed RBB Today」でも、受信が平均83Mbps前後。スループットには全く問題なし

マルチユースその1「VPN機能」

 BRC-14Vのマルチユースな機能の1つめは、VPNに関連する機能だ。IXP422の持つハードウェア暗号化機能を利用できるため、IPSec(3DES)時でクラス最速の最大45Mbpsのスループットを得ることができるという。

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VPNの設定画面。接続先として、IPアドレスだけではなく、ドメイン名(ホスト名)も利用できる製品は少ない

 本来なら、BRC-14Vを2台用いてテストを行うのがベターなのだが、今回は残念ながら準備できなかった。そこで、やはりXP425を採用し、同じくVPN接続時にハードウェア暗号化を行えるリンクシスの「WRV-54JP」を用い、VPN接続時のスループットを計測した。

 BRC-14VをTEPCOひかり(So-net)、WRV-54JPをBフレッツニューファミリー(ぷらら)にそれぞれ接続し、認証アルゴリズムは共通鍵、暗号化アルゴリズムは「3DES-CBC」、ハッシュアルゴリズムは「SHA1」に設定し、それぞれIPアドレスを直接指定して2つのLAN間をVPNでトネリングさせてみた。

 BRC-14Vに接続したPCから、200Mバイトのファイルを、WRV-54JPに接続したPCにコピーする。所要時間は2分45秒。転送速度としては1.2MB/s程度になる。つまり10Mbps程度は出ている計算であり、カタログスペックには及ばないものの、実スループットとしては悪くない数字だ。

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今回は動作保証外の他社製品と接続したが、問題なく接続できた

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ファイルコピーでのスループットも100Mbpsの10%前後、つまり10Mbps程度は出ていた

 また、接続先をドメイン名指定できるのも便利だ。多くのVPN対応ルータは接続先のIPアドレスを直接指定する形式になっており、2点間が固定IPアドレスでないと実用的に運用できない。ダイナミックドメインで利用できるかといったあたりまでは検証できなかったが、可能であれば個人ユーザー間でのVPN接続も容易に行えることになる。

 VPN機能でもう1つ便利なのはBRC-14V自身がPPTPサーバになることだ。ブロードバンドルータでも多くの製品がVPNやPPTP対応を唄っているが、多くの製品はVPNやPPTPで利用するパケットを透過できる「パススルー」機能であり、例えば出先から自宅にPPTP接続するには、自宅のPC側でPPTPサーバを準備する必要がある。

 PPTPサーバ機能の設定も非常に容易だ。機能を有効にし、リモートアドレス(接続してきたPCに割当てるIPアドレス)の設定を行う程度。後はユーザーを追加し、ID/パスワードなどを設定するだけでいい。標準設定のままでWindows XPのPPTPクライアント機能を利用して接続できる。特定のPCをPPTPサーバとして稼動させておく必要がないというのは、特にホームユースでは便利だ。

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PPTPサーバの設定は、初期状態のままでもWindows XP/2000などから接続できる。PPTPサーバを有効にし、接続用のユーザー設定を行うだけで動作する

 次に、BRC-14VとサーバをFTTH回線に接続し、ADSLでのインターネット接続(受信5Mbps程度)からPCを使ってPPTP接続、サーバからファイルコピーを行った。この場合のスループットは、データの暗号化(MPPE-128)を有効にした場合で2Mbps程度だ。特に高速という訳ではないが、ちょっとしたファイル共有程度なら十分使える。

マルチユースその2「NAS機能」

 マルチユース機能の2つ目は、NAS(ネットワーク アタッチ ストレージ機能だ。BRC-14Vは、USBポートを2つ備えており、ストレージクラスに対応したUSBストレージ、つまりUSB接続の外付けHDDやフラッシュメモリなどを接続するとNASとしてアクセスできる。SOHO向けのNASが安くても2万円台ということを考えれば、付加機能としてはかなり魅力的だ。手持ちのHDDを流用すれば、一般的なUSB HDDケースを購入するだけでNASが使える。

 NASとしての機能はシンプルだが、ユーザーアカウントを作成して読み書き可能、読出しのみといった制御も行える。ユーザーごとの領域の割当などはできないが、個人やSOHOの利用なら十分だろう。なおサポートするファイルシステムはFAT32、Ext2となり、Ext2では137Gバイト以上のパーティションをサポートしない点に注意したい。

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USBストレージを接続するとネットワークストレージとして認識される。パーティションの作成やフォーマットもBRC-14Vから直接行える

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ユーザーアカウントごとにNASに対する権限を設定

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USB接続したストレージは、LAN上のPCと同様に認識される

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作成したパーティション順に「A」「B」とドライブレターが割り当てられた

 パフォーマンスも悪くない。USB2.0でHDDを接続して100Mbps LAN接続で1Gバイトのファイル書込みが5分15秒で3MB/s程度、読出しが5分9秒で3.1MB/s程度だ。専用のNASと比較すると少々遅めだが、巨大な動画ファイルを頻繁に読書きでもしない限りストレスは感じないし、動画ファイルでも書込んでしまえば読出しながらの再生にも余裕で対応する。

 接続したUSBストレージは、ホームページとして外部に公開することもできる。Webサーバとしての機能は限定的だが、PCでWebサーバを公開する場合と異なり、セキュリティ面の不安をほとんど感じずに済む。事実上容量を気にする必要はないし、公開のための設定も非常に簡単だ。

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USBストレージに保存したHTMLファイルをホームページに。DDNSを併用すれば、ドメイン名でアクセスすることも可能だ。ドメイン名の次に「A/」のようにドライブ名を付加する必要があるのは少々難点だが……

 また、今回は実機が入手できなかったが、専用のUSBカメラを接続するとリアルタイムでの映像配信を行える。こちらも特定のPCの電源を入れておく必要がない、セキュリティをほとんど気にしなくて良いといった点がメリットだろう。

価格と付加価値をどうみるか

 BRC-14Vは、ブロードバンドルータとして高いスループットを持ち、SPIに代表される高いセキュリティ機能も備える。もちろんこれだけでも魅力的だが、やはり問題は価格だろう。2万円前後という価格は、54Mbps無線LANアクセスポイント機能を持つブロードバンドルータが買える価格であり、決して安いとはいえない。やはり、マルチユースの付加機能をどうみるか、という点が問題になるだろう。

 付加機能として魅力的に見えるハードウェア暗号化による高速なVPN接続は、ビジネス用途はともかく個人用途ではそもそも利用できる人が少ない。ただし、PPTPサーバ機能はオフィスやホットスポットなどから自宅のPCにアクセスしたいという人には便利だ。Wake on LAN機能などもうまく活用すれば、普段は自宅のPCの電源を切っておき、PPTP接続してからPCの電源を入れて、といったセキュアなリモートアクセス環境も実現できる。筆者などは、まさにこれをやりたい部類だ。

 NAS機能は、導入を考えている人にはかなり魅力的だろう。単体のNASと異なり、HDDの交換も容易だし、特殊なフォーマットを採用していないので、USBストレージは繋ぎ換えてPCと併用することもできる。高度なユーザー管理には対応していないが、SOHO利用では利便性のほうが大きいのではないだろうか。また、PPTPサーバ機能とうまく併用すれば、知人同士でインターネットを介した共有ディスクにする使い方もある。PC上のドライブを共用するよりは安全だ。

 BRC-14Vと同程度のスループットを持つ有線LANブロードバンドルータとの価格差は1万円前後あり、実際100Mbpsに近いスループットを必要とするFTTHユーザーはまだまだ少数派だ。しかし、その性能、機能が魅力的であることに間違いはない。明確な理由を持つ人ならともかく、物欲旺盛な一般ユーザーにとっては、非常に悩ましい製品といえるだろう。

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▼プラネックス・コミュニケーションズ
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[坪山博貴,ITmedia]



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