露出計の修理もどうにか完了したので、さっそく撮影してみる。今から半世紀以上前のカメラだが、すべてキカイによって、必要な機能すべてが実装されている。例えばフィルムを装填しての空送りだが、多くのカメラはフィルムをセットしたあと、何枚かシャッターを切って、フィルムカウンターが1になるまで空送りする必要がある。
だがCONTESSA 35は、フィルムを装填したあと、底部のフィルムカウンターを◆マークに合わせてフタをすれば、あとはフィルム巻き上げノブを回していくだけだ。カウンターが1になると、自動的にストップがかかる。こんなところまで、いちいち全部歯車とカムだけで作ってあるという事実に驚嘆する。
CONTESSA 35での撮影は、どうしても段取りが多くなる。まず撮影したいアングルを決めたら、露出計を見る。針が指す部分に希望の絞り値をダイヤルで合わせると、シャッタースピードの値が出る。あるいはその逆でもいい。
読み取った絞りとシャッタースピードの組み合わせを、レンズ部のリングを回してセットする。次にファインダを覗いて、二重像を見ながら距離を合わせる。そこまで決まったら、ボディ下の巻き上げノブを回して、フィルムを1枚巻き上げる。続いてレンズ部にあるシャッターレバーを倒して、シャッターをチャージ。先にシャッターをチャージしても、フィルムが巻き上げられない限り、シャッターは降りない。二重露出は完全に防御されているのだ。
そして撮影である。シャッターボタンは、今の押し込むようなタイプではなく、レンズ部にある大きなレバーを下げるのだ。すると、「チュッ」という乾いた音がして、ようやく1枚撮れる。この「チュッ」という音がまた、カメラの中の小さな歯車が完璧かつ高速に回転している感じがして、安心するのである。
手間がかかるのはなんと言うこともないが、CONTESSA 35はフレーミングが難しい。45mmという微妙に中途半端な焦点距離プラス、最短距離が1メートル弱ということで、スナップ的な撮影には向くが、何かテーマを絞ると寄るにも寄れず、引くにも引けずという状況に陥りやすい。筆者はあまり漫然とした雑観は撮らないので、正直被写体に困るカメラではある。
ただ、その写りはとても50余年を経過するものとは思えない、端正でパリッとした描写を見せる。絞りを開ければ滑らかなエッジ感、絞れば爽快な解像感と、表情が豊かなレンズだ。人物撮影では、その特有の柔らかなタッチで、抜群の表現力を表わす。
風景撮影では、見慣れた場所からポイントを探そうとすると、寄れないのが苦しくなってしまう。それよりも、知らない場所をぶらぶら散策しながら、スナップを楽しみたいカメラである。
昔、といっても筆者の小さい頃だから、30〜40年ぐらい前になるだろうが、逆光で写真を撮るということは、あまり行なわれていなかった。当時の露出計の精度では、上手く撮れないということもあるが、レンズのフレアも大きな心配要素であったことだろう。
しかしCONTESSA 35は、さすがに元祖Tコーティングだけあって、逆光でもほとんどフレアを感じさせない。露出計の示す値も、正面の光量に対して正確だ。これは例のスリットの工夫によるものだろう。機構的にも光学的にも、現代のカメラと比べても見劣りすることのない、完成されたカメラであったことが分かる。
交換した太陽電池は、昼光ではまずまず正確な露出値を示している。ただ夜景では、2絞りぐらい暗く撮れてしまう。これは昔のセレンと現代の太陽電池のリニアリティの違い、すなわち今の太陽電池の方が光量が少ないときの発電効率が高いために、露出を明るめに測定してしまい、ズレてしまうのだろう。
まあ夜撮るときは、そのあたりを適当に案分して撮ればいいだけなので、大きな問題ではない。仮に露出を間違えても、今はフィルムスキャナやレタッチソフトのおかげで、かなりS/N良く補正できる。そういう意味では、例えフィルムでも、失敗を恐れずに撮影できるようになったわけである。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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