オリンピック関連以外にも、北京市内には心をワクワクさせる建物がたくさんある。そのひとつは、市内中心部の天安門広場の西隣にある中国国家大劇院だ。世界最大級のドーム型建築のオペラハウスで、設計はフランス人のポール・アンドルー。歌劇や演奏会、演劇などが行われる場所である。 国家体育場の「鳥の巣」に対して、こちらは「巨蛋」つまり巨大な鳥の卵と呼ばれている。国家体育場が宇宙船なら、こちらは空飛ぶ円盤風といってもいい。360度どこから眺めても絵になるが、特におすすめの眺め方は、夕陽が当たる時間帯に西側に立つこと。丸いドームは、背景に見える四角四面の人民大会堂と絶妙なコントラストをかもし出しながら、水面に反射することで、完全な楕円形となって空に浮かび上がるのだ。 |
あるいは、国家大劇院の周囲にわずかに残る、「胡同」と呼ばれる旧家屋の路地裏から眺めるのもいいだろう。古い街と最新ドームの対比は、現在の中国を象徴するような構図だ。急激な時代の変化に、はかなさや物悲しさを覚える一方、勇ましさやたくましさを感じることもできる。 国家大劇院から車で10分ほど東に進んだ場所には、「世貿天階(ザ・プレイス)」という最新ショッピングモールがある。ここも必ず見ておきたい場所のひとつ。売りは、アジア最大をうたう巨大な屋外電光掲示板「夢幻天幕」だ。 |
約15メートルの高さにある屋外アーケードの天井部分は、縦250メートル、横30メートルのハイビジョン液晶スクリーンになっていて、そこにアニメやCG映像が映し出される。クジラやイルカが泳ぐ映像では、まるで海を底から見上げたような錯覚に浸れる。ラスベガスにも同種の巨大スクリーンがあるが、どちらもハリウッドの舞台芸術家ジェレミー・レイルトンがプロデュースしたもの。 さらに、CBDと呼ばれるこの近辺のオフィス街には、ねじれたドーナツ型の要塞ビル「中国中央電視台(CCTV)」の新社屋や、規則正しく並んだストライプが美しい三連のビル「万達広場」など数々の新建築の名所が街をいろどっている。 |
中国中央電視台はオランダの建築家レム・コールハースが、万達広場はドイツの設計事務所GMPがそれぞれ設計を担当。また、山本理顕、C+A、みかんぐみが手掛けた「建外SOHO」など日本の建築家による作品もある。これらの多くは、中国の安い労働力や資材を生かし、大規模なスケールで、実験的な構造や工法、斬新なデザインを実現したもの。今の北京は、まさに国際的な建築家の作品展示場である。 |
中国国家大劇院 世貿天階(THE PLACE) |
建築作品とはちょっと異なるが、北京の今を知るには、現代アートにも触れておきたい。北京でアートといえば、中心部から車で30分の大山子地区にある「798芸術区」がよく知られている。かつての人民解放軍の工場跡地に100以上のアトリエやギャラリーが建ち並び、国内外のアーティストが作品を制作・展示している、いわば芸術家の村だ。 近年は商業化が進み、カフェやブティックが併設されるなど、観光スポットとしてもにぎわっている。すべてのアート作品のレベルが高いわけではなく、学生の卒展レベルの安易で陳腐なものもあったり、玉石混淆といった感じ。ひとことで言えばチャイニーズ・キッチュ系の作品が多く、好みや評価は分かれるところ。ただし、だだっ広く雑然とした場の雰囲気は一種独特で、一見の価値がある。 |
工場施設の一部はいまだに稼働中だったり、アトリエやギャラリーも日々改修されているため、敷地内のいたる所には、打ちっぱなしのコンクリートやレンガの壁、スチームのパイプ、煙突、廃車、オブジェなどが放置されている。どこまでがアートで、どこからが実際の設備なのか判然としない。作品を作ったり展示したりするすぐ横で、土木作業が行われていたりするので、誰がアーティストで、誰が作業員なのかも分からない。 そんなごった煮の雰囲気は、小ぎれいな銀座の画廊や上野の美術館では味わえない。現代アートファンだけでなく、工場マニアや廃墟マニアにとっても垂涎の場所といえる。また、この大山子798芸術区のほかにも、「酒廠国際芸術園」など北京郊外には同種の芸術家村が点在する。 |
大山子798芸術区 |
取材・文/永山昌克
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