見た目以上に重傷、YASHICA Half17の中身-コデラ的-Slow-Life-

» 2009年05月25日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 フィルムを2分割し、通常の35mmフィルムで2倍の撮影ができるハーフカメラ。老舗メーカー「ヤシカ」のハーフカメラである、「YASHIKA Half17」のジャンクを7000円で入手したところまでが前回の話(参照記事)

 さて、なにはなくともシャッターが降りなければ、カメラではない。まずはそちらのほうから手を付けることにした。まずは前の方から外していったが、シャッターまでは届かなかった。端に貼り付いているだけだとは思うが、一度ユニット全体を外して、裏側から分解して様子を見なければならない。

 上下のカバーを外したところで、妙なことに気がついた。フィルムの回転の力をシャッターチャージとして伝えるための棒の先端が、どこにもつながっておらず、プラプラしている。シャッターチャージができない原因は、どうも先端のネジが外れてしまったことにあるようだ。

シャッターチャージに連動する棒の先が、どこにもつながっていない

 止めていたネジは見つからないが、とりあえず先へ進めることにした。革も全部外して、ようやくシャッターユニット全体を外すためのネジが現われる。量販型のカメラは、あとでメンテナンスすることをあまり想定していないので、分解は外装部品を全部外さないとできない場合が多い。

外装を剥がしてようやく分解できる

 Half17は贅沢にも、ヘリコイド直進式※である。回転式ヘリコイドの場合は、いったんレンズを外すと取り付け時にフォーカス調整をしなければならないが、直進式は必要ない。レンズを外すのに躊躇(ちゅうちょ)はいらない。ユニット全体を外して裏返しにしたところで、ポロンとネジが1つ出てきた。これが先ほどの棒を止めていたネジのようだ。

※ヘリコイド…らせん機構のこと。カメラのピントを合わせるときに、フォーカスリングを回転させてもレンズが回転せず、鏡筒が前後にスライドするのがヘリコイド直進式。フォーカスリングを回転させるとそのままレンズも回転するものを回転式ヘリコイドという。
シャッターユニット全体を外す

 ユニットは、シャッターを挟んで半分に分かれるようになっている。シャッターは薄いプラスチックの板なのだが、湿気や静電気などで貼り付いてしまっていることが多い。いったんはがして、ジッポオイルで表面の油などをよく洗浄したのち、潤滑剤として鉛筆の芯を削ったものをまぶしておく。

ようやくシャッターまで到達

 このシャッター、スペックではオートの場合1/30〜1/800秒となっているが、実際に中身を見てみると、それだけの速度を可変する仕組みはどう考えても入っていない。どのようにシャッターが動くかというと、まず1のL字型のパーツが2の弾み車をけり上げる。写真はけり上げたあとの状態である。

 するとこの車の回転のトルクで、3のレバーが左に倒れてくる。4のパーツは露出計と連動しており、上下に動く。したがって3のレバーは、4の斜めに切り立った部分にぶつかる。どの辺にぶつかったか、レバーがどこまで倒れたかによって、シャッターの開くサイズが変わるという仕組みである。

露出制御はかなり簡易的

 つまりここには、シャッターのスピードを10倍近くも制御する仕組みはない。ただ露出として、“F1.7に固定した場合に1/60〜1/800秒相当になる”という意味だろうと思われる。昔はこういうあいまいな記述でも許されたのだろう。

露出計の修理を試みるも……

 続いて露出計の修理である。当時の露出計は、太陽電池の元祖とも言えるセレン素子からの発電を受け、メーターを振らせるというものだ。このメーターの針の部分を挟み込んで、どれぐらいの角度で挟めたかで、絞りの開け具合を決めている。ここまでの様子からも想像できるように、精度としてはかなり心もとないが、それでもちゃんと撮れるのだから立派なものである。

 露出計を外すためには、いったんビューファインダーを外す必要がある。露出計の土台の足の部分を、ビューファインダーが踏みつけているような格好になっているからだ。

まずはビューファインダーを外す

 セレンの出力を計ったところ、一応電力は出ているようだ。だが針が振れないところを見ると、どうもメーター側が壊れているらしい。いったん露出計全体を外してルーペで観察したところ、メーターのコイルから出ている微小な線が取れてしまっているようだ。

露出計をメーターレベルまで分解

 なんとか元通りにハンダ付けしようと試みたが、髪の毛よりも細い導線をつなぐのは、筆者の技術では無理だった。さすがにメーターそのものの修理は難しい。メーター部分だけ他のものと代用できないか試みたが、セレンからの出力が小さすぎて、現代のメーターではなかなか動かない。またサイズも微妙に合わないので、露出計は諦めて、マニュアル動作のカメラとして使うことにした。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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