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時計の本場スイスが最新トレンドで賑わう8日間
時計宝飾業界で最も有名な見本市

 毎年、日本列島に桜が咲きほこる季節に、夏時間を迎えたばかりのスイスで開催される世界最大級の国際時計宝飾展が“バーゼル・ワールド”である。初めてこのイベントの名を耳にする人もいるかもしれない。例えるならば、クルマのメーカーが多い日本では“東京モーターショウ”、ファッションの国フランスでは“パリ・コレクション”が有名であるが、これらと並び称される時計宝飾業界で最も有名な見本市が、時計王国スイスで開催されるバーゼル・ワールドだ。
 時計関係者や愛好家の間では、一般的にバーゼルフェアと呼ばれてきたが、正式名称はバーゼル・ワールド。その歴史は古く、1938年にはじまり、時計産業の歴史と歩みを揃えながら今年で69回目を迎えた。わずか29社から発祥した新作発表展示会だが、現在では東京ドームの4.5倍もあるビッグな敷地内に点在する各ホールが、世界44カ国から集まった出展総数2000社を超す時計や宝飾ブランドのブースで埋め尽される一大見本市に成長している。

バーゼル・ワールド01

 イベント中は出展関係者やサプライヤーをはじめ、メディアやディーラーなど、およそ10万人に迫る勢いで世界中から人々が押し寄せて大盛況となるのだから、この時期に世の中の関心がこの地に注がれるのもうなずける話だ。まるでオリンピックや万博のようなこのイベント期間中は、最新の時計や宝飾品を買い付けようと近隣ヨーロッパやアメリカ、中東にアジアからバイヤーが訪れるだけでなく、ダイヤモンドなどの宝石素材のトレードやハイテク技術に最新鋭工作機械の売込みなどが繰り広げられている。それだけに、会場の内外では国籍や人種を問わず、人々が時計や宝飾を通じて賑やかに楽しくコミュニケーションする光景が見受けられるのが平和の聖地のようで実に印象的である。近年は、ロシアや中国、インドからの来場者が増加しているそうで、世界の経済事情がうかがえるのもバーゼル・ワールドの特色のひとつだ。

バーゼル・ワールド02

 また、時計業界の関係者だけでなく、一般に開放されていることも、このフェアが世界的に親しまれている由縁だろう。入場料は、1日券が45スイスフラン(約4500円)、8日通し券で120スイスフラン(約1万2000円)と少し高額に感じるが、お目当てのブランドの新作がいち早く拝められることと、カタログなどの資料が頂戴できることもあってか、時計愛好家にとっては高価な入場料というイメージは薄いようだ。

 会場は時計館となっているメインホールをはじめ、ブルガリグループの独立会場やジュエリー館、さらに時計の工具やベルトなどのメーカーや宝石素材などを扱う業者が出展しているホールなどに分かれているが、いずれも1枚のパスさえ入手すれば各会場への出入りが可能である。しかし、この広い会場と膨大な数のブースをすべて見てまわるには最低でも3日は要するだろう。混雑を避けるのであれば、会期終了間近の休日明けが場内を動きまわりやすそうだ。

バーゼル・ワールド03

 いずれの会場にも一歩入れば、有名ブランドのブティックが立ち並んだかのような様相に目を奪われる。それは、8日間で取り壊されてしまうとは思えないほど立派なブースばかりだ。メインとなる時計に関していえば、超高級品から1本数千円の時計までを網羅したラインナップの広さがこの見本市の特長。この時期にバーゼルへ訪れれば、話題の画期的な超絶モデルを見られることや、またその年のトレンドが一目で分かるのが最大の魅力といえる。それだけに、メインホールの出入り口付近は常に人であふれていた。

 会場内外には世界中の時計に関する雑誌や書籍を集めたコーナーやメディアセンターもあり、文献を買うジャーナリストや独立時計師の姿なども見受けられる。また近隣ではアンティーク市なども開催され、ちょっとした時計のお祭り気分を味わえるのがバーゼル・ワールドの醍醐味だ。

バーゼル・ワールド04

 しかし、これだけの出展者と来場者が集結するため、この期間中は近隣の宿泊先を見つけるのが至難の業。バーゼル近郊では1年前から予約を締め切っているホテルは少なくないと言う。さらに、イベント期間中は宿泊費が3倍から4倍に跳ね上がる……。日本から毎年バーゼルに来ている関係者に聞けば「まるで正月料金の温泉旅館みたいですよ!」という。そのため、毎日1時間かけてチューリッヒやドイツ領から特急列車で通勤する人が少なくないそうだ。また、ここ数年で出展業社も急増しているため、いっぱいになったバーゼル会場にブースを構えることができないブランドは、近隣のホテルやギャラリーで展示会を行っているそうだ。

 それだけ、出展メーカーと各国のバイヤーにとっては、自社の商売の1年を占う意味において不可欠な商談の場であることは間違いない。また、ブランドのステータスを保つためにも連続出展は欠かせないのだろう。そして、確実なマーケティング知識と情報交換ができる場であることがこのイベントのキモといえるだろう。