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“解放”されたソーラー電波腕時計のデザイン

 先のページで紹介した通り、スタイリッシュなソーラー電波腕時計が続々と登場している現在だが、その背景にはどのような技術革新があったのだろうか?

もともとは“ソーラー電波”っぽさがオシャレだった

 “エコ・ドライブ電波時計”というネーミングのもと、ソーラー電波腕時計のラインアップをさまざまな世代に向けて展開するシチズン時計。同社は1989年に電波腕時計の開発に着手し、1996年には光発電と電波機能を搭載した腕時計を世界に先駆けて発売した。

 この“1996年モデル”を見て特徴的なのは、ケース左側に電波を受信するアンテナを収めた“出っ張り”があることだ。

 「当時のアンテナ部はまだケースには収まりきらなくて、それをふまえた上でデザインをする必要がありました。けれど同時にこの“出っ張り”は電波時計の証であり、デザインのシンボルだったんです」

 そう語るのは、同社で製品企画に携わるCB事業部チーフプランナー・前原浩文さん。ソーラー電波腕時計のデザインの遍歴を現場で体験してきた一人である。「電波腕時計がとりわけ好まれるのはドイツと日本。この1996年モデルから派生したシリーズは日本でも売れましたが、特にドイツで好評でした」

1996年のエコ・ドライブ電波モデル
“普通の腕時計”への変化
前原浩文さん(左)、佐々木美江さん(右)

 機能を象徴するデザインとして受け入れられていた“出っ張り”だが、アンテナ部の小型化がすすみ、2001年には文字盤の下にアンテナを内蔵したセラミックケースのエコ・ドライブ電波モデルが登場する。

 「当初は『電波時計なのに、こんな普通の見た目の時計にしちゃっていいの?』と議論が起こりましたが、その流れは結果的に主流になりましたし、その後のさらなるモジュールの小型化/薄型化でデザインの幅も飛躍的に広がっていきました。このモデルの登場が、ひとつのターニングポイントだったと思います」(前原さん)。また、電波受信モジュールの性能向上とともに、電波を通しづらいフルメタルケースの採用も2003年に実現。ソーラー電波腕時計は、より自然な見た目を手にしていく。

きれいな文字盤を生み出す秘密

 ソーラー電波時計では、電波受信モジュールの大きさ以外にも、ソーラーセルを搭載する文字盤のデザインが大きな課題となる。

 エコ・ドライブモデルの文字盤は、光発電するソーラーセルの上に光を通すプラスチック製の文字盤を重ねるが、これにより光の透過率は低下してしまう。初期のモデルでは十分な電力を確保するために、できるだけたくさんの光を通す文字盤を作る必要があったが、ソーラーセルの色が文字盤に透けてしまうなど、見た目の美しさと発電力の両立が難しかった。

 「白い文字盤を作ろうとしても、グレーになってしまったり……そういった制約のなかでデザインする必要がありました」と前原さんは当時を振り返る。

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 この問題を解決したのは時計の省エネ技術の進化だ。もともと電波を受信する分だけ消費電力が多いソーラー電波時計だが、モジュールの省電力化や電力を蓄える“2次電池”の進化により、より少ない光でも十分な発電力を確保できるようになった。そのため光の透過率が低い文字盤も使えるようになり、色合いや質感など、文字盤の表現は大幅に向上したという。

もはやデザインは“解放”されている

 こうした技術背景のもと、2004年から2005年にかけては、クロノグラフや多機能モデル、さらに小型な女性モデルなどが続々と登場。時計の中身であるムーブメントの種類も増えていった。「昔は、あるムーブメントが開発されて、『ではどんなデザインにしようか』という製作の流れでしたが、今は先にデザインがあって、『ではどのムーブメントを使おうか』ということができます」(CB事業部・佐々木美江さん)。デザインのアプローチは、もはや普通の時計と変わらないといえるほど自由になっているようだ。

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エコ・ドライブ電波時計のラインアップ

 とはいえ、進化の余地はまだ残っている。今後の課題は、プラスチック製の文字盤をコーティング技術などを用いて、いかに高級感や金属感のある見た目に仕上げていくかだ。

 “正確に時を刻み、止まらない”という、時計としては究極の機能を備えるソーラー電波時計。スタンダードなものからトレンドを取り入れたデザインコンシャスなものまで、今後もモデルが増加していくことは確実だ。自分を表現できる“こだわりの一品”を探しに、ぜひそのラインアップに目を通してほしい。

取材・文/+D Style編集部
取材協力/シチズン時計 http://citizen.jp/